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番外編その2 クラーケン討伐イベント……のはずが!?

ボンジリによる"クラーケンカレー配信"が始まったのと同時刻。

LEF内のとある山奥では、激しい戦闘が繰り広げられていた。



「神妙にお縄につけ! 我々"宵の明星"から逃げられるなどとは思わないことだッ!」



先陣を切って逃げるプレイヤーたちへと追撃をかけるのは、白いフルプレートアーマーに身を包む女騎士・エリフェス。

彼女がその華麗な槍捌きで次から次へと制圧していくプレイヤーたちは、LEF内での重大違反行為の一つであるRMTリアルマネートレードを組織的に行っているクランに所属する"犯罪者"たちだった。


LEF運営に雇われてゲーム仮想世界内の治安維持を任されているクラン・宵の明星は、この日、そのRMTクランの取引現場を摘発、そのまま制圧作戦へと移行していた。



「運営の(イヌ)めが、先走ったなッ! 特権に溺れて自らの実力を過信したらしいッ!」



RMTクランのリーダーの男が、すぐ後ろへと迫りつつあったエリフェスが孤立していることに気が付くと、不敵な笑みを浮かべる。



「野郎ども、今がチャンスだ! エリフェスを囲め! 所詮は"1 vs 1"で名を馳せてるだけのプレイヤーだ! 大人数で集中して叩けば恐れるに足らん!」



リーダーの掛け声に応じるように逃げていたプレイヤーたち──およそ二十名が一斉に迎撃の態勢を取る。



「逃亡は終わりか?」



立ち止まったエリフェスが、淡々と言う。



「大人しく自ら投降し、おまえたちがマスキングして隠しているプレイヤー情報を差し出して捜査に協力するというのであれば多少の恩情をかけてやれるが、どうする?」


「ヘッ……状況がわかってねぇのか? 自称最強プレイヤー、テメェはここでゲームオーバーなんだよッ!」



リーダーのその掛け声とともに。

牙を剥いたRMTクランメンバーたちが襲い掛かってくる。



「私が最強? とんだ思い違いだな」



エリフェスは一つため息をつくと、自らの持つ槍を頭上に掲げ、天高くへと青光りする雷スキルをピシャリと撃った。



「投降の意思がないなら、実力行使だ」



雷に続いて、空が輝いた。

無数の細かなプリズムに陽光が乱反射するかのように。



「ウッ!? なんだ、こりゃあ……!?」



そのあまりの光量に視界を塗り潰されたRMTクランのプレイヤーたちが、思わずその足を止める。

その直後のことだった。



──空から、無数の"光の杭"が降り注ぐ。



それはエリフェスの立つ場所を除いた周囲一帯へと、ほとんどすき間なく突き立った。

貫かれた敵集団は地面へと縫い留められる。

そして。



「な、んだコレは……!? 身動きが、取れねェ……!?」



RMTクランリーダーが、そして他のメンバーたちが。

一様にその表情を引きつらせる。

二十人いたその誰もが、光の杭に体を貫かれていてなお、一人もデスしていなかったのだ。

もはや戦うことも、逃げることも、一度死んでリスポーンすることも叶わない。



「やはり、何度見ても見事だなぁ……!」



目の前の光景を眺めつつ、エリフェスは満足げに鼻を鳴らした。


光の杭の正体を、もちろんエリフェスは知っている。

それは光属性エンチャントスキルの一つである"光束術"、アーチャージョブの上級スキル"(おおゆみ)"、そしてレジェンダリー武器の一つである"天弓・パーシュパタストラ"による分裂攻撃を組み合わせた技だ。


柔軟な思考力とLEFへの深い造詣があってこそ為せるその攻撃の使い手は──



「──エリフェスさん、合図、助かりましたわ」



エリフェスの後方から。

リンと鈴を転がすような涼やかな声が通る。

そうして現れたのは、高級感のあるサイバー系装備へと身を包み、見事な装飾の弓を持った一人の女性プレイヤーだ。

エリフェスは、その彼女の姿を見とめるなり、



「みっちゃん様ぁっ!!!」



1オクターブ高くなった声でそのプレイヤー──宵の明星クランのリーダー、みっちゃんへと駆け寄った。



「さすがはみっちゃん様ですっ! 素晴らしく精確な予測射撃でした! さすがは我らが宵の明星の最強プレイヤー!」


「エリフェスさんの献身のおかげです。雷スキルで位置を報せていただいたからできたことですよ」


「いえいえ、みっちゃん様の神の目あってこそかとっ!」


「神の目、って……私、ただの人間ですが」


「いいえみっちゃん様は神のような存在です! ご覧くださいっ! あの犯罪者どもの、頭を垂れた無様な姿を! みっちゃん様の清涼な神気に触れて、自らの愚かさに早くも改心し始めているのでしょう!」


「またエリフェスさんはそうやって大げさに──あっ」



腕時計を見たみっちゃんは、ハッとする。

その表情には焦燥感からか少し青ざめていた。



「もうこんな時間……! 早く行かないと、始まってしまいますわ……!」


「みっちゃん様っ? もしや何か、他に急ぎのお仕事がっ?」


「い、いえ。仕事というわけではないのですが……」



そうは言いつつも。

みっちゃんの表情は晴れず、思い悩んでいるようだ。


……みっちゃん様に、そんな顔させたくないっ!

エリフェスはヘルムを脱いで素顔をあらわにすると、その決意の瞳でみっちゃんと視線を合わせた。



「行ってください、みっちゃん様」


「えっ? エリフェスさん……?」


「コイツらの連行と、後の手続きや残党狩りはお任せを。みっちゃん様は、みっちゃん様にしかできないことをご優先ください」



そう言って背中を押すエリフェスへと。

みっちゃんは少し悩んでいた様子だったが、やがてコクリと頷いた。



「ありがとうございます、エリフェスさん。この埋め合わせは、どこかで必ずっ」


「お気にせず。いってらっしゃいませ、みっちゃん様!」



まだ少し申し訳なさそうにログアウトするみっちゃんを、エリフェスは「役に立ててよかった」と満足げに見送るのだった。




* * *




「──戻ってきましたわっ!」



LEFのみっちゃんアカウントからログアウトし、VRヘッドギアを脱いだ光子は、さっそく自室のPCの電源を入れると、予約設定していた動画配信を開いた。

すでに開始されている配信からは、賑やかな声が聞こえてくる。



『なんでクラーケン戦の前からダメージ負ってるんッ!?』


『でもLEFの中なら火傷しながらでもちゃんと味わえる! ん~~~! これは何とも、何とも……美味しいカレーです!』


『火傷してまでやった食レポが相変わらず下手ッ!!! ってか、配信初っ端から段取りがもう滅茶苦茶やぁっ!!!』



配信内で元気そうに動くカイを見て、光子はホッと息をついた。



「間に合いましたわ……この人はいつもソロプレイですから、捕捉し辛くて困るんですのよね。彼を配信に映してくれるボンジリさんには課金で感謝を表明しませんと……!」



光子は満面の笑みで、5万円分の赤スパを投げるのだった。




* * *




クラーケン討伐船。

その先端へともたれかかり船体を大きく傾けさせたのは、吸盤の付いた巨大な赤茶色の触腕だった。



「あ、現れたでぇっ! あれがクラーケンやっ!」



ボンジリさんが指をさす。

それとほとんど同時に、船の後方にいた他のプレイヤーたちが一気に動き出した。

武器を掲げ、クラーケンの触腕へ我先にと飛び掛かっていく。



──クラーケン討伐イベント。これはレイド戦だ。



同じ討伐船へと乗り合わせたプレイヤーたちで船を沈められないように協力し合い、巨大なクラーケンを討伐(海へと追い返す)ことが目的となる。



「よっしゃ、カイくん! 俺たちも乗り遅れんように攻撃を始めるでぇ!」



愛用のリンゴ飴ハンマーを担ぎ、ボンジリさんもまたクラーケンへと駆け寄ろうとした……のだが。



「ちょっと待って!」



俺は、思わずそれを止めていた。

なにか……大きな違和感がある。



「どうしたカイくんっ? ボーッとしとったらダメージ報酬が少なくなってまうでっ?」


「……クラーケンって、確か船を沈めるためにデカいイカボディで覆いかぶさってこようとするんですよね? なのにどうして触腕以外の姿を現さないんだろう……?」


「ん? 言われてみたらまあ、確かに……」



そうして、俺たちが甲板の後ろの方で戸惑っていた、その時だった。

ドンッ! と強い衝撃。

船体が大きく揺れる。

それとともに、船の前方へと詰め寄っていた冒険者たちが、一気に甲板の後ろの方まで弾き飛ばされて大きなダメージを負ったようだった。



「なっ、なんやぁっ?!」


「ボンジリさん、正面! クラーケンの触腕の後ろ、見てください!」



船の先端、その海面が盛り上がる。

そうして俺たちの前に姿を現したのは、巨大なイカの怪物であるクラーケン……その頭へとワニのようなアゴで噛みついた、エビやカニ、シャコの骨格をマネて作ったような六本の腕を持つ巨大生物。



>なんだコイツ!?

>ヤベーやつきた!

>リヴァイアサンだ!

>リヴァイアサンって?

>神話の怪物!

>クラーケン討伐イベントに低確率で出てくるヤツ!



視界の片隅に、一気にコメントが流れていく。



「リヴァイアサンって……ウソやろっ? 発生確率5%のレアイベやんけっ!?」


「おお! ラッキーってことですねっ?」


「運が良いと思うか悪いと思うかはその人しだいや……なにせ、クリア後のイベント報酬で、クラーケン素材に加えてリヴァイアサン素材まで手に入る。その代わりに、イベント内容がレイド戦から高難易度の"サイバイバル戦"に変わるんやからな!」


「サバイバル戦、って?」


「このイベントは、リヴァイアサンの攻撃から一定時間生き延びることでクリアになる。つまり、みんながレイド戦を想定して揃えてきとる火力装備が、全て裏目に出とるっちゅーことや!」



ボンジリさんは頭を抱えため息をつきつつも、すぐに気を取り直したようにハンマーを構えた。



「生存率10%未満の高難易度イベント……どこまでいけるかわからんけども、配信者として最初っから諦めるわけにもいかん。カイくん、とにかく、できるだけ頑張るで!」


「はいっ!!! ぜひ最後まで生き残りましょうッ!!!」


「お、おおっ? えらい前向きやな……?」


「だって最高じゃないですか……!」


「えっ?」


「だって伝説の海の怪物クラーケンと神話の怪物リヴァイアサン、両方の具材が入ったカレーを食べられるってことでしょうっ!?」


ここまでお読みいただきありがとうございます。

続きのお話『番外編その3 海の怪物カレー!』は明日公開予定です。


コミカライズ版の方も配信中!

ぜひ、無料の試し読みからでもご覧いただければ幸いです。

https://booklive.jp/product/index/title_id/20182575/vol_no/001


それでは、引き続き本作をよろしくお願いいたします!

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コミカライズ連載決定!6/3(水)~

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― 新着の感想 ―
ボンジリさん、予定が狂いまくって大変そう これも全てカイ君と関わってしまったせい その分、撮れ高は良さそうだから頑張って(笑)
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