番外編その1 ボンジリさんと料理配信、再び
本日からコミカライズ連載が始まってます!
その記念に番外編を書きました。
楽しんでいただけたら幸いです。
コミカライズ版第1話~第3話は以下のブックライブ様で配信中!
https://booklive.jp/product/index/title_id/20182575/vol_no/001
──Luminous Epic Frontier。
通称LEFと呼ばれるこのゲーム内には、季節の概念はほとんどない。
とはいえ現実世界では夏休みの真っ最中。
そんな時期に潮風と波音を聞けば、いやでも夏の気分になるというものだった。
「ボンジリさん、この辺りのビーチに海の家とかないんですかね?」
「どうやろなぁ? LEFの世界観は西洋ファンタジーやし、無いんと違うかな」
大陸北部にあるスコッティア共和国、その海上にて。
俺──カイは迷いの森以来、久しぶりに会ったLEF配信者であるボンジリさんと共に、甲板の上から、遠くなっていく漁港を眺めていた。
なぜ、海に出ているのか?
その理由は至極簡単なもの。
ボンジリ
『クラーケンの触手がな、バリ美味いらしいねん』
そんなチャットを受け取ってしまったら、食してみたくなるのが人の性。
ぜひともクラーケン素材で"シーフードカレー"を作りたい……!
その一心で、躍り出す心と体のままに、クラーケンが出現したという大陸北部まで駆けつけたのだ。
「それにしても良かったわ、カイくんがまた来てくれて」
ボンジリさんは、以前と同じ快活そうな笑みで肩を叩いてくる。
「この前の迷いの森配信で、俺のチャンネル登録者がありがたいことに爆増したんやけども、みんなまたカイくんとのカレー配信が見たいっちゅーて聞かへんかったんや」
「なるほど。それで今日はこの"クラーケン素材でカレーを作ってみる"の配信に招かれたってことですね?」
「ま、そういうことやな。今日も美味いカレーをよろしく頼むで」
俺はもちろんと頷いた。
ギブ&テイクは世の常。
今、俺たちが乗っているこの"クラーケン討伐帆船"、これは誰でも乗れるわけではない。
特定イベントを消化することで獲得できる乗船チケットが必要だったのだが、それをボンジリさんに融通してもらっている。
だから今回はその代価としての配信への協力だ。
「しかしまさか、あのカレー配信がそこまで人気を博すなんて、さすがはカレー! やっぱりカレーはみんなを虜にする至高の料理ってことかぁ……」
「まあカレーのことをみんな好きなんはそうやけども、それ以上に今回の人気は、カレーを作ってる時のジブンがオモロイからやねんで?」
「うん。自分でカレーを作るのはめっちゃオモロイですよ。で、どうしますっ? さっそく作り始めちゃうっ?」
「あー、ちゃうちゃう、"ジブン"も"オモロイ"も関西弁やとそういう意味やのーて……って、まあええわ。そろそろ時間やから、配信始めんで?」
ボンジリさんは何か説明を諦めたかと思うと、さっそくカメラの設定をするためだろう、半透明の画面を開いて何やら操作をし始めた。
「ポチポチ、ポチッとな……よしっ! これで配信開始されたはずや。みんな見えてるかなー?」
>こんジリ!
>こんジリ~!
>初見です。ウワサのカレー回と聞いて
>見えてるぞー
>こんジリ!
「ほいほい、こんジリやで! みんなコメントありがとうな。初見さんもいらっしゃい。声は聞こえてる? 波音とか風音はうるさくない?」
>だいじょぶ
>OK!
>聞こえるー!
「よっしゃよっしゃ。ほんならさっそくやってこか! 今日はみんな待望のカレー回やでぇ!」
どうやら無事配信は始まったらしい。
配信設定を共有しているからだろう、俺の視界の片隅にもボンジリさんのチャンネル宛に届いたコメントの数々が、下から上へと流れていく。
「今日はみんなお待ちかね、カイくんとのコラボ配信やで!」
>おお~! 久しぶり!
>カレー魔人、再び!
>後ろにいるのがカイだよね?
>座り込んで何してんの?
>何かやってるみたいだ
>何か、っていうか……
「今日はカイくんとクラーケンを討伐しにいくで! それから最後にその素材を活かしたシーフドカレーをカイくんに作ってもろて、食レポや! みんな楽しみにしといてなぁっ!」
>ん? あれ?
>クラーケン討伐?
>今から?
>もうその素材、手に入れてるんじゃないの?
「……? いや、素材はこれから取りに行くところやけど。だってまだ俺たち船に乗ったところやし……なんでそないなこと聞くん?」
>いや、後ろ……
>カイくん、もうなんか煮詰めてね?
>グツグツいってる
「グ、グツグツ……? そう言えば確かになんか、波音以外のノイズが……って、あれぇっ!? カイくんが、甲板でもうカレー作り始めとるぅっ!?!?!?」
ボンジリさんが振り返るなり、突然奇声を発し始めた。
「なっ、なんでっ? なんでもうカレー作っとんのっ?」
「え、俺さっき作り始めるって言いませんでしたっけ?」
「えっ、言ってたっ? 言ってたかぁ……?」
言った気がするけど……。
……あれ?
そういえば『作り始めちゃう?』って聞いたけど、返事がなかったから作り始めちゃったんだっけ?
ボンジリさんは腕組みして「うーん」と唸りつつ、
「いやでも、普通に考えて料理配信は陸地戻ってからやろ。こんな揺れる場所でカレーなんて作るもんちゃうでっ?」
「あ、ボンジリさん酔っちゃう人……? 俺は割と大丈夫なほうだけど」
「船酔いの心配してるんちゃうねん! 鍋からカレーがこぼれる方を心配しとんねん!」
「あ、それは大丈夫。作った端から食べるからっ! いただきますっ!」
「あ、アホちん! そんなグツグツしてるカレー喰うたら……!」
「アッツッ!!!」
★
体力:83 / 85
★
「なんでクラーケン戦の前からダメージ負ってるんッ!?」
「でもLEFの中なら火傷しながらでもちゃんと味わえる! ん~~~! これは何とも、何とも……美味しいカレーです!」
「火傷してまでやった食レポが相変わらず下手ッ!!! ってか、配信初っ端から段取りがもう滅茶苦茶やぁっ!!!」
ボンジリさんが悲鳴にも似た声を上げた。
あれ……。
もしかして俺、配信の邪魔をしてしまってる?
パクリ。
気まずいが、今日もカレーはやたら美味い。
>さっそくカレー喰ってるw
>初ダメがカレーは草
>相変わらず仲良いね
「おおっ、ボンジリさん! 視聴者さん的には意外と好評みたいだよっ?」
「いやいや、そんなわけ……」
>\50,000 美味しくカレーを食べてくださいましっ!
>クラーケン討伐は建前ですね、わかります
>知ってたwww
>カイが来る時点で配信メインはカレーだもんな
>カレー漫才始まってて草
>ボンジリは振り回されてるのが似合うよ
>ボンジリもカレー喰え!
「ホンマやぁっ! ホンマに好評やぁっ! こんなにグダグダなのに、赤スパまで入れてもらてるのはなんでやねんっ!」
ボンジリさんは少しの間、頭を抱えていたが……。
一つ深呼吸してすぐに立ち直ったかと思うと、俺の隣へとやってくる。
「まあ、ええわ。スパチャありがとう! 段取りとは全然違うけど、このやり取りで喜んでもらえるっちゅーんなら……やったるわ! 視聴者に求められるモンをお届けするのが配信者の務めやからなっ! カイくん、俺にもカレーもらえるかっ?」
「おお、さすが配信者……! もちろんです!」
俺は張り切ってカレーを皿へとよそうと、ボンジリさんへと手渡した。
「それにしたってカイくん、今回は何カレーなんや? 俺たちまだ出航したばかりでなんも素材持っとらんはずやけど……もしかして、海の家にありがちな具無しカレーでも作ったんかっ?」
「いやいや、そんな手抜きはしませんとも。ちゃーんと、この船に付いてたフジツボとか謎海藻とか入れてますよ!」
「フジツボォッ?! 謎海藻っ!?」
「あと落ちてた貝とか」
「ア、アホちーんっ! 拾いモンでカレー作るやつがどこに──……いや、うん……。ここに、おるなぁ……モンスター素材で手当たり次第にカレーを作る子やもんなぁ……」
ボンジリさんは、途中で何かを悟ったかのように静かになると、大きなため息をつく。
>ドンマイ、ボンジリw
>常識人ボンジリが苦労してて草
>拾い物でカレーを作るというパワーワードw
コメント欄も、一様にボンジリさんへと同情するような声が多い。
「そんなおかしなことかな? これが現実世界なら落ちてる食材で作るのがマズいというのもわかるけど、ここゲームだし……衛生的には何も問題ないよ。安心して?」
>やっぱズレてんだよなぁ……
>カレーにすれば何でも喰えると思ってる?
>フジツボはナイって!
>背筋ゾゾッとするわ!
「えぇ……ただのシーフードなのに……」
「カイくん、フジツボを見て真っ先にシーフードって感想が出てくる人間はたぶん、少数派なんやで……」
緊張のためにか、ボンジリさんはゴクリと喉を慣らしつつカレー皿を見る。
「モンスターのカレーを食べるんとはまたちょっと違う勇気がいるな、コレ……でもまあ、思い切ってひと口や! いただきます!」
スプーンでたっぷりとフジツボの身を掬うと、一気に口元へと運ぶ。
ためらいなく咀嚼し、そして……。
「……お、おおっ……? 美味い……!」
ボンジリさんは、あぜんとしたように目を見開いた。
「思った以上にシーフードカレーやで、コレ……!?」
>うそっ!?
>貝ばっかで苦くない?
>海藻とカレーとか合わないだろ
「いや、そんなことないで! 海藻はシャクシャクコリコリ食感を生み出していてオモロイし、磯臭さみたいなんはカレーの香りに負けてて全然ない! ほんで、それだけやない……!」
バッ、と。
ボンジリさんは弾かれたようにこちらを向いてくる。
「カイくん、このカレーに他に何か入れてるんと違うかっ? 明らかに貝の味だけと違う……濃厚な旨味を感じるんやけどもっ?」
「ああ、フジツボじゃないかな? その旨味は俺も気になってさっき調べてみたんだけど……フジツボって実は貝類じゃなくて甲殻類で、エビとかカニとかの仲間らしいよ。味もそれに似てるらしい」
「ホンマにっ!? 道理でシーフード感たっぷりなワケやで!」
そう言って、ボンジリさんは残りのカレーを口へとかき込むと、思い切り肩を組んできて、おそらくカメラがあるのだろう位置へ向かってピースサイン。
「ってなわけで、本日最初のカイくん特製"フジツボカレー"は大成功や! みんなも海辺に来ることがあったらやってみぃ!」
>\10,000 乙カレー
>\3,000 ナイスカレー
>\1,500 クラーケンカレーも楽しみ
>フジツボ、味気になってきた
>見るだけで十分www
>シュリンプカレーみたいなもんかな
>ゲテモノチャレンジ配信はここですか?
まるで川の急流のように、一気にコメントが溢れ返る。
ボンジリさんの配信の同時接続数を見ると、その数字はどんどんと大きくなり、すでに5,000人を突破しようというところまでやってきていた。
「良い調子や、さすがはカイくん効果! さあ次はどんなカレーを作る? カイくんなら、この船の操舵輪すらも煮込んでカレーの具材にしそうで楽しみやなぁ!」
「いや、さすがに無機物はちょっと……ん?」
船がわずかに、これまでとは違ったおかしな揺れ方をする。
その直後だった。
──グラッ! と。
ゆりかごのように、船が大きく後ろに傾いた。
「うおっ! これはっ……!?」
俺とボンジリさんは、甲板にしがみつきながら傾斜を見下ろした。
そこにあったのは。
船の先端にしがみつくようにして絡みつく、巨大な赤茶色の触手だった。
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番外編をここまでお読みいただきありがとうございます。
続きのお話『番外編その2 クラーケン討伐イベント……のはずが!?』は明日公開予定です。
コミカライズ版の方もぜひよろしくお願いいたします!
https://booklive.jp/product/index/title_id/20182575/vol_no/001
ついカレーが食べたくなってしまう、そんな作品になっております!
ぜひ、無料の試し読みからでもご覧いただければ幸いです。




