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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 六百九十五話 信頼と覚悟

 策があるから手を貸せと、ルチアーノは自信に満ちたとまではいかないまでも、どこか頼もしさを感じる表情で言ってくる。そこに、どんな心境の変化があったのかは解らない。それでも、直前で二度も助けられたアレルは何も聞かずに口角を上げる。


「解った、それで俺は何をすれば良い?」


「何をって······私が、何を思い付いたのか気にはならないんですか?」


「あ? 気にならない訳じゃない。けれど、何か吹っ切れたみたいな顔見せられれば、背中を預けるには充分な理由になる」


 そう、これまでのどこか自信無さげなルチアーノだったならアレルは策があると言われても耳すら傾けなかったかもしれない。だが、今のルチアーノの目からは何かしら確信めいたものを風詠(かぜよみ)を通してアレルは感じている。

 つまりは、直前のガロン達との戦闘を遠巻きに見ていて何か糸口でも掴んだのだろうとアレルは考える。


「全部話さなくて良い、アイツ等にも聞こえるかもしれないからな。だから、俺がやる事だけを教えてくれ」


 そう言うと、信頼の丸投げをされたみたいに感じたのか、ルチアーノは一瞬だけ息を詰まらせてからアレルへ返してくる。


「──ッ、正気ですか? 成功するかも判らないのに、全てを聞かずに済ませるなんて!?」


「ああ、今さっきわざと怒らせて不和を狙ってみたけれど、連中を倒す決定打にはなり得なかった。それどころか、今は互いに意思疎通(いしそつう)し合って同じ手が使えない様に対策してるみたいだ。そうなると、連中の連携を真っ向から突き崩さないといけないんだから、信頼を預けるくらい当然の事だろ?」


 ガロン達を見ると、互いに負傷した事もあって反省でもしたのか、先程まであった軋轢(あつれき)の様なものを水に流したみたいに二人共落ち着いてしまっている。ただ、それでも自身に向けられている殺意だけは変わらず感じているので、アレルは(みずか)らが攻撃を引き付ける役割をするならば大歓迎だと思う。

 そんなアレルの意図を理解したかは判らないが、ルチアーノは一瞬だけ躊躇(ためら)いの様なものを顔に出すも、直ぐに何かを決心したみたいに(うなず)きを返してくる。


「······解りました。立場を踏まえるならば、アレル様を危険に(さら)す事なんて(もっ)ての(ほか)なんですが、現状を打開する為に私も腹を(くく)ります」


「んで、何をどうする?」


 ルチアーノの口振りから、ガロン達から憎悪(ぞうお)を向けられている自身を前衛にする事に躊躇(ためら)いがあったのだろうとアレルは思う。しかしながら、腹を(くく)ると口にした以上は半端な事なんて頼まないだろうとアレルも覚悟を改める。


「では、アレル様にはどうにかしてガロンに詠唱魔法を撃たせて頂きたいんです」


「······アイツ、ここまでで大分(だいぶ)魔力を使っているだろ? まだ、使えるのか?」


 アレルは、小声で口元を隠しながら話すルチアーノに合わせて自身もそれに(なら)う。


「ええ、一見直情型に見えますが、先程アレル様を襲った際にその攻撃には正確性が残ってました。なので、ああいう性格の者はいざという時の為に奥の手を残しているものです。逆に、真に直情型の弟の方は狙いが定まっていませんでしたから」


 言われてみれば、確かにガロンの攻撃は正確にこちらを(とら)えてきていたが、ベイトはガロンの魔法を打ち消したりガロンの背中へ(おもり)を打ち込んだりしていた。

 アレルは、風詠(かぜよみ)でガロン達の感情は読み取っていたが、そういう行動に表れている部分を見逃してしまっていた。なまじ便利な分、頼りきりにしていると変な所で足をすくわれるなと、アレルは使い慣れていない事での弊害(へいがい)をルチアーノに思い知らされる。


「方法はお任せします。それで、ガロンが詠唱を(とな)え始めたら退()いて下さい。その後は、私が役目を果たしますので。ただ······あの、本当に詳細を聞かなくても良いんですか?」


「ああ、俺の方は万策(ばんさく)尽きたって訳でもないけど、妙案(みょうあん)とも思えない策しか残ってないからな。だから、今は妙案(みょうあん)を思いついたルチアーノの手駒でいてやるのが俺の役目だろうし」


「役目······ですか。······実は、同期の中でも私は投げナイフが得意だったんですよ。あなたの言葉で、それを思い出せました」


 何故か、不意にルチアーノは関係の無さそうな事を口にしてくる。それに、首を傾げるアレルだったが風詠(かぜよみ)からはどこか穏やかな感情が伝わってきたので、ルチアーノにとっては良い方向に働いたんだろうと気に留めない事にした。


「一応()くけど、それ今関係あるのか?」


「いえ······ただの感傷です。それでは、お願いします」


「ああ······任せろ」


 そう(こた)えて、アレルは即座にガロン達への間合いを詰めに走り出す。駆け出しと共に、左手でソードクラッシャーを逆手に抜きつつ、まずは厄介な流星錘(りゅうせいすい)を持つベイトへ狙いを定める。

 これまで、こちらから仕掛ける事が少なかった為か、アレルの動きに一瞬反応が遅れたガロン達は慌てて迎撃体勢を取ってくる。当然、流星錘(りゅうせいすい)を回していなかったベイトは後方へ下がって距離を(かせ)ごうとするが、アレルが投げたナイフで傷付いた右太腿(ふともも)の痛みで思う様に動けないみたいに僅かにふらつく。


「させるかよっ!」


 すると、ガロンの方が(てのひら)をアレルへと向けて魔法を(はな)とうとしてくる。こちらは、当たりどころが良かったのか、ベイトが直前で威力を弱める事が出来たのか判らないが、ガロンは先程の負傷で支障が無いみたいな動きをしてくる。

 しかし、(てのひら)を向けられたアレルは急停止と方向転換を同時に行い、狙いをベイトからガロンへと変更する。


「クソがっ!」


 そんなアレルに対して、悪態をつくガロンは魔法を放つのを諦めてダガーを構えてくる。その反応に、アレルはルチアーノが言う様に詠唱魔法の為に魔力を温存しているのかもしれないと感じる。

 そこへ、アレルは先手必勝とばかりに体重と間合いを詰める際の速度を乗せた一撃をソードクラッシャーで放つ。逆手で、ガロンの右肩から斜めに振り下ろすみたいに振るった刃は残念ながらガロンに防がれてしまうも、その威力を殺しきれないガロンがたたらを踏む間にアレルはガロンの背中側へ回り込む。


「この野郎ッ!」


 そうして背後を取られたガロンを守る為に、ベイトが流星錘(りゅうせいすい)(おもり)を横からガロンを迂回(うかい)するみたいに投擲(とうてき)してくる。しかし、迂回(うかい)で飛翔距離が伸びた(おもり)は真っ直ぐ放たれた時よりも到達が遅く、アレルは身体を後方に()らせるだけで容易(たやす)く避ける。


「──クッ」


 だが、身体を()らしたのが良くなかったのか、アレルは負傷した左肩からの痛みで次の動作が遅れてしまう。そこを、ふり返ったガロンにダガーで攻撃されるも、アレルも痛みを感じない右手のダガーでこれを受け止める。

 ここで、アレルはソードクラッシャーに関して何かを守る為にしか使わないと決めているが、それを知らないガロン達には牽制(けんせい)になるだろうと逆手から順手に持ち替える。それに、ガロンは慌てて左手の(てのひら)を向けてくるも何故か歯()みして魔法を使ってはこない。やはり、ルチアーノの見立て通りに魔力の残量が少なく残りを詠唱魔法へと温存しているのだろうとアレルが思っていると、不意にガロンがニヤリと笑みを浮かべてアレルを回り込む様にダガー同士を()り合わせたまま立ち位置をズラしてくる。

 ただ、(てのひら)はアレルへ向けたままなので、こちらが魔法への対処にソードクラッシャーを温存していると、中々攻撃しない事で勘違いしたみたいだとアレルは感じる。しかしながら、そのまま立ち位置を変えられるとベイトから(おもり)を放たれてしまうので、アレルはチラリとベイトの方を確認する。

 すると、ベイトも少し移動して自身を狙える位置に立っているのに気付いたアレルは、ソードクラッシャーを僅かに引いてガロンへ腹を刺そうとする動作に見せかける。それで、臆した様子のガロンはダガーを引いてアレルから離れようとし、その瞬間にガロンを逃がす為かベイトから(おもり)が放たれる。直後、風詠(かぜよみ)でベイトの攻撃を読んでいたアレルは、ガロンへ回し()りをお見舞いして自身と迫る(おもり)との間に()り飛ばして盾にする。


「ック!? こんのッ──!?」


 それでも、ガロンへ(おもり)が当たる直前で慌ててベイトが縄を引いたのでアレルの狙いは失敗するも、それが(しゃく)だったのでアレルは更にガロンの腹部を蹴り飛ばして一旦(いったん)仕切り直しとする。アレルもだが、ガロン達も負傷したせいで思った様に身体を動かせないみたいで、どこか先程よりも動きが鈍い。そのお陰か、一人でもどうにかやり合えている感触があるとアレルは感じる。

 ただ、ここから何をどうやってガロンに詠唱魔法を使わせるかなと、アレルはその方法を模索(もさく)し始める。



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