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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 六百九十四話 敵意を操作して

 実際、冷静さを失わせるのはそれなりに良い考えだとアレルは思う。冷静さを欠けば、攻撃は単調になり回避もしやすくなるし、連携だって段々と噛み合わなくなる可能性もある。

 そもそも、一番厄介なのがガロンの魔法でもベイトの流星錘(りゅうせいすい)でもなく、その双子ならではの素早い連携の(たく)みさにある。それも、会話での打ち合わせなしに、その場で臨機応変(りんきおうへん)にやり取りして変更出来るという優位性も兼ね備えている。その言葉が()らないという点において、こちらへ狙いを悟らせないという意味ではかなりの隠蔽(いんぺい)性を誇っており、アレルがルチアーノに比べて反応が早いのも風詠(かぜよみ)で僅かに攻撃の気配を感じ取れているからに過ぎない。

 なので、アレルはその連携こそをどうにか打ち崩せないかと苦心する。それが完全でなくとも、せめて攻撃を仕掛ける為の機先(きせん)にでもなれば何でも良いとさえ思う。


「あの、まず私が仕掛けますので、その後はアレル様が好きに状況を()き回して下さい。私の事は、気にしなくて構わないので」


 そこへ、ルチアーノがガロン達に聞こえない様な声量で話し掛けてくる。その提案に、一応そういう動きをした場合を想定して、どうなるかをアレルは考えてはみるものの効果的ではないと判断する。


「却下だ。防具の無いルチアーノでは、流星錘(りゅうせいすい)を防げない。それに、防具で身を固めているならまだしも、今の装備で何で自分から盾になりに行こうとするんだよ。······責任感が強いのも良いけど、今の自分に出来る役割を探してくれ。自分がやりたい役割じゃなくて、自分だからこそ出来る役割をさ」


「その言葉は······!?」


 どういう理由があるのかは解らない。それでも、アレルが口にした言葉の中に何か思う所があったのか、ルチアーノは言葉を失って呆然(ぼうぜん)としてしまう。

 流石(さすが)に、現状でそんな風に棒立ちされるのは危険極まりないのだが、早まってガロン達へ特攻されるよりかはマシかとアレルは思う。しかし、そんなルチアーノを狙われても面倒なので、アレルはガロン達の狙いを更に自身へ絞らせようと考える。


「なあ、秘密の作戦会議をしている所悪いんだけど、一つ()いても良いかな?」


 アレルの呑気(のんき)な声掛けに、既に怒り心頭のガロンは何とか怒りを抑えようとしているみたいだが、抑えきれない感情が表情へと(にじ)んでいる。一方で、そんなガロンの怒りを(かたわ)らで見ているからか、ベイトの方は逆に冷静になってしまっているみたいだった。

 人の怒る様を目にすると、変に冷静になってしまう事があると言うが、ベイトが丁度そんな感じになっているのをアレルはどうにかしようと考える。しかし、これでベイト一人を怒らせても今度はガロンの方が冷静になってしまう可能性が出てくる。その辺りが、二人で上手く均整を取ってくる実に兄弟らしくて面倒臭い部分だなとアレルは感じる。

 なので、アレルはガロンとベイトの双方を同時に怒らせる事の出来る話題を選択する。


「さっき、やたらと顔に傷を付けられた事を気にしていたけどさ······お前等、もしかして兄弟でデキてんの?」


 瞬間、場が一瞬にして凍りつくのをその場の誰もが感じただろう。しかし、そんな空気を読まずにアレルは明らかにふざけているのが一目で判る様に続ける。


「いや、人様の恋愛に口出す気はないけどさぁ、そりゃあ怒るよな? 大切な人の顔を傷付けられればさ」


 そこへ、今までにない速さと重さで流星錘(りゅうせいすい)(おもり)が風を切りながらアレルへ投擲(とうてき)される。だが、風を切る分だけアレルには風詠(かぜよみ)で軌道が伝わり、わざわざ武器で防御もする事なくさらりと(かわ)す。


「黙りやがれッ! オレと兄貴は、そんなんじゃねぇぞッ!!」


「オイッ! 勝手に動くんじゃねえ!」


 すると、案の定ガロンの方がベイトの反応を見て冷静さを取り戻しつつあったので、アレルは標的を変更する。


「ハハッ、勝手に動くなとか言ってるけど、(すげ)え支配欲が強いよな。そのくせ、自分と同じ顔を()でるなんて······どんだけ自分大好きなんですかぁ? オエェェ」


「──んのッ!! 風掌(エア・パルマ)ッ!」


 怒りに肩を震わせたガロンは魔法を(はな)ってくるが、それに僅かに遅れて(はな)たれたベイトの(おもり)が魔法に追いつき、風の(かたまり)を霧散させた()()投げた(おもり)もその勢いを失う。その直後に、双子らしく同時に舌打ちを重ねると、ガロンとベイトは互いに(にら)み合う。


「おいコラッ! テメェ、俺の指示が無い限り勝手に動くなっつてんだろがっ!」


「ふざけんなっ! 兄貴こそ、アイツはオレの獲物だって言っただろ? それに、兄貴の魔法はトロ臭いんだよっ!」


 確かに、ガロンの魔法は魔法名を口にする最も低位の魔法の為に効果も低ければ速度も遅い。それ故に、魔法が目に見えているアレルならば両断するのにそれ程苦労はしない。

 ただ、目の前で兄弟喧嘩(げんか)の様な感じになってきたので、しめたと思ったアレルは更に揺さぶりを掛ける。


「ああ、そうだな。上から物言ったり、問答無用で言う事聞かせるくせに自分が大した事ないんだからな。基本的に、接近戦なんかしないで魔法で攻撃してくる臆病者だしな」


「テメェッ!! ナメんのも、大概(たいがい)にしろやぁッ!!」


 それで遂に、ガロンがブチキレてアレルへ向かってダガー片手に突っ込んでくる。逆手で握ったダガーを、アレルから見て左肩から右腰にかけてガロンは振り下ろしてくるも、大振り過ぎなのでアレルは少し後ろへ下がる事でそれを避ける。続けて、ガロンは振り下ろしたダガーをアレルの鳩尾(みぞおち)辺りに狙いを定めて突き上げてくる。それをアレルは、ソードクラッシャーで自身の左側へと流す様に弾く。

 すると、ガロンはアレルの左側へとたたらを踏んだので、アレルはその背中を()ってガロンを転ばせようとする。しかし、ガロンも転びはしないように踏ん張るので、その間にアレルはベイトへ視線を向ける。


「そっちも、兄貴の背中に隠れてるのは楽で良いよな? でも、そんな風に守られてないと攻撃も出来ない、指示がないと動けないなんて操り人形みたいでつまらねえなぁ。······もしかして、夜だとお前の方が受けなのか?」


「フザ──ケっ!? ぶっ殺してやんよぉッ!!」


 ベイトの反応に、やはり頭に血が(のぼ)りやすい兄弟だなとアレルは感じる。それでも、アレルは抜け目なく、ベイトが攻撃に移る前の(おもり)を振り回す予備動作の間に、ガロンを盾にする様な位置へとさりげなく移動する。

 直後、アレルに()り飛ばされて崩れた体勢を整えたガロンが、視界に入ったアレルへダガーを斬りつけようとしてくる。


「「死ねぇぇぇぇ!!」」


 兄弟仲良く、そう叫んでアレルへと攻撃を繰り出してきたものの、ガロンのダガーがアレルへ届く寸前にそのガロンの背中へベイトが(はな)った(おもり)が直撃してしまう。しかも、ガロンはその衝撃で手にしていたダガーを取り落とす。

 更に、そうして兄を攻撃してしまった事で身体を硬直させたベイトに対して、アレルは即座にソードクラッシャーを鞘に納めた左手で投げナイフを手にしてベイトの下肢(かし)投擲(とうてき)する。そうして、回転しなから飛んでいったナイフは、見事にベイトの右太腿(ふともも)へと突き刺さる。

 だがしかし、策が上手く(はま)った事で油断していたアレルは、(おもり)の一撃を()らったガロンが立ち直った事に気付くのが遅れる。


「このクソ野郎がぁ!!」


 身体の痛みに耐えるみたいに、苦悶(くもん)に満ちた表情をしながらもガロンは叫ぶ事で自らを(ふる)い立たせアレルへ上段()りを放ってくる。それを、アレルは何も持っていない左腕の篭手(こて)で受ける事が間に合うも()り飛ばされてしまい、先程運良く落とさせたダガーをガロンに拾われてしまう。


(エア)──」


 更に、ガロンはアレルへ追撃で魔法を放とうとしてくるが、そのガロンの(かざ)した左手へどこからともなくナイフが飛翔し、ガロンの手を斬りつける事で魔法の発動を阻止する。


「──グッ!?」


 その傷は浅かったみたいだが、ガロンを退()かせるには充分だったみたいで追撃を恐れた様子のガロンはベイトがいる位置まで引き下がる。

 アレルは、ここで落ち着かせたら再び攻め手が厳しくなると思いそんなガロンへ追撃しようと動く。しかし、そこへは既にベイトから放たれた(おもり)が迫っており、攻撃に集中していたあまり風詠(かぜよみ)から伝わるものを無視していたツケが回ったとアレルは後悔する。

 そして、直撃が(まぬが)れないと思った瞬間、これまた()を描く様に飛翔してきたナイフが(おもり)へと衝突してその軌道を僅かにズラす。


「ウッ──!?」


 それでも、左肩を僅かに削るみたいな形で(おもり)を受けてしまったアレルは、追撃を諦めて即座に引き下がる。


「ご無事ですか?」


 そこへ、それまで気配を感じさせていなかったルチアーノが手にしていた投げナイフを(ふところ)へしまいながら負傷したアレルへ駆け寄ってくる。なので、アレルは左肩を少し回すもそれなりの痛みが肩口に走る。


「······何とか、動かせる程度にはな」


 ルチアーノへ(こた)えながらガロン達を見ると、未だ怒りは収まっていないながらも互いに会話する程度には冷静さを取り戻しているみたいだった。これでは、先程と同じ手では釣られてくれないかなとアレルは思う。

 しかし、そんなアレルへルチアーノがどこか決意に満ちた表情を向けて話し掛けてくる。


「アレル様、私に考えがあります。手を貸して頂けますか?」



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