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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 六百六十七話 言葉を介して

 アリシアは、自身へわだかまりの原因となっている疑問を投げ掛けてきた。それならば、自分もそれ相応の質問を返さなければならないとアレルは考える。

 ただ、部屋でのやり取りを振り返ると、自分は不満を口にしてくるアリシアに対して受け答えをしていただけで、アリシアの様に溜め込んでいた様なものは無い。しかし、一つだけこんな機会でもなければ()けない事があるのを思い出し、アレルは以前にも()いた様な覚えがある言葉を口にする。


「じゃあ、()くけど······アンネは、どうして俺の代わりを探せって言うと怒るんだ?」


 と、口にしてからアレルは自身の失敗に気が付く。この言い方では、まるで自身が何も悪くないのに何故怒るのかと(たず)ねているみたいにも受け取れてしまう。

 しかし、直ぐに言い直そうとアレルがアリシアの顔を見ると、アリシアは困ったみたいな(うれ)いを秘めた様な表情をアレルに向けていた。


「それ······本当に解らないの?」


「うっ······いや、まあ」


「そんなの、簡単でしょ? アレルはアレルで、この世界にたった一人しかいなくて他の誰にも代わりなんて出来ないからだよ。······私、前にも言ったよ。あの日、あの林で出逢ったのがアレルじゃなかったら助けを求めてなんかいなかったかもしれないって」


 そう返されて、確かにアリシアは以前からそんな事を伝えてきていた様な気がアレルにはしていた。事ある(ごと)に、アレルだからと口にしてくるアリシアからは、確かに今言った様な意味が受け取れる。


「······なんか、ごめん。鈍くてさ」


「ううん、アレルも私が思っている程何でも出来るって訳じゃないってさっき判ったから、私ももっとちゃんと伝えていれば良かったって反省してるの。だから、これから思った事はちゃんと伝えるね」


「まあ、そういうのは俺も口下手(くちべた)だからさ······一応、気を付けるよ」


 何故か、微笑みを向けてくるアリシアに対して、気恥ずかしさを感じるアレルは空いてる手の指先で軽く(ほお)()く。

 その際に、アレルが周囲へ視線を向けると日没直前になり町中で明かりが灯され始める。それは目の前の露店も同様で、見ているとそんな露店がまるで誘蛾灯(ゆうがとう)の様に人々を引き寄せる。その人々の動きに合わせて、露店側も串焼きなどを焼き始めたみたいで周囲に食欲を(そそ)る良い香りが漂ってくる。


「じゃあ、次は私の番ね」


「いや、まだ続けるのか?」


「話をしようって言ったの、アレルなのに?」


 アリシアがいつもの状態に戻ったみたいなので、当初の目的を果たしたアレルは露店を見て回ろうと考えていた。しかし、そんなアレルに対して、アリシアはまだまだだとでも言わんばかりに小首を(かし)げてくる。

 それに、確かに提案したのは自分なのだが、そうして()げ足を取られてしまった以上アレルは仕方なくそのまま続ける事にする。


「解ったよ、んで次は?」


「うん、アレルって自己評価低いみたいだけど、何か理由あったりするの?」


「······あのさ、それ原因知ってたら自己評価低くならないと思うんだけど?」


「そう?」


 アレルは、至極(しごく)真っ当な事を口にしたはずなのだが、それでもアリシアは引いてくれる気配すら見せてくれない。なので、アレルは仕方ないかとため息を吐いて、思い当たる様な理由を言葉にしていく。


「ああ······でも、そうだな······逆に考えると、自己評価を高めるのに必要なのは自信だろ? だから、自己評価が低いなんてのはそもそも自分に自信が持てないのが原因なのかもな」


 アレルがそう言うと、アリシアは重ねた手にキュッと僅かに力を入れながらその首を左右に振る。


「アレルは、もっと自信持って良いって私は思うよ。だって、アレルがいなかったら、私達ここまでだって来られなかったかもしれないから」


 それに、今度はアレルが首を左右に振って返す。


「まあ、自信なんてのは経験を積み重ねて得ていくものだからさ、そうして今までを振り返るのは間違いではないんだけど······ほら、俺って記憶が無いから本来自分の中に蓄積されているはずの経験が無い状態に等しいんだよ。それに、記憶喪失が拍車(はくしゃ)をかけて自分について知らない部分への不安を(あお)ってきやがる。そんなんだからさ、自信なんて持てない状態が続いて、それが自己評価の低さに(つな)がっているんだと思う」


 そうして、普段あまりやらない自己分析までしてみせたにも関わらず、何故かアリシアは不満の様で僅かばかりにアレルをにらんでくる。


「······アレルのバカ。私は、アレルならもっと自信を持って良いと思ってるのに」


「し、仕方ないだろっ。自信なんて、あくまで主観的に何かを達成出来た時ぐらいにしか向上しないんだから。アリッ──アンネ達の事にしたって、まだ途中で成し遂げたなんて言えないんだから、それで自信なんて持てないって」


「ふ〜ん······バカ」


 言われた通り、途中アリシアと呼びそうになったアレルに馬鹿じゃないと反論出来る材料は無い。ただ、不思議とバカバカと連呼されてるにも関わらず、何故かアリシアとの距離が縮まっている様にアレルには感じられてくる。


「と、とにかく、次は俺の番で良いんだよな?」


「うん、どうぞ」


 そうして、アリシアに手番を譲られはしたものの、アレルは何を()くべきか悩む。しかし、改めて考えてみるとアリシアについてほとんど知らない事にアレルは気が付く。

 確かに、現状のアリシアについてなら多少の事は知っている。だが、それ以外に知っている事と言えばいつかの夜に(たぬき)寝入りで盗み聞いた今の望みぐらいで、他にどんな夢があるかも知らないし好き嫌いすらもアレルは知らない。

 なので、(おの)ずと次のアリシアへの質問がアレルの中で決定される。


「なあ、アンネが好きな英雄譚(えいゆうたん)とか、食べ物の好き嫌いとか、行ってみたい場所とか色々教えてくれないか?」


「えっ? そんな事で、良いの?」


「ああ、考えてみればそういう話してなかったと思ってさ」


「······うん、言われてみればしてなかったね」


「だろ?」


 すると、アリシアは少し言葉を選んでいる様な間を置き、その後でアレルへ語り始める。


「まず、私が好きな英雄譚(えいゆうたん)はね、やっぱりエウロス様の話かな。ご先祖様だし、何より物語としても興味を引かれる部分があるから。他だと、各地の英雄と呼ばれた人達の逸話(いつわ)を一冊の本に(まと)めた、英雄異聞録(いぶんろく)って話も好きだったかな」


「だった?」


「あっ、別に今は嫌いとかじゃないの。ただ、それはお母様の遺品の一つだから、その······ね」


 要は、現在手元に無い上に現状ではどう扱われているかも判らないという事だろうとアレルは受け取る。


「それなら、その中でも好きな話とかは無いのか?」


「あるよっ! 砂漠の勇士とか、無手の豪傑(ごうけつ)なんかも本当なのかなって思う内容で面白いし、小さな勇者っていう可愛らしい話もあるんだっ」


「へえ」


 アリシアが声を弾ませる姿に、アレルは自然と笑みを浮かべてしまう。ただ、それに気付かないアリシアは更に続ける。


「あとねっ、ルリちゃんみたいな妖精が出てくる話もあるし、離ればなれになった大切な人を人生を()けて探す話とか、豪槍(ごうそう)のロッソっていう実在したのが判ってる人の逸話(いつわ)もあるんだっ」


 と、そろそろ止めないとずっと続きそうな勢いだったので、そこでアレルは次の話を(うなが)してみる。


「アンネが、どんなにその本が好きかは解ったよ。他に、食べ物関係とかはどうなんだ?」


「そう? でも、アレルが気になったなら私が本の内容を話してあげるねっ。全部覚えているから」


「ああ、そういう時間が作れればな」


「うんっ! えっと、好きな食べ物だよね? ······う〜んと、特には無いかな? 基本的に、自分で選んで食べるなんて出来なかったし」


 それを聞いて、アレルはアリシアの育った環境の違いを思い知る。言われてみれば、王宮なんて暗殺者が潜り込む可能性もあるし、何者かが食事に毒を盛る危険だって無い訳ではない。

 そうなれば、当然そういった可能性のあるものは避けられる訳で、食事の際も毒見(どくみ)が行われた後になるから冷めたものを口にする事もあったのだろう。そこへの配慮(はいりょ)が欠けた質問に、アレルは申し訳なさで即座に謝罪の言葉を口にする。


「ごめんっ、俺そういうのに気付かなくて──」


「ううん、平気。それより、アレルは何か好きな物とかあるの?」


 しかし、アリシアはまるで気にしていないといった様子で、謝るアレルの言葉を(さえぎ)って微笑みを向けてくる。そんなアリシアに、これ以上気を遣わせて(たま)るかとアレルも()えて自身の配慮(はいりょ)の無さを気にしない様にする。


「······そうだな、俺は──」


 そうして、他愛の無い内容になり始めた話し合いは続いていく。



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