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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 六百六十八話 奇妙な一致

 寿司、天ぷら、富士山と、アレルは自身の好きだった物なんて覚えていない事を良い事に、よくある定番な物を口にしていく。しかし、流石(さすが)に富士山は山と付いているので直ぐに食べ物ではない事がアリシアにバレてしまう。ただ、そこでアリシアが知らないからと、アレルは悪ふざけで富士山という山から着想(ちゃくそう)を得た食べ物があると嘘をつく。

 だが、そんな嘘はアリシア持ち前の鋭い直感で看破(かんぱ)されてしまい、アレルはアリシアの不興を買って(ほお)を僅かに膨らませたアリシアに(にら)まれてしまう。なので、アレルは代わりにカレーならそれなりに好きだったと思うと真面目に返した。


「それって、どんな食べ物なの?」


「ああ、ちゃんとしたやつならコルトにある店で食えるけど、前にイバレラが作ったスープを作り直したのがあったろ? あれに、もう少しとろみを加えて辛さの調節なんかもしたやつをご飯にかけて食べるんだ」


「あっ! あれ、美味(おい)しかったよねっ。でも、ご飯になんてかけるの?」


「ああ、俺の故郷の米は甘みとモチッとした食感があるからカレーの辛さと相性抜群で凄く美味(うま)いんだ」


 アレルはそう説明するも、アリシアは何かを思い出したみたいにうわっと表情を(ゆが)める。


「どうした?」


「あっ、うん······さっき、私好き嫌い無いって言ったけど、一つだけ嫌いな物があったの」


「へえ、それで何なんだ?」


「······メリルの手料理」


 その一言に、アレルは何も口にする事が出来なくなってしまい絶句する。

 確かに、あの薬草スープみたいな物は食事としては微妙ではあったが、メリルが気を遣って精一杯作ってくれたものには違いない。その辺を、アレルはアリシアへ()こうとするも、好き嫌いなんて個人の感性による部分なのでそれを否定するのも何か違うと感じてしまう。

 なので、この場は適当に茶を(にご)して話題を変えてしまおうと考える。


「まあ、メ──イバレラも精一杯作ってくれた訳だし、それがなければ俺が手直しする事もなかった訳だしさ」


「うん······そうだね」


「ほら、そんな事よりそろそろ露店を見て回らないか? 夕食前には、宿に戻らないといけないし」


 それで、アリシアの視線も周囲の露店へと向いたので、これで何とかなったかなとアレルは安堵(あんど)する。しかし、アリシアはその場から動こうとはせずに、真剣さと怯えが入り混じった様な表情をアレルへと向けてくる。


「······ねえ、今のメリルの手料理の話で昔の事思い出したんだけど、英雄異聞録(いぶんろく)をお母様に読んでもらっていた時の事も思い出したの」


「······ああ」


 アレルは、自身の手に重なるアリシアの手から震えを感じて、今からアリシアが話そうとしている事が何か重大な事かもしれないと頭を切り替える。


「英雄異聞録(いぶんろく)最後の話ってお母様から話されたんだけど、その題目(だいもく)が『終焉(しゅうえん)の英雄』ってやつなんだ。······それで、その内容がね······凄く怖くて──」


 ギュッと、そこでアリシアが重ねる手が震えながらもアレルの手を握ってくる。


「──世界を守ったはずの英雄が、どこからかやって来た軍勢に守ったはずの世界を滅ぼされて(なお)、たった一人で世界の終焉(しゅうえん)を戦い続けるって内容なの。自分以外、誰もいなくなってしまった世界で、何の為に戦っているのかも曖昧(あいまい)になっていって、それもいつの間にか思い出せないくらい戦い続けて······最後には、人格や心までもが崩れ去り、英雄はたった一振りの刃に成り果てるって。でも、そこまでしたのに最後には英雄も敗北して、世界は終焉(しゅうえん)を迎えてしまうの。······そして、新生された世界で新たに生まれ変わった英雄は再び世界を守る刃としてもう一度······ううん、真の終わりが来るその時まで、終焉(しゅうえん)と新生を繰り返して戦い続けるって話なんだ」


『──よく覚えておけ。これが、最悪の未来(結末)の光景だ』


 何故か、アリシアの話す『終焉(しゅうえん)の英雄』という物語に、アレルはいつの日か見た夢の内容を思い出す。その夢では、光り輝く白銀の光刃を手にした何者かが『御使(みつか)い』という化け物と戦っていた。

 多勢に無勢、圧倒的な物量に明らかに勝機なんて見出せないにも関わらず、白銀の光刃を手にした何者かは諦めずに戦っていた。そして、アレルが見ている事に気付いたその者は、まるでアレルに教えでもするみたいに一つの技を披露(ひろう)した。


「······偉大なる栄光(マグナ・グロリア)


「えっ? どうして、アレルがエウロス様最大の秘技とされてる技の名前を知ってるの? 私、どこかで教えてたかな?」


「は?」


 アレルは、夢の内容を思い出した事で不意に漏らしてしまった言葉が、エウロスの秘技だったとアリシアに指摘され理解が追いつかなくなる。

 まず、夢の中の影がエウロス本人だとした場合、あの光景が終焉(しゅうえん)という事になる可能性が出てくるが、エウロスのいた二千年前に世界は滅んでなどいないし世界は普通に存続している。次に、そもそもアレルが見た夢がこの世界において、いつの日かあったはずの結末だとしてもアレルがそれを夢に見る理屈が判らない。

 そして最後に、アレルが夢で見た影の人物とエウロスの秘技が同じ名を(かん)している事だが、それについてはある仮説を立てる事でアレルは無理矢理理屈を通そうとする。


「なあ、もしかしてエウロスも俺と同じアマデウスだったなんて事はないか?」


「えっ······アマデウスって、確か······あっ、それでアレルはエウロス様の秘技を知っていたのね。うん、でもゴメンね。私、エウロス様がアレルと同じだったかなんて判らないの」


「そうか······でも、別に謝る様な事じゃないんだから、そんな風に申し訳なさそうな顔はしないでくれ」


 言いながら、それでもアレルはエウロスが自身と同じアマデウスであった可能性は高いと考える。

 アリシアが話した異聞録(いぶんろく)には、実在したのが判っている人物の逸話(いつわ)も書き記されていると言っていた。つまり、『終焉(しゅうえん)の英雄』に関しても、もしかしたらアマデウスの様に滅ぶ前の世界の記憶を引き継いだ何者かの著書(ちょしょ)と考える事だって出来る。

 それが万が一にも事実であったなら、エウロスもアマデウスとしてアレルが夢で見た白銀の光刃を手にした人物から力を貸してもらっていた事になり、アレルはかつての英雄と同様の人物から能力を貸与(たいよ)されているという事になる。


「うん······でもね、不思議な事はまだあるの。英雄異聞録(いぶんろく)を、お母様が亡くなった後で私自分で読んだ事もあってね、でも無かったの」


「無かったって、何が?」


 アレルがそう(たず)ねるも、アリシアは話す事に迷いがあるのか僅かな躊躇(ためら)いを見せてくる。それでも、コクンと(うなず)いたアリシアはアレルの目を真っ直ぐに見詰めてくる。


「······本を最後まで読んでも、そこにあるってお母様から聞いていた話が書いてなかったの。『終焉(しゅうえん)の英雄』の話が」


「······それって、単純にアンネの母親の創作だったって事なんじゃないか?」


 そう言っておきながら、アレルは自身が見た夢の内容との奇妙(きみょう)な一致についてはどうなんだと思ってしまう。だが、目の前のアリシアがアレルの夢の内容なんて知らずとも、首を左右に振ってアレルの発言を否定してくる。


「それはないよ。だって、その内容があまりにも生々しくて、私子供だったけど本当に怖くて泣いちゃったぐらいなんだから。······そんな話、あのお母様が考えられるとは思えないの」


「そっか······でも、それなら『終焉(しゅうえん)の英雄』を読むには何か特殊な道具や能力が必要だったり、本自体の方にその話を読む為に何かしらの仕掛けがあるのかもしれないな」


「うん······そうだね」


 そうして、アレルとアリシアは二人同時に視線を互いから外して、顔を身体の正面へと向ける。

 アレルにはアマデウス、アリシアには母親の遺品と、それぞれに思い悩む事が出てきてしまった為か、そこで自然と二人の間には沈黙が生まれてしまう。



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