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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 六百五十二話 夜に鳴く鳥

 御者台から降りずに、アリシア達の準備が終わるのを待つアレルは視線を宿の方へと移す。

 そこは、区画の手前にあった住居が集まっている場所とは違い、奥に行くに従って建物一軒(いっけん)あたりの敷地面積は広くなっている。その(なか)ば程に位置する『夜()き鳥の(さえず)り』は、広い敷地を(へい)で囲んでいて建物の両端が僅かに後方へと湾曲(わんきょく)した外観をしている。建物自体は二階建てで、おそらくだが宿の背面と(へい)の間に馬房(ばぼう)や馬車を入れておく倉庫などがあるのだろうとアレルは思う。

 それらを眺めつつ、名前の割には整った綺麗な外観だなとアレルは思う。そんな事を思っていると、そこへ暇だったのかアレルの何かしらの気配を感じ取ったのか、不意に瑠璃が声を、掛けてくる。


 ──主様、何かありましたか?


(いや、何も無いけど······夜()き鳥って、少し不気味だなって思ってさ)


 精神感知でアレルが返すと、瑠璃はどこか不思議そうな気配を伝えてくる。


 ──不気味? 何故ですか?


(ほら、俺ってこっちの世界の生き物に(うと)いからさ、姿の見えない夜に()く鳥って聞くと嫌な想像しか出来なくて······)


 ──そうでしたか。でも、主様が心配する様な鳥ではありませんよ。


 クスクスと、瑠璃はどこか愉快そうに答えると、アレルが口を挟む前にそのまま説明を始める。


 ──ルリは、主様と出会う前だと夜に活動してましたから、夜()き鳥とヒトが呼ぶものの事はよく知っているんです。彼らは、ヒトの耳には聞こえない鳴き声を出して弱い魔物などを追い払う習性があるんです。


(弱い魔物って······もしかして、魔晄蛾(まこうが)とかか?)


 ──はい、ルリ達にとっては連中を追い払ってくれるので、大変頼もしい存在でした。


 フフフと、瑠璃は敵視するものに対して容赦のない黒い部分を(のぞ)かせる。アーフェンまでの道中もそうだったが、瑠璃は救いようもない相手に対して冷酷な部分がある。それも、基本的に他の存在に対して興味を抱かない妖精だからなのかもしれない。ただ、そういう所も瑠璃を構成する一部であり、生きてきた場所も違えば種族も違うので色々な部分で価値観が違うのだろうとアレルは考える。

 それでも、そういう部分を全部含めて瑠璃な訳でアレルにとって大切な存在である事は変わらない。それに、価値観が違うからといって解り合えないなんて事は決してない。そう思うからこそ、アレルはそんな瑠璃の全てを受け止める様な気持ちで言葉を返す。


(本当に、瑠璃は魔晄蛾(まこうが)の事が嫌いなんだな)


 ──勿論(もちろん)ですっ!


 (いきどお)りを感じさせる瑠璃に、アレルは苦笑を返しながら話を戻す。


(まあ、話を戻すけど······そういう話なら、夜()き鳥ってのは魔除け的な意味で名付けられているんだろうな)


 ──はい、ヒトの風習なんてルリには解りませんが、主様がそう感じたならそうだと思います。


 瑠璃が、そうしていつも通りにアレルを肯定してくると、そこで準備を終えたアリシア達が荷台から降りてくる。なので、アレルは瑠璃との話を切り上げて御者台の方へ回ってきたアリシア達へ対応する。


「はい、アレルの荷物も持ってきてあげたよ」


「ああ、ありがとなアンネ」


 礼を言いながら、アレルはアリシアが差し出す自身の荷物を受け取りつつ御者台から降りる。そして、宿の入り口へと向かうミリアへ声を掛ける。


「クリス、直ぐに宿の人間を代わりに()こすから、それまで馬車を見ててくれないか?」


「ム······別に構わんが、町中だぞ?」


「何となく、一応だよ。そう待たせないから、頼む」


 その一言で、アレルが漠然(ばくぜん)と感じている不安が由来となっている警戒心の高まりを感じたのか、ミリアは軽く舌打ちを返しながらも黙って馬車の横まで戻ってくれる。


「悪いな」


 無言で(にら)みつけてくるミリアを残して、アレルはアリシアとそのローブの下の小物入れにいる瑠璃、それからメリルと共に宿の中へと入る。宿の中は、入り口正面に少し横に長いカウンターがあって、そこには一人の従業員が立っていた。

 その従業員は、短く切り揃えた茶髪に垂れ目がちな薄青色の目をしていて、(ひげ)もなく見た目二十代後半から三十代前半程の柔らかい印象を感じる男性だった。


「すまない、俺はアレルと言うんだが部屋は空いてるか?」


 アレルは、アリシアとメリルより一歩前に出てカウンターの従業員に話し掛ける。すると、従業員はアレルという名前に片目の(まぶた)をピクッと僅かに震わせ、その反応からアレルの意図が伝わった事をアレルは悟る。


「アレル様、ですね。はい、ご用意出来ますが一部屋でよろしいのでしょうか?」


 従業員は、アレル達が何人いるのか把握(はあく)しているはずなのに、アリシアとメリルの前だからかわざと三人一部屋で大丈夫かと()いてくる。

 その反応から、アレルは目の前にいる従業員が羽根の中でも黒か(だいだい)ではないかと考える。だったらと、アレルは遠慮なく頼み事をし始める。


「いや、隣り合った二人部屋を二部屋頼む。それと、まだ馬車で向かいたい場所があるから、今は連れの一人に番をさせているんだけど部屋に荷物を置きに行く間だけ代わりを誰かに頼めないか?」


(かしこ)まりました。では、代わりの者を向かわせましょう」


 従業員はそう言うと、カウンターの上にある呼び鈴を鳴らし、その直後に宿の奥からもう一人の従業員が出てくる。


「外に、お客様の馬車があるそうです。ただ、お客様にまだ御用があるらしく、再びお出掛けなさるまで番をお願いします。あと、今はお連れ様が見ているそうなので中へ入る様に声掛けも忘れずに」


 すると、新たに出て来た従業員は無言でアレル達へ頭を下げてから、速やかに宿の外へ向かっていく。その姿に、何故かは判らないがアレルはハインリヒの無駄の無さを想起(そうき)させられる。


「何か、御座いましたか?」


「いや······別に」


 気の所為(せい)だと、アレルが素っ気なく返す間に従業員は部屋の鍵を用意する。そして、それをカウンターの上に置いた直後に、宿の出入口を開けてミリアが中へ入ってくる。

 しかし、アレルも従業員もミリアの事は意に(かい)さずに、そのまま宿泊の手続きを続行する。


「そういや、代金は?」


「馬車は、どうなさりますか? それで、少し代金も変わりますので」


「あ〜、それか······実は、この後の用事ってのが、馬車の点検と場合によっては補修を頼もうかと思っているんだ。だから、まだどうなるかは判らないんだ」


 アレルがそう答えると、従業員はフムと左手を右(ひじ)に添えて右手で(あご)に触る。

 その、あからさまな考える仕草(しぐさ)に対して、アレルは既にどうするか決まっているのに勿体(もったい)振ってやがるなとジト目を向ける。すると、やはりと言えば良いのか、従業員は今思いついたと言わんばかりに手を叩く。


「それならば、今はお部屋の代金だけを頂いて、もしも馬車をお預かりになった場合はその時に追加でと言う事に(いた)しましょう」


「ああ、それで良いから部屋代はいくらだ?」


 アレルは、急に胡散(うさん)臭さを増した従業員を見損ない、早く代金を教えろと催促(さいそく)する。


「代金は、二部屋四名様で銀貨一枚と小銀貨五枚になります。それと、差し出がましいと思ったのですが、馬車のお荷物はこちらでお預かり(いた)しましょうか?」


 と、従業員は代金の提示と共にそんな事を申し出てくるが、アレルは何の事かと首を傾げてしまう。そこへ、そんなアレルを助けるみたいにして、メリルがそっと耳打ちをしてくれる。


「······あの、馬車の荷物が載ったままだと点検などを断られる場合がありますから」


 メリルの(ささや)きに、そういう事かと合点(がてん)がいったアレルは、断られたら大変だと従業員の申し出を受ける事に決めてサイドポシェットから提示された代金を手にしてカウンターへと置く。


「じゃあ、悪いけど預かってもらえるか?」


「はい、それではアレル様をお部屋へ案内する間に、宿の者達で荷物を下ろして倉庫の方でお預かりさせて頂きます」


 そう言うと、従業員の動きは流石(さすが)商会自慢の羽根の一人だという素早さで、速やかに呼び鈴で他の従業員を数名呼ぶと的確に指示を飛ばす。そうして、外の馬車へ向かう従業員達を見送りながらも、アレルは全員羽根の事を知っている者達だから荷物が無くなる心配も無いなと安心する。

 何故なら、今カウンターの従業員が鳴らした呼び鈴は一回鳴らした後二回短く鳴らしていたが、ミリアの代わりを呼んだ時はただ普通に三回鳴らしただけだった。なので、今のは関係者だけを呼ぶやり方だったのだろうと思いながら、アレルはカウンターから出て来て部屋へと案内する従業員の後に続くのであった。



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