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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 六百二十七話 足掻く程に隔たりは厚く

 宿の二階、自身とアリシアの部屋の前でアレルは一旦(いったん)覚悟を決める為に足を止める。一応、瑠璃へアリシアの機嫌を(たず)ねる事も可能ではあるが、それは流石(さすが)卑怯(ひきょう)だしアリシアに対して不誠実だろうと思い、アレルは意を決して扉をノックする。


「アンネ、いるか?」


 返事はない。もしかしたら、隣のメリル達の部屋にでもいるのだろうかと、アレルはそちらへ足を向けようとする。

 しかし、それに待ったを掛けるみたいに中から遅い返事が返ってくる。


「アレル? ゴメンね、少し待ってて」


 その返事から少し間をおいて、ガチャリと開かれた扉からはサラリと絹糸の様に垂れ下がる蒼銀の髪を揺らすアリシアが顔を出す。

 一瞬、そんな姿に心を奪われるアレルではあったが、直ぐに我に返り慌ててアリシアを自らの身体で隠しながら部屋の中へと押しやる。


「······なっ!? ちょっと、何を考えてんだ? 少し、迂闊(うかつ)過ぎるぞ!」


「えっ? ······あっ、ゴメン! 私、うっかり──」


「いいから、早く中に戻れって」


 宿には、アレル達以外にも他に客がいる。その中の誰かに、アリシアの特徴的な髪色を見られれば何が起こるか判らない。

 アリシアだって、それは理解しているはずだし普段ならこんな迂闊(うかつ)な行動などはしない。一体何があったんだと、アレルは思うもののアリシアを中へ戻した後で、扉越しに廊下で見ていた者がいないのを確認してから部屋の扉を内側から施錠する。


「んで、何か理由でもあるのか?」


 見れば、アレルの背後で振り返るのを待っていたアリシアはローブを身に着けておらず、部屋着を着ていた。なので、ある程度答えは予想出来たもののアレルはアリシアの言葉を待つ。


「あっ······うん、ちょっと浴室を使った後だったから······ね」


 そう答えるアリシアは、珍しくその目を泳がせてあからさまに誤魔化(ごまか)しだと判る反応をしてくる。それに、こうも普段なら見せない姿を(さら)しているアリシアの様子から、アレルは直感的にその原因が宿の裏手で剣を振っていた自身にあるのではないかと考える。


「あのな、アリシア達が下で俺が剣を振っているのを見ていたのは、ミゲルから聞いて知っている。そんな風に、変に誤魔化(ごまか)す必要はないから」


「あっ······うん、ゴメンね」


 アリシアは、そう言いながらも右手で左腕を(さす)りつつ(うつむ)いて身を縮こませる。

 その、どこか申し訳なさそうな様子と何かを隠そうとしている姿勢を、アレルは不審に感じる。ここまで、アリシアとはそれなりに信頼関係を築けていた自信はあるし、アリシアが何か隠し事をするなんて事も無かったはずだ。

 それなのにどうしてと、アレルが考えている所へ瑠璃がヒラヒラと飛んできてアレルの肩へ止まる。


 ──主様、申し訳ありませんが、ルリは何も聞いていませんし見ていなかった事にさせて頂きたいと思います。


(それは、アリシアの為か?)


 アレルは、瞬時に精神感知を使って瑠璃へ(たず)ねる。


 ──はい。でも、ルリとしては主様の為でもあると思っています。


(そうか······ありがとな、瑠璃)


 そんなやり取りをしていると、目の前のアリシアが瑠璃との会話が気になるのかソワソワしている。なので、アレルはアリシアの緊張を和らげる為に、肩の力を抜いて笑みを浮かべる。


「安心しろよ。瑠璃は、見聞きした事をベラベラ(しゃべ)る様な子じゃないから。今だって、何も聞いていないし見てなかったって言ってる。それに、俺も瑠璃がそう言う以上何かを聞き出そうとなんてしないからさ」


「そうなの?」


「ああ、瑠璃をそんな盗聴器みたいに道具扱いしたくないしな」


 アレルは、どんな時だって瑠璃の自由意思を尊重(そんちょう)したいと、日頃から常々思っていた事を口にする。すると、肩の瑠璃はどこか嬉しそうに羽をパタタと動かす。

 ただ、アリシアの関心は別の所へ向けられていたみたいだった。


「ねえ、とうちょうきって何?」


「ん? あ〜、俺の世界にある道具で離れた人達の会話を聞けるってやつかな?」


 その説明で納得した様子のアリシアは、引っ掛かりが無くなった事でここからが本題(ほんだい)だとばかりにキュッと唇を結んでアレルへ問い掛けてくる。


「ねえ、アレルは? ルリちゃんを道具扱いしたくないって言うなら、アレルはどうなの? アレルは、アレル自身をどう思っているの?」


 自分の事をどう思っているか、そんなどこか哲学的な事を問われたアレルはどう答えるべきかを悩む。

 正直に言えば、自分の事なんてそこまで深く考えてなどいない。いや、正確に言うなら考えてきてなかったというか、考えている暇が無かったといった感じだとアレルは思う。ただ、そんな中でも考えた事があるのが自身の過去についてであり、手掛かりとなるのは唯一残り続けているあの言葉だけだった。

 そこから結論を出すなら、自身は誰かの(そば)あぬにいるべき人間ではない、いずれ死を望まれる程に恨まれる事をしてしまうのだからという話になる。しかし、それをそのまま今のどこか様子のおかしいアリシアに伝えて良いかは別の話になる。

 それでも、アリシアには思ってもいない事を伝える事もしたくないアレルは、悩んだ末に至極当然(しごくとうぜん)な事を口にする


「どう思っているかなんて、俺は俺としか思ってないよ。何一つ特別な事なんて無くて、どこにでもいる普通の人間······それが俺だよ。······あっ、でも異世界に迷い込んでいるのは少し特殊かもな」


 そうやって最後に少し冗談めかすも、アレルの前にいるアリシアの表情は何か不満を感じているみたいに変わらない。その為か、アリシアは重ねてアレルへ問い掛けてくる。


「そういう意味じゃなくて、アレルは──」


 だが、アリシアが何かを口にする前に瑠璃がアレルの肩から離れて、アリシアの顔の前でまるで立ちはだかるみたいに浮遊する。そして、アレルに伝わっていない為に瑠璃は無言であったのだろうが、それ以上はいけませんと言ってるみたいに瑠璃は空中で身体を左右に振ってみせる。

 そんな瑠璃の姿に、アリシアは悔しそうな残念がっているみたいな表情をしつつも、アレルへの詰問(きつもん)を諦めた様子を見せる。


「うん······ゴメンね、ルリちゃん」


 そう返すアリシアに、瑠璃は三回の羽の明滅を返す。

 しかし、どうにも(みょう)な雰囲気のままになってしまっているので、アレルはそんな雰囲気を一新する為にわざと明るく声を張ってみせる。


「さてとっ! 今まで、外にいた俺が言えた事じゃないけど明日も結構な距離移動しなきゃならないからな。俺も、浴室を使って早く寝ないとな」


「う、うん······ゴメンね、部屋に入った所で引き留めちゃって」


「別にいいよ」


 そうして、アレルの着替えを邪魔しない為か、アリシアの肩へと止まりに行った瑠璃を目で追いつつアレルは自身のベッドまで移動する。ただ、浴室を使う為に色々と準備をしようとする中、アレルは部屋に戻ってからアリシアがゴメンねとしか口にしていない様に感じる。

 そこから、アリシアはどういう訳かは解らないが、何かに対して負い目を感じているのだろうとアレルは察するのであった。



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