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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 六百二十三話 その未熟さ故に

 倉庫の前で、アレルはミゲルから渡された鍵を使って解錠すると、スライド式の扉を引いて倉庫の中へと足を踏み入れる。倉庫の中は暗く、宿から()れる明かりで来る事が出来た宿の裏手への通り道とは違い、一切の明かりが中へは届いていない。

 ここで、瑠璃がいれば暗い中を照らしてくれるのだが、今瑠璃はアリシアと共に部屋の方へと行ってしまっている。なので、仕方ないかとアレルは目が暗闇に慣れるのを待ってから、何か明かりとなる物はないかと倉庫の中を探す。すると、暗闇に慣れたせいなのかアレルの目には、馬車の(ほろ)の形に僅かばかりだが薄ぼんやりと明るくなっているのが判る。

 それに、もしかしてと思ったアレルはその僅かばかりの明かりを頼りに馬車へと近づき、その荷台側の(ほろ)(まく)り上げる。


(······やっぱりか)


 荷台の中は、石灯(せきとう)の輝きで満たされており、荷物整理するぐらい問題ない明るさを保っていた。錬金術の賜物(たまもの)という話だったが、ラ・アトランディアにおけるヒカリゴケは自らも発光するとパメラから聞いているので、この明るさはそれのお陰だとアレルは考える。

 パメラの話では、ヒカリゴケの他に蓄光石(ちくこうせき)という鉱物が元になっているとの事なので、昼の間はそっちの性質で日光の明かりを蓄えるのだろうが今日の様に曇っている時はヒカリゴケの性質で光を放つと考えられる。アレルは、何で遮光カバーなんて付いてるのかと思っていたが、実際に目にすると納得の明るさではあった。


(取り()えず、明かりの心配は無くなったしパンをしまって部屋に戻るか)


 そう思ったアレルは、使い切るまで黒パンを入れていた()き箱を探して、その中へ先程買ってきた物を紙袋ごと入れる。それで、倉庫までやって来た用事は済んだものの、そこでアレルはふとナイフ帯に()きがある事に気が付く。

 それは、日中雨の中を移動する途中で、瑠璃に言われて何かしら(よこしま)な目的で近づこうとした(やから)に投げてそのままになっていた場所だった。それを思い出したアレルは、補充用の投げナイフが入ってるポーチを手に取り、その中の一本をナイフ帯の()いている所へと納める。

 そうして、馬車での用事は全て済ませた訳ではあるものの、何か忘れていないかとアレルは荷台の中を再度見渡してみる。そこで、ふと石灯(せきとう)の明かりが目に止まったアレルは首を(かし)げる。


(······光り続けるって事は、活性化したままって事だよな? 水も二酸化炭素も届かなそうなのに、どうやってその活性を保ってんだろ?)


 と、アレルは当然の疑問を抱くのだが、ここにその疑問に答えてくれる存在はいないので考えても仕方ないかとアレルは荷台から降りる事にする。ただ、そこでは終わらないのがアレルで、パメラとの話をフローレイティアが行った言語の壁を壊すという偉業を踏まえて再考してみる。

 まず、ここまでのアリシアとの会話でストーカーやコンビニなどのこちらの世界にはない概念(がいねん)や言葉は、言語の壁なんて関係ないのでアリシアから()き返されている。それを念頭(ねんとう)に置くと、蓄光石(ちくこうせき)はともかくヒカリゴケに関しては元の世界との性質の違いから、違う名称の別物をフローレイティアの偉業を通してアレルにはヒカリゴケと伝わった可能性と、ラ・アトランディアでヒカリゴケと呼ばれている物が元の世界とは別物だった可能性がある。

 本来なら、同じ世界に住む者達への影響なのでそういったややこしい齟齬(そご)は起こらないはずなのだが、別の世界からやって来たアレルにだけはその様な現象が起きてしまう。結局は、元の世界の物とは別物という事になるのだが、これをアレルが口頭で伝えた場合に後者はそのまま伝わるが、前者だと相手にどう伝わるのか判らない。

 なので、こういった所には今後注意をしていかなければならないだろうとアレルは考える。


(とはいえ、一つだけどうしても解らない謎も残ってはいるんだよな。フローレイティアの話では説明出来ない、どうして俺がルクスタニア文字を読めるのかとかな······)


 アレルは、馬車から離れて倉庫を出てから、扉を施錠しつつそんな事を考える。だが、そんな事をいつまでも考えていたところで答えなんか出せる訳もない。取っ掛かりとしては、記憶喪失とアマデウス関係の事があるが、どちらも確証に(つな)がる程明確なものが判っている訳でもない。

 解りそうで解らない、そんなものを放っておく事に気持ち悪さを感じるアレルだったが、気分転換にふと空を見上げる。すると、曇り空ではあるものの未だ雨の降ってくる気配は感じられない。

 そこで、アレルは(みょう)な雑念を払う為にも、万が一セドリックと相対した場合に備える為にも剣を振ろうと騎士剣を手にする。


 まずは、ミリアから教わったルクスタニア流剣術の型のおさらいから始める。未だ、剣術に関して素人(しろうと)に毛が生えたぐらいだと自覚するアレルは、とにかく基本が重要だと思うのでそこだけは重点的に行う。

 次に、ロバートから教わった四肢の連動性を高める為の緩慢な動きで、針の穴を通す様な精密性を重視した身体の使い方を積み重ねる。左右の腕で、どんな体勢の時にどれ程の力の配分で振るか、下肢や背中の力を十二分(じゅうにぶん)に剣に乗せるにはどんな身体の使い方をするか、それらを一つずつアレルは確認していく。

 その後で、アレルはアマデウスにより獲得した古流の動きを通常の速度でおさらいする。間合いを詰める突き、それから相手の攻撃ごと切り払う回転斬りと、比較的慣れた二つに関しては狙いを変えたり回転を逆にしたりも試してみる。突きの狙いを変えれば、踏み込みの力の入れ具合が変わる。回転を逆にすれば、腕の使い方を変えなければ目標がいると定めた場所へ威力を集中させられない。それらの調整を、再びロバートからの教えを利用して少しずつ微調整して実戦で使えるものへと仕上げていく。


 古流は、あくまでも一つの剣術でしかなく戦いの中で決め手となる様なものではない。それ故に、お決まりの動きだけでは相手に簡単に対応されてしまい、こちらは手詰まりの状況に立たされる。そう考えるアレルは、古流を決め手とはせずにどんな状況でも応用出来る様に、自らの手足とするべく修練(しゅうれん)を重ねなければならない。

 それが解っているからこそ、アレルはクライドからの助言に隠された意図にも薄々勘づき始めている。それというのも、クライドはアレルが複数の武器を所持しているのを目にしておきながら、助言の内容はまるで騎士剣一振りのみで戦う事を想定したものの様だった。そこから、クライドは(あん)にパウリー流と同じ土俵である副武器(サブウェポン)を左手に持つ戦い方では、セドリック相手に勝てないと言っているのだろうと考えられる。

 だからこそ、万が一にもセドリックと会敵(かいてき)する可能性があるなら、アレルはもっと騎士剣の扱いに慣れておかなければならないと必死になる。


 続いて、アレルはアマデウス経由で教えられた新たな古流の動きを修練に取り入れていく。

 突きからの横()ぎ、一息で行う左右への連続斬り、そして回転斬りの勢いを利用して縦方向の振り下ろしと変える動き。これらは、ある意味最初に覚えた動きの応用にあたる動きで、突きからの横()ぎも左右への連続斬りも重要なのは下肢の重心移動となっており、その全ては回転斬りの際の重心移動へと(つな)がっている。

 なので、アレルは剣を振る腕ではなく重心移動を行う下肢に意識を集中させて古流の動きを繰り返す。ただ、これが意外と難しく少しでも重心移動に梃子摺(てこず)ると、下肢からの力を上半身に上手く伝えられずに腕の力だけで剣を振るう事になってしまう。そんな失敗をすると、アレルはロバートからの教えを利用して緩慢な動きで適した重心移動のコツを探っていく。そうしていくと、結局重心を移動させるという事は上半身も動かす事に(つな)がる為に、同時に上半身の動きも矯正(きょうせい)していく事になる。


 そういった事を繰り返し行い、アレルは通常の速度である程度まで古流の動きを再現出来る様になる。(ただ)し、回転斬りの勢いを利用して縦方向の振り下ろしをする事だけは、未だに上手く出来てはいなかった。

 何度も試してはいるんだが、どうしても縦軸への変更時に身体の軸がブレてしまい斬撃が弱くなってしまう。それを繰り返した挙句(あげく)に、苦肉の策としてアレルが考えたのが縦軸まで剣を起こさずに斜めの軌道で振り抜く事だった。それは、本当の意味では失敗なのではあるが、そうして繰り返す内にアレルは徐々に振り抜きを縦軸へと近づけていく。

 それでも、完全には縦軸まで持っていく事が出来ずに、他の動きも未だ完成度が七割といったところにアレルは不満を感じてしまう。そのせいか、部屋へ戻る事すらも忘れてしまったアレルは、ただ一心不乱(いっしんふらん)に剣を振るうのであった。



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