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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 千八十一話 違和感の正体

 ──同時刻、幽鬼君主(ファントムドミヌス)と戦うアレル。


 戦況は、幽鬼君主(ファントムドミヌス)も片腕が動かない事に加えて消耗(しょうもう)している所為(せい)か、どうにか僅かにだけ優勢を(たも)てているなとアレルは感じる。しかし、コンラート達にはもう少し早く人々の避難をして欲しい所だと思い目線だけを向けると、一人ずつ気絶させてから他所(よそ)へと運び出しているのが見える。

 その姿に、もう少しまともな方法がなかったのかと思うアレルだったが、贅沢(ぜいたく)は言えないなと幽鬼君主(ファントムドミヌス)へ意識を戻す。


 胴体が僅かに削れ、動く腕にはヒビが入り肩口にも騎士剣で刺された事による損傷(ダメージ)が残る。

 それにも関わらず、どこか(あせ)る様子もなく殺気だけを向けてくる幽鬼君主(ファントムドミヌス)にアレルは(みょう)な違和感を感じる。確かに、(おと)っていると見下していた相手に良いようにされるのは腹立たしいだろうが、現状で何故か損傷(ダメージ)や魔力などの消耗(しょうもう)を気にしていない感じのする所が幽鬼君主(ファントムドミヌス)にはある。

 その違和感から、アレルは僅かに押してる勢いにこのまま乗るのは危険だと判断し、()えて自分から仕掛けずに幽鬼君主(ファントムドミヌス)の様子を(うかが)う。


「······」


 すると、怒り心頭(しんとう)といった様子を(よそお)いつつも、幽鬼君主(ファントムドミヌス)(みずか)ら仕掛ける事はなく一定の間合いを(たも)っている。その反応は、まるでこちらが勝負を決めに動いて魔力の消費を増加させる事を狙っている様にも見え、アレルはその誘いに乗るべきか乗らざるべきかを悩む。

 ここまで、幽鬼君主(ファントムドミヌス)の繰り出す策にまんまと()まり続けていた訳だが、その中で唯一(ゆいいつ)幽鬼君主(ファントムドミヌス)が取り乱したのが(もや)から出て来た際に片腕が動かない事に気付いた時だ。つまり、あの時点で片腕が動かないというのは想定外で、あの時に見せた激昂(げきこう)は本物だったと言える。

 反対に、今の幽鬼君主(ファントムドミヌス)からはそういった取り乱す程の怒りは感じない。(むし)ろ、怒りを(よそお)って何かを(たくら)んでいる気配すら感じる。そこから、アレルはここまで何度か策に()められているのに、その程度でこちらの警戒が()けるとでも思われているのかと何だか馬鹿にされてる気分になる。


 なので、アレルは逆に()えて騎士剣による構えを()いて、肩を(すく)めながらもヘラっとニヤついてみせる。


「お前さぁ、何か企んでいるのバレバレ。人を(わな)()めたければ、上から見下(みくだ)してんじゃねえよ······大馬鹿の三下(さんした)がよ」


 構えを()いた上、その無防備な状態で掛かってこいとばかりに挑発(ちょうはつ)する。それは、そんな事をしても幽鬼君主(ファントムドミヌス)が攻撃してこないのを解っている事を示し、更に考えの浅さを指摘する事で思い上がりを侮辱(ぶじょく)する。

 そして、それはきっと幽鬼君主(ファントムドミヌス)にとっては耐え(がた)屈辱(くつじょく)だったのだろう。幽鬼君主(ファントムドミヌス)は、アレルの挑発(ちょうはつ)に数秒と()たずにアレルとの間合いを詰めて実体化させた腕で(おそ)い掛かってくる。


 しかし、魔力操作を微塵(みじん)(ゆる)めてなどいなかったアレルは、その動きへ瞬時に反応して幽鬼君主(ファントムドミヌス)右頬(みぎほお)に左拳を叩き込む。


「お〜、嫌だね。自尊心(プライド)ばかりがデカい奴は······まあ、仕事に対する誇り(プライド)だけは()くしちゃいけないけどな」


 続けて、アレルは左腕を引く勢いを利用して左足で幽鬼君主(ファントムドミヌス)へハイキックをお見舞いする。それで、幽鬼君主(ファントムドミヌス)は人間の様にたたらを踏む事はないが、逆に(ちゅう)に浮いている為に人間と比較出来ない程大きく()り飛ばされる。

 更に、アレルはそんな幽鬼君主(ファントムドミヌス)へ接近して、今度は魔力を(まと)わせた騎士剣で動かなくなっている片腕を斬り飛ばす。


「付いてるだけ邪魔だろ、それ?」


 ニヤリと、アレルは簡単に腕を斬られる幽鬼君主(ファントムドミヌス)嘲笑(ちょうしょう)し、掛かってこいよと騎士剣から離した左手で手招きしてみせる。

 すると、流石(さすが)にそこまで小馬鹿にされると策に()めようとする我慢も限界だったらしく、幽鬼君主(ファントムドミヌス)は残された腕をアレルへと向けて火球を(はな)ってくる。ただ、火球などは今更な為にアレルは魔力を(まと)わせた騎士剣で(はな)たれた火球を斬り裂いて防ぐ。

 しかし、ここに来て雷撃ではなく火球を(はな)ってくる事に、アレルはどこかじっとりとした違和感を覚える。


 本来なら、例え片腕が動かなかったとしても、保有魔力量や悪辣(あくらつ)な知略を踏まえれば実力は幽鬼君主(ファントムドミヌス)(ほう)がまだ数段上の(はず)だ。それにも関わらず、現状はどういう訳か残り数手で勝利出来てしまいそうな程に戦況が完全に(かたむ)いてしまっている。

 加えて、群衆(ぐんしゅう)を囲っていた(もや)瘴気(しょうき)ごと取り込んだにしては、幽鬼君主(ファントムドミヌス)の回復状況がその量に見合ってない様に感じる。


 それらから導き出される答えは──現在の戦況も、幽鬼君主(ファントムドミヌス)(みずか)ら作り出したものだという事を指し示している。


「······なあ、いい加減に出し惜しみは止めろよ。こっちとしても、茶番に付き合うのにも疲れるんだよ」


 その考えを元に、アレルが幽鬼君主(ファントムドミヌス)の思惑を見抜いているかの様な発言をすると、幽鬼君主(ファントムドミヌス)はピタリとその動きは(おろ)かそれまで()れ流していた殺気までもを止める。

 そして、(おとず)れた静寂(せいじゃく)は例え様のない緊張感を生み、嵐の前の静けさとはこの事かとアレルに思わせる。一秒が一分、一分が数十分にも感じられる様な緊張感がアレルを支配する中、幽鬼君主(ファントムドミヌス)が突如としてケタケタと笑い始める。


『······深キ因縁、知ラヌクセニ』


 たった一言、まるで群衆(ぐんしゅう)の中にいた老若男女(ろうにゃくなんにょ)の声を重ね合わせた様な声色(こわいろ)幽鬼君主(ファントムドミヌス)が口にすると、それまでのアレルの疑念を解消するみたいに変化が見られる様になる。

 その体全体が瘴気(しょうき)(おお)われ、そこから最初に肥大化された腕が一本、更にその背中側からも同様の腕が二本生えてくる。ローブ姿はそのままに、フードを脱いだ髑髏(しゃれこうべ)には額に二本の小角(こづの)、側頭部には小角(こづの)より二回り程大きな角が生えていた。

 そうして、瘴気(しょうき)の中から新たな姿を現した幽鬼君主(ファントムドミヌス)は、ここからが本番だとばかりに合計で三本になった腕をカタカタと鳴らしてくる。


「······まったく、出し惜しみなんてしてんじゃねえよ」


 文句を口にしながら、やはりアンドレの(たましい)を掴んでいた影の様な腕は斬られたまま再生出来ないみたいで、()えて動かない腕を出さずに三本に(とど)めている様だとアレルは冷静に分析する。

 ただ、一方(いっぽう)でそうした変化を見せる前に幽鬼君主(ファントムドミヌス)が口にした一言が、やけに気になる事が気分悪いと感じるアレルだった。



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