一章〜非望〜 千八十二話 企みを感じる中で
深き因縁──そう言われ、真っ先にアレルが思い浮かべるのは妖精との繋がりで、オルフェから聞いていた千年前の事になる。
しかし、それにしたって自身には直接的には関係がない事柄ではあるし、オルフェだって何があったのかまでは話していない。だから、本来ならば知らないくせにと罵られようと気になる筈はないのだが、妙な引っ掛かりを覚える所にアレルは気持ち悪さを感じる。
だが、それ以外で考えると『荒ぶる魂』が口にしていた信奉者って言葉の方が因縁めいて聞こえてくる。それも、目の前にいる幽鬼君主がその信奉者の傀儡だと言うのだから、その信奉者とは一体どんな存在なんだとアレルは想像するのも怖くなる。
ただ、今は目の前にいる幽鬼君主を倒す事が先決で、何よりも発せられた言葉自体がこちらの注意を散漫にさせる意図の可能性もある。そう考えるアレルは、妙な疑問は忘れて戦いに意識を集中させる。
そうして、改めて見ると幽鬼君主の変貌は、あくまで真の姿を現しただけなのか、それとも幾つかある変身の内の一つなのかが判らない。
「······まさかとは思うけど、どこぞの悪の帝王様みたいに変身をあと二回残してるなんて言うなよな」
そんな冗談を口にして、アレルは考え過ぎになりがちな自身の思考を一旦落ち着かせる。何なら、その冗談で幽鬼君主が再度言葉を口にするかもと期待もしたが、返事の代わりに返ってきたのは三本の腕から連続して放たれる火球だった。
「チッ──!」
言葉が通じるなら、会話で言葉巧みにコンラート達が人々を避難させる時間を稼ごうとしたアレルだったが、その企みは放たれた火球によって打ち砕かれる。
放たれた三つの火球は、それぞれが放つ間をズラされており、その速度もそれまでのものより速くなっていた。それでも、風詠により軌道は読み切れるのだが、大きく避けると幽鬼君主が三本の腕それぞれに構えた次弾で狙われてしまう。それが判っているからこそ、アレルは敢えて自ら火球へ突っ込んでいく。
如何に速度が増そうと、火球には追尾性も無ければ湾曲する事もない。そうであるなら、下手に大きく避けるよりも紙一重で躱しつつ間合いを詰める選択をする。
その方が、余程魔法使い系の幽鬼君主には脅威に感じられるだろうとアレルはそれを実行する。一発目、二発目と避けるも流石に三発目は避け切れずに、アレルはそれを騎士剣を振るって斬り裂く。しかし、奇妙な事に幽鬼君主に逃げる素振りがなく、アレルが間合いを詰めるのもお構いなしに追撃の火球を放ってくる。
そうなると、逆に至近距離で火球を三つも放たれたアレルの方が追い詰められてしまう。
「クッ──!?」
ドンッ、ドンッ、ドンッと、咄嗟に交差させた前腕の籠手から続けて重い衝撃が伝わる。一応、念には念を入れ籠手の方にも魔力を纏わせていたが、受けてみて威力も上がっていると判った火球をそのまま受け続けるのは不味いと、アレルは横に転がる事で更なる追撃を防ごうと考える。
ただ、幽鬼君主もそう簡単な相手ではなく、アレルが転がった先にも一発だけ火球を間に合わせてくる。それでも、一発だけならとアレルも立ち上がるのと同時に迫る火球を騎士剣で斬り裂き、そのままの勢いで幽鬼君主へ斬撃を放つ。
「まずは一つ!」
実体化させてなかったからなのか、意外な程に容易く腕の一本を斬り落とせた事に違和感を覚えながらも、アレルは残る背中側から肩越しに生えてきた二本の腕に意識を集中させる。
その瞬間、上から撃ち下ろすみたいにしてアレルへ二発の火球が放たれる。それへ、即座に反応したアレルは、後方へ飛び退く事で火球を避けるも追撃が難しくなってしまう。ただ、腕を一本斬り落とせた事で一度に放てる火球の数も減ったので、今までよりも間合いを詰めやすくはなっている。
更に言えば、それで通常の肩から生えている腕は二本とも失われた為に、背中側から肩越しに生える二本の腕では実体化させて正面からの攻撃を防御するには位置的に少し距離が出来る。その隙を突けば攻撃の機会はいくらでもあり、再びアレルにとってほんの僅かに戦況が優勢に傾く。
「······」
やはり、何かがおかしい。
アレルは、再び戦況が自身へ傾いた事に対して、それが幽鬼君主側に何かしらの企みがある事を確信する。
それというのも、確かに『荒ぶる魂』の置き土産のお陰で魔力はいつも以上に保有出来ている。それでも、戦闘力自体には一切の変化なんて起きてなどいない。それにも関わらず、明らかに戦闘力を向上させた幽鬼君主が自身に後れを取っているのがおかしい。
つまり、幽鬼君主が意図的にそうしているという事になり、アレルはその目的がどこにあるのかを探ろうと考える。
だが、その意図を悟られまいと幽鬼君主も残る二本の腕で再度アレルへ火球を放ってくる。
その火球は、先程とは異なり威力ではなく速度を重視しているみたいで連射性が増している。ただ、放つ位置が所謂ショルダーキャノンの位置と同じ為に、どんな避け方をしても最終的な到達点は地面なので流れ弾による被害を気にする必要がない。
そう判断したアレルは、身体強化の魔力を循環させ膨張魔力を溜めつつ、幽鬼君主の周囲を回る様にして火球を回避していく。走る速度が一定にならない様に、速度に緩急をつけながら連射される火球を避けていく。
「······ハッ」
何か企みがあるくせに、あわよくば火球で殺す事も狙ってくる辺り性悪だなとアレルは口元に笑みを浮かべる。ただ、そんなのは今更かと思い直したアレルは、連射と狙いを定める際のほんの僅かばかり生じる隙を狙って膨張魔力を解放する。
連射とはいえ、単発であるが故に次弾の照準合わせに隙が出来る。そこを突いて、アレルは変則強化で一気に幽鬼君主との間合いを詰める。
「何を企んでいたか知らねえが、これで終わりだ!」
そして、アレルは自身の疑念を振り払うみたいに宣言すると、断ち切る事を意識した斬撃で幽鬼君主の体を斜めに両断する。




