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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 千八十話 少しずつでも

 ──所変わって、群衆(ぐんしゅう)の避難を()け負った二人。


「コンラート殿、そちらはどうですか?」


「駄目だ、いくら呼び掛けても正気に戻る気配すら感じられない。やはり、無理矢理にでも運び出すしかないのではないか?」


 コンラートは、そんな事を言いながらも三人だけは気を失っていたお陰で安全な場所まで運べた事に安堵(あんど)する。

 しかし、上手(うま)くいったのはそこまでで、それ以降は叫び声を上げる人々の誰もが呼び掛けには(こた)えない状況が続いている。その元凶──魔物の(ほう)へと目を向けると、消耗(しょうもう)している(はず)なのに魔物が(はな)つ魔法を()ける青年の姿が目に入る。

 その所為(せい)か、自分達も任された事ぐらいはちゃんと(こた)えなければと、コンラートは自分自身を追い詰めるみたいな(あせ)りを感じる。


「······ヘルマン殿? どうかしたのか?」


「いえ······その、声を掛けて回る中で二人だけ亡くなっている(かた)を見ませんでしたか?」


「ああ、いたな。痛ましい事ではあったが······それが?」


 確かに、叫び声を上げる人々へ声を掛ける中で、二人だけ血溜まりの中で息絶えてる男女がいた。コンラートは、自分は(いた)む事ぐらいしか出来なかったが、他に何かあったのかとヘルマンに(たず)ねる。


致命傷(ちめいしょう)となった傷······それは、明らかに長剣による刺し傷でした。加えて、私は(もや)の中での記憶が曖昧(あいまい)です。アレル君は何も言いませんでしたが、もしかするとアレは──」


「何を馬鹿なッ! そんな事があれば、彼だって流石(さすが)に何か言っているだろ?」


 そう口にするコンラートだったが、アンドレの事に対して罪の意識を感じていた様子を目にしているからか、ヘルマンの疑念を完全には否定しきれない部分があるのを感じる。

 しかも、それが表情にでも出ていたのか、ヘルマンは何かを感じたみたいに一言だけ返す。


「仮に、私がやった事だとしても彼には随分(ずいぶん)と見くびられたものですね」


「アレル君とて、そんなつもりは······」


 そう口にしながら、コンラートは自分達が思っている通りであるなら、彼は誰にも何も伝えずに他者の罪まで背負って戦っているのかと思ってしまう。

 新兵の頃、コンラートは自身も過失で人を死なせてしまった罪を背負った事があり、その苦しみは時を()た今でも実感が未だに残っている。その重さから、他者の所為(せい)にして責任から(のが)れようと何度思ったか判らない。苦しみから、夜中に目覚めて何度も吐き戻しそうになったのも覚えている。ただ、それは兵士としての経験を積んでいく事で次第に心が強くなっていき何も感じなくなった。


 そう、何度も経験する事で慣れてしまったのだ。人が死ぬ事に対して。


 だが彼は──アレルという青年は、そんな慣れなど無い(はず)なのに他者を(かば)(みずか)らの(つみ)としてまで、最も厄介な相手を前にして戦っている。そんな青年の姿に、コンラートはそれまで信じていた何かが揺らぐ程に、自身の心が激しく動くのを感じる。


「解ってますよ、それぐらいの事は······ですが、事が終わってから彼には一言言いたい事が出来ました」


 そう口にするヘルマンの目には、どこか青年からの(あなど)りに対する(いきどお)りが感じられる所為(せい)か、何を言うつもりなのだろうとコンラートは感じる。ただ、仮に自分がヘルマンと同じ事をされたとしても青年の無理を(さと)すだけで、ヘルマンの様に何か言ってやろうとまではなれないなと思ってしまう。

 若さ故の(あやま)ちと情動(じょうどう)、青年とヘルマンの二人から感じるものが自分には既に無いと感じるコンラートは随分(ずいぶん)と歳を取ったものだなと自嘲(じちょう)する。


「それはそれとして、どうしますか? やはり、意識を失わせてから一人ずつ運んでいきますか?」


 頭を切り替えたヘルマンに、そう問われたコンラートは果たしてそれで良いのかと考える。


「確かに、それが確実ではあるが······それでは、時間が掛かってしまうな」


 言いながら、視線を魔物と戦う青年へと向けるとヘルマンの視線も自然とそちらへ向く。


「······ですね。私達の中で、最も疲弊(ひへい)しているアレル君への負担を考えると良い手ではありませんが」


 それに、そんな風に青年を気遣う言葉を口にするヘルマンが不思議に感じられたコンラートは思わず無言でヘルマンの顔を見てしまう。すると、その視線に気付いたヘルマンは何とも怪訝(けげん)な表情を向けてくる。


「······何か?」


「いや、先程ヘルマン殿はアレル君へ反感を抱いたのではないかと思ってな」


 コンラートが素直に返すと、ヘルマンはいいえと首を横に振ってから言葉を返してくる。


「私は、アレル君に反感など抱いてはいませんよ。ただ、度が過ぎる気遣いに対して一言言いたいだけです。それというのも、今の彼の戦い(かた)を見れば彼がどういう人物かなんて()ぐに判るでしょう」


 そうして、青年が戦う姿へ視線を向けるヘルマンに続きコンラートもそちらへ視線を向ける。

 どこか未熟さが垣間(かいま)見える動きで、それでも魔物からの攻撃を引き出しながら万が一の際に人々への被害が少なくなる場所へと誘導している。そうして、人々の安全が確保されるまでは勝負を決めにいく様な動きもせずに、こちらが人々を避難させる時間を(かせ)いでいる。そんな動きに合わせて、ヘルマンが不満を抱いている気遣いなどを踏まえると青年の根底にある命への尊厳(そんげん)が感じられる。

 しかし、それは青年が(みずか)らを魔物を引き寄せる為の(おとり)として(あつか)っている為に、(はた)から見ると危うさしか感じられない。おそらくではあるが、ヘルマンが言いたいのは青年のそういう部分なのだろうとコンラートは思う。


「······きっと、良い人柄をしているのだろうな、アレル君は」


「ええ、私もそう感じます。しかし、この場においてはそれが裏目に出る可能性があります。もし、群衆(ぐんしゅう)の中で命を落とした人達を私に殺させたのがあの幽鬼(ファントム)であるならば、そこまでの事をやらせる奴がこうしてただで人々を解放するなどとは思えないのです」


「それはっ!? ······確かに、そう考えた(ほう)が矛盾はしないと思うが、ヘルマン殿にはそれが何かまで判るのか?」


 そう(たず)ねると、ヘルマンは難しい表情をしつつ重々しく首を横に振る。


「いいえ、判りません。ただ、それが彼の心を(えぐ)る様なものである様な気だけはするのです。なので、良い手が無ければ一人ずつでもどうにかしていきましょう」


「解った、ならば取り()えずは気を失わせてから運ぶという事で良いな?」


「ええ、それでより良い案が思いつき次第切り替える形でやりましょう」


 そうして、ヘルマンと(うなず)き合ったコンラートは、手分けして未だに叫び声を上げ続ける人々を一人ずつそこから運び出そうとし始める。それが、魔物と戦う青年の負担を減らすと信じて。



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