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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 千七十八話 振り出しには戻らない

 アレルが覚悟を決める中、ようやくヘルマンも立ち上がれるだけ回復したみたいで、コンラートと合わせて三人で未だ変化のない(もや)(なが)める。

 (とぼ)しい攻撃手段、足りない人手(ひとで)、相手に有利な状況──それらを前にして、アレル達は無言のまま(もや)を前に立ち()くす。それでも、三人の内誰一人として諦めていない事だけは共有されていて、アレルにはたった二人ながらもどこか頼もしさを感じていた。


「アレル君、君だけが頼りだ」


「万が一の時は、私達が盾になるから遠慮(えんりょ)なく使ってくれ」


 コンラートにヘルマンと、そんな言葉を掛けてくるので、気持ちとしては自身と同じ所があるのかもしれないとアレルは感じる。


「冗談は止めて下さい。俺だっ──私も、自分の身ぐらい自分で守れます」


 言葉遣いがややこしい、そう思うアレルではあったものの、年齢も違えば所属や立場だって違う三人が同じ困難を前に協力出来ている事を不思議に感じる。

 幽鬼君主(ファントムドミヌス)をどうにか出来れば、コンラートは王都兵に、ヘルマンは辺境伯の私軍所属の守備隊へ、そしてアレルはアリシアの護衛に戻る。そうなると、三者が三者共に微妙な間柄(あいだがら)に戻る事になり、こうして互いに気に掛けたり言葉を()わす事もなくなるのかもしれない。

 それでも、今この瞬間だけは背中を預けるに()る信頼を置ける相手だと、アレルは警戒の全てを(もや)の中にいる幽鬼君主(ファントムドミヌス)へと向ける。


「三人共っ、(もや)を──アレを見て下さい!」


 そこへ、どこか蚊帳(かや)の外になっていた守備隊員が声を上げる。その指先が指し示すのは、当然の(ごと)幽鬼君主(ファントムドミヌス)が逃げ込んだ(もや)で、アレル達三人も言われるまでもなく視線を向けていた。


 (くさび)が失われ、(うず)を巻きながら中央部へと流れていく黒紫(こくし)色の(もや)。それは、本来五つの場所から(おこな)われる(はず)なのに、二箇所に減らされた異常な状態での運用を()いられているとも考えられる。

 ただ、それ故になのか、それにも関わらずなのかは判らない。それでも、残された二箇所へは周囲の(もや)が吸収されるみたいに収束され、全ての(もや)が残された二箇所から中央部へ急速に送り込まれる。


 そうして、変化を見せた(もや)が中央へと凝縮したからこそ、外と中を(へだ)てる(もや)もかなり薄くなる。


「なあアレル君、これなら──」


「いや、ここで下手(へた)に動くのは命取りになりかねない。とにかく、武器だけは構えといてくれ」


 おそらく、中へ入れるのではないかと言おうとしたコンラートの言葉を(さえぎ)り、アレルは風詠(かぜよみ)から伝わる警告を気にする。それは、まるで(もや)瘴気(しょうき)ごと吸収し、急速に回復しようとしている何者かへ向けられたものだった。


「来るぞッ!」


 ヘルマンが声を張った直後、群衆(ぐんしゅう)を包んでいた(もや)の全てが中央にいる何者かへ取り込まれ、隠されていた光景の全容が明らかとなる。

 いつの間にか、立ち上がった人々は白目を()いた目から涙を垂らし、その苦痛からなのかその苦しみを共有してない者達への怨嗟(えんさ)(うった)えるみたいに叫び声を上げている。そして、無秩序(むちつじょ)に集まっている人々の中央──そこにアレル達の目標とする対象の姿も見えてくる。

 『荒ぶる(たましい)』の攻撃により、その体は三分の一程が削り取られていた(はず)だった。しかし、(もや)ごと瘴気(しょうき)を取り込んだ幽鬼君主(ファントムドミヌス)の体は、その全てが元通りになるどころか内包する禍々(まがまが)しさだけはより深みを増していた。


「────ァァッ!!」


 だが、どういう訳か幽鬼君主(ファントムドミヌス)は完全に優位に立った(はず)なのに、それとは反対に耐え(がた)屈辱(くつじょく)を与えられたみたいに耳が痛くなる程の金切り声を上げてくる。

 見ると、その苛立(いらだ)ちから体を激しく動かしているが、その右腕だけは全く動いていなかった。ただ、それに心当たりがあるアレルは、こっそりとコンラートとヘルマンにだけ聞こえる様に声を(しぼ)る。


「今から、アイツを挑発(ちょうはつ)して注意を俺だけに向けさせます。なので、二人はどうにかしてあそこにいる人達が戦闘に巻き込まれない様に移動させて下さい」


挑発(ちょうはつ)だと? そんな事をして君は──」


「大丈夫です。釣れる確信もありますし、何よりアイツは俺を一番警戒している(はず)なので」


 異議を(とな)えるヘルマンに、アレルはそれなりの勝算がある事を伝える。すると、アレルを案ずるヘルマンにコンラートが声を掛ける。


「ここはやらせてみるしかない。アレル君の言う通り、あそこに無防備な人々がいれば戦いに巻き込んでしまう可能性がある。まずは、あの人達の安全を確保するのが優先だ」


「······──ッ、解りました」


 そんなコンラートの言葉に、反論を()み込んだ様子のヘルマンが不承不承(ふしょうぶしょう)といった感じで首を縦に振る。

 人々の安全を優先するコンラートに、戦力の分散を気にかけるヘルマン。こんなところでも、互いの考え方に違いが出る辺りにアレルは即席感を感じてしまう。それでも、やる事が決まったのであれば自分の事に集中するだけだとアレルは気を引き締める。


「では二人共、心の準備をお願いします。······お~い、そんなに取り乱してどうしたんだよ? まさかとは思うが······その腕、どこかで斬り落とされでもしたのか?」


 コンラートとヘルマンから離れ、一人である程度開けた場所まで移動しつつアレルは嘲笑(ちょうしょう)の笑みを浮かべる。

 それに対し、言葉を理解する程度の知能は余裕で有する幽鬼君主(ファントムドミヌス)がその動きをピタリと止め、アレルへと眼窩(がんか)の奥の(あか)く光るものを向けてくる。


「それにしても、体が元通りになったにも関わらず腕が動かせないなんて滑稽(こっけい)だな。お前、人間の事なんて馬鹿にしてただろ? だから、そんな目に()うんだよ。ああ、でも片腕だけ動かせないってのも不便だよな······何なら、左右の均整(バランス)取る為に残った片腕も同じ様にしてやろうか?」


 そう口にした瞬間、それまで群衆(ぐんしゅう)の中央から動かなかった幽鬼君主(ファントムドミヌス)猛然(もうぜん)とアレルへと飛び掛かってくる。その反応に、コンラートとヘルマンに目配せをしたアレルは、二人が群衆(ぐんしゅう)へと近づいたのを目にしてから幽鬼君主(ファントムドミヌス)が実体化させた腕による攻撃を騎士剣で受け止める。

 こうして、最後になるであろう攻防の火蓋(ひぶた)が切られたのであった。



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