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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜非望〜 千七十六話 迂闊には動けない

 亀裂(きれつ)へと振るわれた騎士剣、魔力を(まと)わせていた刃は(もや)を斬り()いてその奥に外の景色を(のぞ)かせる。それはこれまでと違い、周囲の(もや)欠損(けっそん)を埋めようという動きを見せる事がない。

 ただ、そんな裂け目とは反対にアレルの(ほう)はそのままとはいかずに、(もや)を斬り()いた直後から他にも()えていた小さな亀裂(きれつ)()えなくなってしまう。


 たった一振り。


 本来は、アマデウスの能力(ちから)を行使する為に必要だと言われた魔力と闘気(とうき)の混合──それが、たった一振りだけの上にアマデウスの能力(ちから)すらも(ろく)に使用してないのに、それだけで生成した全てを使い切ってしまう。

 その事実を前に、アレルは自分の中にいる存在がどれ程遠く(はる)かに気高い場所にいるのだろうかと改めて実感し途方(とほう)()れる。それでも、ようやく自分だけの力でその(いただき)へと続く道の出発点には立てた、その事に対しての確かな高揚(こうよう)感は(おのれ)の中に存在している。

 ただ、反対に自身のそんな未熟さが現状に対しての無力感を増長している事も解る為に、アレルはそんな高揚(こうよう)感には(ふた)をして目の前の事に集中し(なお)す。


 そうして、アレルは騎士剣を(さや)(おさ)めてからヘルマンを(かつ)(なお)し、少しだけ背後を振り返る。

 出来る事なら、全ての人を(もや)の外へ出してやりたい。でも、それをする為の時間も人手(ひとで)もない事は充分に理解はしている。だからこそ、幻覚に囚われたままだと危険で、外に出さえすれば人員を動かせるヘルマンを先に外へ出すんだとアレルは自分に言い訳をする。

 そして、そんな言い訳をした上で叫び声を上げている人々へ心の中だけで謝罪を済ませたアレルは、意識を失ったままのヘルマンを(ともな)(もや)の外へと脱出する。


「アレル君ッ!? それは、ヘルマン殿か? 無事なのか?」


 すると、(もや)の外では内と外を(つな)()け目が確認出来ていたのか、出て()ぐの所にコンラートと守備隊の一人が武器を構えて立っていた。

 アレルは、そんな二人に対して何かを答える前に(もや)から充分に離れ、肩に(かつ)いでいたヘルマンの腕を下ろしてその場に寝かせる。


「······一応、俺達は無事だ。ただ、ヘルマンが中で瘴気(しょうき)に当てられたのか幻覚に囚われていたから、こうして気を失わせて外に連れ出した所だ」


 そう返すと、コンラートの隣にいた守備隊が構えを()いてその場に寝かせたヘルマンに駆け寄る。その一方で、コンラートはアレルの言葉を受けて少し考える間を()けた後でアレルへ言葉を返してくる。


「幻覚と言っていたが、中で何かあったのか?」


「······まあ、色々とな。ただ、中に逃げ込んだ奴が(もや)の中央で何かしてる所までは判った」


「そうか! であるならば、君達が出て来た()け目を利用して人々の救出とヤツの討伐(とうばつ)も可能だな」


 と、アレルの言葉にコンラートはどこか喜んでいるように声を(はず)ませるが、反対にアレルは中に対してそれ程の希望が持てない事も知っているのでその表情に影を落とす。そこから、コンラートは何かを()み取ったのか、少し間を()けた後でアレルを気遣うみたいに遠慮(えんりょ)がちに続けて(たず)ねてくる。


「その······何か、懸念(けねん)でもあるのか?」


 その問いに、アレルは言葉で(こた)える前にやれやれと肩を(すく)めてみせる。


(むし)ろ、懸念(けねん)しかねえって感じだよ。中は瘴気(しょうき)が混じってて、耐性がない普通の人間が入ればヘルマンみたいに正気を失う可能性がある。ただでさえそんな状況なのに、周囲の叫び声が(もや)の中を反響してこっちの精神をガリガリ削ってもくるしな」


「······そんな中で、よくアレル君は無事だった──ん? 君、その瞳はどうしたんだ? 少し色が──」


 そう言われ、何が原因か判らないが風詠(かぜよみ)を使用している事もあって瞳の色味が変わっている事を、アレルはコンラートの言葉からようやく(うかが)い知る。なので、その言葉を途中で(さえぎ)りつつも嘘にならない程度に誤魔化(ごまか)す。


(たましい)とか、そんなものを()ていた影響なのかもな。取り()えず、自分の身体の事で理由(わけ)のわからない事があると気持ち悪いから気にしないでくれ」


「うむ······それもそうか。済まなかったな」


「別に構わない。ただ······アレをどうするかが問題だな」


 アレルは、コンラートが配慮(はいりょ)のなさを謝ってきた所で、気にするなと返しつつ話題を変える為に自身が出て来た(もや)へ視線を動かす。

 先程自身が斬り開いた出入り口は健在、だがその程度では(ほころ)びを作ったぐらいにしかなっていないみたいで(もや)自体には目立った変化は見られない。その中で変わった事といえば、外からでも見える程にはっきりとした二箇所から中央へと向かって(うず)巻く(もや)の流れだろう。それに比べて、アレルが(くさび)とされていた人を解放した箇所には、中にいる時に感じていた薄くなった様子が外からでは見られなくなっていた。

 その違いは何なのか、そもそも幽鬼君主(ファントムドミヌス)の狙いはどこにあるのかと、アレルは再び動き始める前に色々と考え始める。時間が限られているからこそ、一度落ち着けた今の内に情報を整理するのも大事だとアレルは思う。


「アレル君、もし奴が回復してる途中であるなら、君がそこから倒しに()く事は出来ないのか?」


 すると、そこへコンラートがアレルの作った(もや)()け目を指差して(たず)ねてくる。

 それに対し、アレルはその場合の仮定を頭の中で考えながら、それをそのままコンラートへの返答としていく。


「出来る出来ないの話であれば試す事は出来るが、奴を倒せるかという話であれば判らないとしか言えない。仮に、奴が動けない状態であれば一方的に倒す事も出来るが、万が一にでも戦闘になろうものなら中にいる人々を巻き込む事にもなる。更に言うと、俺も色々と消耗(しょうもう)しているから無駄になりそうな事を試している余裕が無い」


「そうだな······こちらにとっての、唯一(ゆいいつ)奴への有効打を持つ君が動けなくなるとどうにもならないのは痛い所だな」


 コンラートの言う通り、こちらにとっての弱みはそこにあって、仮に(もや)の中で幽鬼君主(ファントムドミヌス)が万全な状態まで回復したとしたらゴリ押しされて負ける可能性がある。

 それを踏まえると、こちらも出来る限り回復に(つと)めるべきなのも解るのだが、薬も無ければ補充したい投げナイフもこの場には無い。そういう訳で、打つ手も無ければ回復の手段も無い──そんな状況で、幽鬼君主(ファントムドミヌス)へ時間を与えてはならないのも解っていながら、アレルは何も出来ずにただ時間ばかりが過ぎていくのを感じる事しか出来なかった。


「せめて、瘴気(しょうき)だけでもどうにか出来ればな······」


 そうすれば、少なくても人手を集めれば(もや)の中の人々を外まで運んで、中央部にいるであろう幽鬼君主(ファントムドミヌス)との戦いに専念出来る。でも、その為にだからと魔力と闘気(とうき)の混合を使い続けて(もや)の中の瘴気(しょうき)全てを除去するなんて事も無理な話で、仮に混合を使い続ける事が出来たとしても瘴気(しょうき)の発生源をどうにか出来なければ意味がない。

 そう考えるアレルは、瘴気(しょうき)の発生源──負の感情を刺激され続けている人々をどうにか出来るかもしれないオルフェの存在を思い浮かべる。



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