此花 咲耶
身長は高くない。が、低いと表現すると激怒するので禁句である。
豊満な体でもない。が、貧弱と表すると激怒するのでこれもまた禁句である。
髪を常に綺麗に巻いており、エレガントなドレスは育ちの良さが滲み出ている。
此花 咲耶17歳
彼女は3万人に1人というIQ160の持ち主だった。
家業が重工業という環境も後押しし、
彼女はあっという間に機械工学のエキスパートとなった。
最初に彼女が目指したのは宇宙漂流物の一掃。
世界中の人が綺麗な夜空をみるため、という実に子供らしい理由だった。
それがどれほどの偉業かも知れず。
安全にデブリを大気圏に落とす。
その作業の中で培われた技術の応用が
automatic life guard machine(ALGM)、荒神である。
まだ量産はできないが、いずれ車の様に各家庭に一機ずつ、が彼女の夢でもあった。
誤算もあった。
機械の性能に人間がついていけない事。
いや、寧ろ、人間の判断が機械を邪魔してしまう事だった。
「お嬢様。皆様荒神の操作を順調に習得中です。
僅か48時間で全体性能の7割近くを発揮できています。害獣駆除程度ならなんの問題もないでしょう。」
此花 咲耶の秘書であり、執事の瀬馬がフルーツジュースをトレイで運びながら報告する。
「エキスパートを集めたとはいえ想像以上ですわ!
スサノヲの高周波ブレードも!」
「鉄骨の切断に成功しました。」
「ツクヨミの超長距離射撃砲も!」
「1km圏内の狙撃成功率、100%です。」
「タケミカヅチのホバーエンジンはどうですの!?」
「外れにある森を踊る様に移動できるようになりました。野生動物でもタケミカヅチに触れる事は出来ないでしょう」
「アマテラスは?」
いままでスラスラと答えていた瀬馬がはじめて答えに詰まる。
「四足歩行のイメージを掴めず苦労しているようです。習得度は3割、と言ったところですか。」
「・・充分ですわ・・・!走る事さえできれば、アマテラスは誰にも捕まえらませんもの!!」
「タケミカヅチでも、ですか?」
「アマテラスにはリミッターが着いておりませんの。狼にリミッターなんて不要ですわ。」
オーッホッホッと咲耶は高笑いをする。
伸びた鼻が天を突く勢いだった。
「とはいえ人間は二足歩行でございますお嬢様。四足歩行の、獣の動きを完全にトレースすることなど出来るのでしょうか?」
「瀬馬ちゃん。象形拳というものをご存知?」
「私は象形拳をお嬢様がご存知のことの方が驚きです。動物や昆虫の動きを取り入れた武術、ですね。
いまや使い手もいるかいないかという幻の拳技。
まさか・・・あの少年が?」
「使えませんわ!」
間髪いれずの否定に流石の瀬馬もテンポを崩す。
「ですが芳村 恒星とアマテラスのスペックを考えれば、人狼一体の動きは理論上可能!」
此花 咲耶の発言に迷いはない。
「不躾ながらお嬢様。最大の問題が残っています。あと24時間しかありません。」
高笑いがピタリと止み、此花 咲耶は肩を震わす。
「今回はドローンで偵察という事にしては?」
「偉そうに呼びつけておいて、私だけ操作できませんなんて厚顔無恥な振る舞い、とてもできませんわ!」
「厚顔無恥もなにもお嬢様の適性はメカニックですから。操作が苦手でもなんの不思議ではありませんよ。」
最適解が分かっても。最適解通り動けるかは別である。
身体がイメージに追いつかない。
それも大きく。
完璧主義が失敗を嫌がり、それが更に苦手意識を強くする。
つまり。
此花 咲耶は運動音痴だった。
「あと24時間以内に、シュミレーターの最高スコアを更新しますわよ瀬馬ちゃん!」
「実機があるのですから実機訓練をしては?」
瀬馬の提案に咲耶は首を振る。
「ドール起動。衛星からこの施設の周辺を映してくださる?」
手袋型デバイスから浮かび上がった映像には、滑走路のようなコンクリート上を光の軌跡を残し蛍の様に動き回る影。
「これは、『気にするな』では済まされませんね。」
「紙飛行機で竜巻に飛び込む様なものですわ。ですが必ず基本移動くらいはできるようになってみせますわよ!」
「その意気です、お嬢様。」
瀬馬が間髪入れず拍手をする。
才能とは原石。
磨かれずに輝く事などないのである。




