此花重工試験場・宿泊施設
四角。
白い四角を組み合わせたその建物。
四角い台の様なテーブル。
四角い箱の様な椅子。
キューブの集合体。
そんな宿泊施設だった。
商業施設の休憩所の様な広間には、椅子とテーブルが点在し、向こう側のカウンターにはモノリスに似た自動販売機がある。
『読み上げます。
ギア、ドールズ。軌道エレベーター修復作業開始。
荒神実施実験順調に進行中。
荒神操縦士の呼称が『依代』に変更されました。
ルナシティ地下の拡大の検討中。
電脳都市アビス、ログイン不可に。解明急がれます。』
宵一の手袋型デバイスから端末AIドールズの合成音声が、いつもの様に情報を読み上げる。
「アレが恒星ちゃんの弟〜?」
「ちょ、教官、ギャップで脳がバグりそうです。」
頭を抱えながら、恒星は石凝尊の質問にそうだと答えた。
「なんかあんま似てなくね?見た目は結構似てるんだけど・・・、印象?纏う空気が全っ然違うんですけどー。」
「流石、教官ですね。教官もアバターと全然違いますけどね?」
「マジウケる」
性格や性質は全く違うが、芳村兄弟はよく間違われる。
似てないのに似ている。
「あとベタベタするのやめて欲しいんですけど」
「えー、いーじゃんー。これやってるとバイブスブチアガるんだし。」
石凝尊は後ろから恒星の首に抱きつき、頭を撫で撫でし続ける。
「『猪を10回投げて来い!猪はこちらで生きのいいのを用意しておいた!』とか言ってた人と同一人物とは思えない・・・。」
ギャップに全く着いていけず、恒星は顔を青くする。
まるでフリーフォール、100m級の重力落下だ。
恒星にとって石凝尊とはなんなのか。
鬼である。
足掻けば足掻くほど、もがけばもがくほど、嬉々として負荷をかけてくる。
だからといって無心でこなしていると軽く3倍の負荷をかけてくる。
ではもう限界だ!という体をとってみたらどうか。
おそろしく刻んで負荷をかけてくる。
とにかく人を追い込むのが好きで、夢にまであのけむくじゃらのおっさんアバターが現れたものだ。
そんな鬼教官になぜ師事してきたか。
強いからだ。
圧倒的に。
強い鬼に鬼鍛えられたら鬼強くなる。
そんなバカの足し算を心の底から信じ、恒星はついに格闘技能が4へとランクアップした。
石凝尊は鬼ではあったが、恒星は嫌いでは無かった。
いや、寧ろ好きだったと言える。
どれだけ頑張ればあの強さに達するのか。
努力なしにはあり得ない。
そしてその努力の結晶を惜しみなく与えてくれる。
口では憎まれ口を叩くが、尊敬していた。
だからこそ。
この落差についていけなかった。
「兄さんのそんな顔、久しぶりに見た。」
ジュースを飲み終えた宵一が、並んで座っていた二人の所に合流した。
長いテーブルに等間隔の椅子はシンプル故に味気なく感じる。
「父さんが『女の子の扱い方には気をつけろ』って説教して以来だね」
「この子素直だけどぶきっちょだよねー。とりま『まっすぐいってぶっとばす』だもん。
押してダメなら引くっきゃないっしょ!って教えるつもりで用意した猪、タックルで逆に吹っ飛ばした時は流石に呆れたし!」
「あーあの猪事件ですね?」
空気がピリッと張り詰めた。
「あの時はホント大変でしたよ。妹が教官に文句言いに行くって息巻いて」
「それはマジゴメン」
「僕はどうすれば完全犯罪が成立するか思案してました。」
「止める人いねーし!」
「兄さんが教官を庇っていなかったら違う結末を迎えていたでしょうね?」
「あーしはね?恒星ちゃんの実力ならイケるって信じてたし。」
「それは兄さんならそれくらい軽くこなしますよ。」
「ヨイチ!?俺が大怪我したとこ見てたよね!?」
「猪が5倍、いや10倍でも兄さんが負けるはずがない」
「でしょー?じゃ、ウチらのバイブスバッチリ噛み合ってんじゃん!」
攻守交代、いつの間にやら同志扱いをされる宵一。
だが鬼神の如き強さを誇る石凝尊は見逃さない。
宵一の偽りのない本気を。
殺気でも怒気でもなく。
まるで使命感のような。
濁りのない氷の様な。
一部の隙もない決定事項。
石凝尊は理解する。
片方を殺せば、もう片方が必ず報復にくる。
手段を問わず。
刺し違えてでも。
この二人は、運命共同体なのだと。




