芳村 恒星
「熊殺し、ですか・・・。」
空中に浮かぶディスプレイに映る、筋骨隆々な傷だらけのおっさん。
格闘技術の教官である、石凝 尊の仮想現実体、すなわちアバターである。
傷だらけなのはともかく、眼帯はやりすぎだろ、と恒星は画面を凝視する。
「此花重工が開発した『荒神』という災害救助用パワードアーマーの実施試験なのだが、適格者がいなくてな。
充分な働きをみせれば、『格闘技術』に『熊殺し』の称号がつくぞ。」
「すごいんですか?それ?」
「めっちゃ凄い。格闘の世界で熊殺しは英雄視されるレベルだ。この称号に迫るのは『虎殺し』だが、虎はいまや幻獣扱いだ。」
「竜殺しみたいなもんですか?」
「みたいなもんだな。」
画面越しにも教官が呆れているのが分かる声色だった。
「これをうまく果たせば最高ランク5まで一気に近づくぞ。
格闘技術5自体はそんなにレアなわけではないが、二年以内に修めるのは貴様がはじめてになるだろう。
よくぞこの厳しい修行に耐えてきたな。」
気を取り直し、石凝 尊教官は恒星の機嫌を伺ってくる。
恒星は反射的に叫んだ。
あの「猪事件」を思い出したのだ。
四方八方から襲いかかってくる猪を一匹躱せば二匹に増え、二匹躱せば三匹に増え。
命を守る為に猪を投げ飛ばす事ができる様になった頃には骨が二本折れていたあの「猪事件」である
。
尊教官はアバターの髭面をしかめ、すぐさま話題を変える。
「荒神は適格者が中々見つからなくてな。まだ試作機段階とはいえ、貴様と私の他に3人しかいないのが現状だ。」
「パワードアーマーなんて重機みたいなもんすからね。機械技術、運転技術あたりが必要になるのに、実施試験が熊の駆除じゃあ・・・。」
「その通りだ。どうせ知られるだろうから先に情報を開示するぞ、バカ弟子よ。」
「まだやるって言ってないんだけどなぁ・・・。」
「師匠の私が行くのだ。貴様がこなくてどうする」
「教官行くんなら教官だけでなんとかなりそうなもんですけど。後さりげなく弟子扱いやめて欲しいです。」
「口の減らん奴め・・・。これは光栄なことなのだぞ。
まず私、石凝 尊。その弟子、芳村 恒星。我らには近距離の戦闘データが求められている。」
弟子扱いする癖に弟子の言葉は全く聞く耳を持たない。
無駄を嫌う現代人には不人気だったが、恒星は無駄を楽しめる人間だったので尊教官との相性は良かった。
なにより武術の腕が良かった。
「此花重工からは代表として、開発者兼操縦士、此花 咲耶が参加するが、彼女は戦闘には参加しない。機動力や現地でのデータ収集が役目だ。
それから田中一郎。偽名っぽい名前だが、多分偽名だろう。上手く隠されているが諜報関係を生業にしているようだ。こいつは地域や地形、敵陣を把握する斥候係だな。
最後は・・・芳村 宵一。こいつは16歳で最年少だが射撃技術と機械技術が抜きん出ている。遠距離戦闘のデータを取るのが役目だ。」
「すみません教官、最後の人、もう一回名前いいですか?」
「芳村 宵一・・・。そういえばお前も芳村だったな。まさかとは思うが・・・?」
なんとも複雑な顔で笑いながら恒星は答えた。
「弟です。」
弟ながら非凡な才能を持っているなとは思っていたが。
わずか一年で、だって?
一瞬で追いつくんじゃねーよ全く。
だけど、
だから、
アイツの前を歩くのは楽しい。




