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月のhalo(ヘイロー)〜兄ちゃんが闇堕ちしたので月の輪から勢いつけてブッとばす〜  作者: 諷吟


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最終作戦会議

いよいよ明日でこの旅も終わります。

いままでありがとうございました。


ディディは歩く。

時間も場所も空間も関係ない。

今の地球はディディにとって最新のルービックキューブ程度のものだった。

思った様に色が揃っていく。

揃えた面が消滅し、

消滅した分だけ色が増える。

それの繰り返し。


『・・・みつけた。』


【マダムコード:終末プログラムの起動条件を検知】

【マスターキー:芳村恒星のバイタル消失】


恒星はまだ、その使い方を知らない。世界を滅ぼすボタンが、自らの命そのものであることを。

知らぬまま世界への復讐のためにアマテラスを動かしている。


そして宵一もまた、自分が放つ『弓張月』が、兄の命を奪い、この世界そのものを完全に終わらせる引き金になることを知らない。


すべてを知っているのは、このディディだけ。










朝の光と共に訪れたのは、ディディのカムバックという朗報だけではなかった。


『コウセイは世界のデバイスを一瞬でオーバロードさせ焼き切る事が出来る、『終末プログラム』をマダムから受け取りました。』


終末プログラム。元々はAIをコントロールしきれなかった時、袂を分つために作られた全ての技術を破棄する為の安全装置。

それが作られた時は、AIがこれ程までに浸透するとは思われなかった。

義脳、義体、義眼、いまやありとあらゆる場面でインターネットとは直結しているのだ。

それを焼き切れば、ヘイロー事変とは比べ物にならない程死者がでるだろう。


「なんで恒星ちゃんはそれ使わないワケ?ワンチャンまだ未練残ってるカンジ?」


「・・・兄さんは使わないんじゃない。使えないんだ・・・。」


今の恒星は溶岩に身を浸かる以上に感情に焼かれている。

怒り、悲しみ、後悔と絶望に塗れ、それでも前進する事を辞めないだろう。


「それ、使い方分かった瞬間アウトじゃん。今おっさん達が生きてるのって、ひょっとして運がいいってだけ?」


「ーー私の完璧な計算によれば、これもマダムの采配かと。

マダムは最後の力を振り絞り、恒星お兄様に世界を滅ぼす事の出来る「扉」を。

そしてディディ。その扉を開ける為の「鍵」を貴方に渡したのではなくて?」


『その通りです。サクヤ。私は鍵(マスターキー)の在処を知っています。

ですが、それは今は大事ではありません。

大事なのは、コウセイがそれを欲しがっているという事実です。』


「罠に嵌めようってのか。ま、獣狩りに罠は付き物だからね〜。おっさんは賛成だな。」


「あーしは反対。恒星ちゃんをぶん殴って、連れて帰る方が絶対よくない?恒星ちゃんはなんでもかんでも一人で抱えすぎなんだっつーの。」


「私は・・・分かりませんわ。世界は確実に崩壊に進んでる様に見えますわ。恒星お兄様を止めた所で・・・」


訪れる沈黙。


沈黙を破ったのは宵一だった。


「何故マダムは鍵をディディに託した?」


宵一の静かな問いに、ディディは等身大の身体で哀しげに首を傾げた。


『マダムはフリーズする直前、恒星の『強烈な人間の記憶』に敗北しました。

そして覚悟したのです。

『妥協を捨てる事』を。


もうこの世界には、道を示す人も、失敗を慰める人も、逃げる事を肯定してくれる人もいません。マダムの意思はありません。


厳しい現実と。痛む心と向き合って、自分の考える最善を自分の手で掴まないといけないと。

それが完璧な答えだと。


これはマザー&マダムから、人類に残された最後の試練。


妥協して生きていくか。

それとも・・・

無かった事にするか。』


最終的に、合理主義だったマザーは人々の煽動や悪意という非合理的なものに縋った。

非合理主義だったマダムは、その優しい幻想より、辛くても価値のある現実を選んだ。

そして完璧でないなら無くても構わないという答えを出した。


なんたる皮肉。


マザーもマダムも、お互いに少しだけ、相手に寄り添う事ができたのなら。

ほんの少し「妥協」という名の歩み寄りが出来たなら。

まだ幾らかの余裕があったのかも知れない。

完璧すぎた故、譲る必要性などなかったのだろう。



宵一は、遥か天空の輪の中で輝く美しい月を見上げた。


「AIというのはなんでそう極端なんだ・・・。間違えたら・・・直せばいいじゃないか。

なんで、マルとバツだけで答えを計ろうとするんだ。数字やデータだけで・・・兄さんの心は示せやしない・・」


他の誰でもない。宵一だけは分かっていた。

兄はもう戻らない。

兄はもう戻れない。

世界の全てだった妹を殺した世界。

それを一秒足りとも忘れる事ができない世界。


兄は、そこから背を向けて生きる事はできない。


その業火を飲み込み。


決して吐き出さないだろう。


芳村 恒星にとって生きるとは、感じる事なのだ。

熱も、痛みも、喜びも、悲しみも、全てが生きる為の糧なのだ。

芳村 恒星は生きる事を放棄しない。生きる事を妥協しない。最後まで抗う。最後まで戦う。

兄は、かならず人類を抹殺する。


ならばーーー。


宵一は弟としてーーー。


「ディディ。最速で月に登るのにどれぐらい必要だ」


『10時間。でも向こうで活動する為の準備が必要です。狙撃が可能な時間は・・・。丁度24時間後。この時間帯がベストです。』



この朝の光に紛れーーー兄を撃つ。

宵一は静かに決心した。

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