↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月のhalo(ヘイロー)〜兄ちゃんが闇堕ちしたので月の輪から勢いつけてブッとばす〜  作者: 諷吟


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/45

滅亡の夜明け

スペースシップのすぐ傍で、4人はキャンプを張っていた。

焚き木で暖かいご飯を食べる。

狭いコクピットを抜けて、平原とはいえ身体を伸ばして寝れる。

久しぶりの地球。

久しぶりの大地。

だが心の弾むものはいなかった。


ディディは全員のディスプレイから姿を消していた。

マザーもいなく、マダムもいない。

統治者を失った巣が崩壊するように。

まずは仮想空間がパニックに陥ったようだった。

そしてそれは現実でも。




横になりながら、宵一は深い星空をバックスクリーンに緊急情報のニュースを選査していた。


「各地で相継ぐ、暴動、略奪、自殺・・・。人ってこんなに弱かったんですね・・・。」


思わず口に出てしまう。

幻滅とは違った。

勘違いだと気付いたのだ。


「そうだよ、ヨイッチ」


返したのは石凝 尊だった。


「人は皆んな弱いの。忘れたの?あなたも、恒星も、あーしも元々は弱かった。

一人で歩けないくらい、弱かったんだよ。」


「皆んな最初は「自分の命」しか持ってないのさ。そこから色々得ていくんだ。おっさんには難しかったけどね。」


「こんな私でも、弱気になる事がありますのよ?一般の方々が一歩も動けなくなる気持ち、察して余りありますわ。」


皆んな弱い。

そうだ。

なんで忘れていたんだろう。

兄さんは強くなんかなかった。

ただずっと、強くなろうとしてただけじゃないか。



「僕達は・・・何もするべきじゃなかったのかな」



統治者は消え、人は狂い、月は壊れ、世界は終わる。



「あーしはそうは思わないよ、ヨイッチ。

ヨイッチも、恒星ちゃんも、華ちゃんも、田中っちも、サクヤっちも。

みんなそれぐらいの価値があるって、私は信じてる。

私のマブは世界と天秤にかけれるくらいヤバいって。

それで、必ず世界を良くしてくれるって。

信じてる・・・・・」






その日、宵一は夢を見た。

淡い夢だった。




そこは、あの海だった。

電脳世界で見た銀之砂浜(シルバーサンズ)

最後に華と会った場所。


紫の空。

黄色の空。

紺色の空と波の音。


お前だって華の兄貴じゃ無いのか。

潮風にまぎれて兄の声が聞こえる。


兄はきっと、そう言いたかった。

そう言いたかったのに呑み込んだ。

卵サイズの溶岩の塊を飲むみたいに。


無事なわけがない。

大丈夫なわけがない。

でも兄は止まらない。

誰も許さない。

兄自身も。


『ヨイチ。』


不意に名前を呼ばれた。

違和感があった。

振り向くとそこには等身大のドールがいた。

いつものショートジャンプスーツ。

長く白い髪にピンクのインナーカラー。


「・・・・ディディ?」


『久しぶり、ヨイチ。』


いつもの妖精サイズのサポートAIではなく、そこにいるのはマザーやマダムと同じサイズのディディだった。


『ヨイチがアビスに連れて行かれて、帰ってくるまで二日かかっています。』


「二日・・・もっと短い間かと・・。」


『私はマダムコードをもっていたので、安全に着陸できたのですが。マザーに続きマダムまで倒れた今、各地で崩壊、暴動が起きています。』


「ディディ・・・僕達は・・」


『間違えたかもしれない、と?』


宵一は、静かに頷いた。

その不安が恐怖を加速させ、次の一歩が踏み出せないのだ。


『一度も間違いのない人生を歩みたいですか?』


唐突な質問だった。

宵一は少し考えこんだ。


「自分の言葉通りに世界が動くか、誰かが知ってる正解通り動かないと無理じゃない?」


『ヨイチ。生きるのに正解はありません。

全部が正解で全部が不正解。今、不正解なものも明日には変わるかも。

この半世紀でどれほどの正解が不正解に?

その逆は?』


「君は・・・・ディディなのか?」


『マダムは私にマダムコードを遺していきました。

統治者がいなくなったシステムは、誰かが統治しなければ崩壊してしまいます。

今の世界の様にーーー。』


「君がいま、この滅びそうな世界を支えているのか。この・・・地獄の様な世界をーーー。」


涙が頬をつたった。

理不尽だと思った。

何故自分なんだと。

何故自分達なんだと。

僕はただ、兄さんと、華と、三人で暮らせたらそれだけで幸せだったのに。

生命を守るなんて

神の力を求めたばっかりに。


統治者は消え、人は狂い、月は壊れ、世界は終わる。


『泣かないで、ヨイチ。世界はまだ、終わっていません』


等身大のディディが、静かに宵一の前に膝をついた。半透明の手が、宵一の涙をそっと拭う。感覚はない。指先がノイズに揺れた。


『・・・落ち着きなさい、ヨイチ。冷静になった貴方なら100%なんだって出来ます。奇跡だって起こせます』


「君は・・・父さんと・・同じ事を・・・。」


ディディの長く白い髪が、夢の風に揺れる。


『今、恒星はマダムから受け取った【終末プログラム】を起動させ、この狂った世界そのものを完全にデリートしようとしています。世界と、人類と、自分自身を巻き添えにして、すべてを終わらせるつもりです。――それを止めれるのは貴方しかいない。』


「今の兄さんは誰にも追いつけない。僕は見たんだ。兄さんは僕のライフルの弾を追い越してから躱した!弾の回転数を数えることすら出来るかもしれない。今の兄さんには絶対に届かない!」


それでも宵一は叫んだ。4対1で引かせたとはいえ、あの圧倒的な暴力を前に、心が折れかけていた。


『いいえ。出来ます。音よりも速く撃てばいいのです。』


ーー宇宙ステーションのリニアレールウェイみたいにーー

ーー兄さん、宇宙と地球では法則がーーー


「・・・・宇宙から・・・でも大気の壁で大爆発を起こしてしまう・・・」


『大気の壁を消し飛ばしてもらえばいいのです。尊のスサノヲを使って。』


「・・・一口に宇宙と言ってもどこから狙撃するかでラグが変わる・・。宇宙ステーション?流石に動くスペースシップからの狙撃は・・」


『月です。』


「・・・・月・・から狙撃・・・・?」


『この作戦は一度しか使えません。その一度のチャンスで確実にコウセイを止めるには、これしかありません。


宇宙(あそこ)なら、大気(かべ)はありません。ヨイチ、もう一度、私と共に月に昇るのです。

『月の輪(ヘイロー)』磁気レールにして、限界を踏み越えた超加速で撃ち下ろす。――初速、秒速2000キロメートル。

38万4400kmの果てから、アマテラスのコアを撃ち抜く超弩級遠距離射撃。

作戦名はーーー弓張月。 

ヨイチ。私の全部を賭けて、貴方をサポートします。』


今のディディはきっと無敵の存在だ。

その無敵の存在が、無敵の力を持って助けてくれると宣言した。

結局やるかどうかは自分次第。

そんな事は分かってる。

でも。

答えたくなったんだ。

僕は兄さんと同じ、男だから。


宵一は力強く、まっすぐにディディの瞳を見つめ返した。










宵一は、朝の冷たい空気の中で勢いよく目を覚ました。

キャンプの焚き木はとっくに消え、平原の向こうから、レモン色の朝が昇り始めていた。

壊れたツクヨミのハッチを開ける。

周囲を見回す。

尊、咲耶、田中がすでにそれぞれの機体の前で待っていた。

宵一は、涙の乾いた両目で、3人を見据えて言った。


「みんな、聞いてほしい。――僕はもう一度、月に昇る。兄さんを、宇宙(そら)から撃ち抜くために」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。