芳村 宵一
不自由でままならぬものばかり愛した彼らの父は、変わった男で良く人類の行末を案じていた。
インターネットの中に移住する、とか、月に街を作る、とか。文字を書く事がなくなる、とか。
無人の車が走り回る、とか、人間と機械の見分けがつかなくなる、とか、人は富を求める事をやめ、緩やかに衰退していく、とか。
外宇宙を目指す、とか、エイリアンと遭遇する、とか。
その殆どが実現してしまった。
マザー&マダムは最小の労力で最大限の成果を出せるのだから。
宵一は自分の朝ごはんになる目玉焼きをフライパンで焼きながら、手袋型デバイスを起動し、端末AIであるdirect operation litlle lady 通称、DOLLに最新の情報を読み上げさせる事にした。
「ドール起動、オススメの記事を読み上げてくれ。」
コンタクトレンズ型ディスプレイに浮かび上がるのは、白い長髪にピンクのメッシュが入った掌サイズの女性。
ショートジャンプスーツの妖精のようだ。
宵一の声に手袋に張り付けられ薄型のスピーカーから声が返ってくる。
『おはようございます、ヨイチ。
今朝の情報を読み上げます。
天気は曇りのち晴れ。降水確率は0%。
トピック
ルナシティ住人が20万人突破
電脳世界アビス相次ぐIDデリート
新型アンドロイド 呼称決定。男性型・ギア 女性型 ドール』
「ドールは初期からの呼称だし、当然の流れかな。人の手に寄って産み出された知能が、いよいよ身体を手に入れるのか・・。ドールはどう思う?」
多角的に物事を測りたい宵一はドールによくこの手の質問をしていた。
『私には想像もできません。
また、私達は全体を把握できる程の処理能力を持っていないため、他のドールとのリンクが禁止されています。』
「コンピューターの世界でも他所は他所、ウチはウチ、か。続けて。」
手早く皿に盛り付け、トーストと牛乳、バターをテーブルに並べる。
朝ごはんを作る当番になってはや三年、もう慣れたものだ。
『スマートシティ進捗率78%
地球外知的生命体との合流地点まであと20年
コールドスリープの値段改正』
「コールドスリープは幾らに?」
『17%の値下げで1年100万ポイントです』
「社会で一年生きるより安いのか」
『はい。一年間に必要な活動ポイントはおよそ300万ですので、全ブッコミすれば3年コールドスリープできます。』
「全ブッコミっなんて言葉どこから覚えたの。」
「あったしだよー!おはよ、宵一兄ちゃん!」
黒のロングボブをくしゃくしゃにして、明らかに寝起きの妹が挨拶をする。
「おはよ、華。今日は寝る日じゃなかったの?ご飯食べたら髪にブラシしなよ」
宵一は動じる事なく、出来たばかりの自分用の朝ごはんそのまま妹に譲ると、自分用のご飯を改めて作り出した。
「いっぱい寝たからもう起きる!お兄ちゃん、やさしー!超ありがとー!」
元気印の末妹、芳村 華13歳。
スパッツにショートパンツ、タンクトップっというレトロな服装は今時ではないが、華曰く最近の服はピタピタしてるかギラギラしてるかで好きくない、との事。
『読み上げます。
此花重工開発Automatic Life Guard Machine通称ALGM 正式名称を荒神に決定。
野生動物の境界越えの報告多数。』
「荒神だって!なんかかっくいーー!恒星兄ちゃんそういうの好きだと思うな!」
「兄さんはそういうの好きだね。帰ってきたら話してみよっか。」
「ね!テスターとかあったら応募しようね!」
「ドール、荒神についての詳細まとめといて。僕も医療研修受けなきゃだからもう出なきゃ」
「宵一兄ちゃんも恒星兄ちゃんもいいなー。私も早く選択技能研修受けたい〜〜。」
「華は成績いいんだから、慎重に決めた方がいいよ?父さんがよく言ってたでしょ?」
「「もどれない失敗はするな」」
二人の声が重なり、華がてへっと笑ってみせる。
「ちゃんと覚えてるよ。パパの教え。」
「なら父さんも天国で安心だね?じゃあ華、行ってきます。」
父母のいない芳村家のいつもの日常。
その日常に忍び寄る異変にまだだれも気付いていなかった。




