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月のhalo(ヘイロー)〜兄ちゃんが闇堕ちしたので月の輪から勢いつけてブッとばす〜  作者: 諷吟


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漆黒と静寂の宇宙

       


全て順調だったのに。

鮨詰めの貨物用軌道エレベーターだって、みんなで話してたらあっという間だった。


身体も労わらず最速で準備をした。

宇宙ステーションにはなんでも揃っていた。


宵一が計算をし、往復に必要な資材を恒星と尊に集めさせる。

咲耶は一郎に指示を飛ばし、荒神のメンテナンスを2人がかりで仕上げた。


時間の猶予まだある筈だった。

最低でもあと10分は追いつく筈がないのに。

何故。

何故銀色の機械人形が宇宙ステーションの外を遊泳しているのか。


理由が分からないまま進むのは恐ろしかったが、もう宇宙ステーションに用はない。

荒神の性能に頼らず、いざという時の最新式宇宙スーツも拝借した。最低限の食料や水も抜かりはない。コクピットは完全に再生している。宇宙のストレスに対抗しようと荒神は更に強くなるだろう。

準備は完全に整っている。

準備は完全に整っていた。


なのにーーー。


【ORDER REJECTED】

【命令は拒絶されました】


「なんでですの!なんでですのよ!!」


IQ160の天才。荒神を造る者。常識を変えるもの。道を開くもの。


人より先んじているという事は、一足はやく壁にぶつかるという事だ。


より強いものが壁にぶつかる時、必然的にそれは壁と呼べる代物でなければない。


即ち、より高く。より硬く。より厚く。


【ORDER REJECTED】

【命令は拒絶されました】


これで7度目。


此花 咲耶の宝石の様な瞳は、光を反射する水面へと変わっていく。


いつもの勝ち気な彼女はいない。


そこにいるのは、どこにでもいるような「壁にぶつかる17歳の少女」だった。


「この私が・・・!この私が・・・!!」


機体は既にコンテナの中だ。

後は遠隔操作による発射を済ませれば、コンテナは初速を失わず慣性に任せて月に向かい筈だった。


8度目のアクセス。


【ORDER REJECTED】

【命令は拒絶されました】


此花 咲耶、人生で初めての壁だった。

宇宙漂流物(スペースデブリ)を大気に叩き落とすシステムを考案した時も、荒神を作り出した時も、即席の空間跳躍法を思いついた時も、

こんな苦労はなかった。

こんな焦りはなかった。


だが時は平等に進む。

大きめの漂流物(デブリ)に見えていた等身大の銀色機械人形は、音もなく、確実に宇宙空間を遊泳し近付いてくる。

一つや二つではない。

何百、何千という機械人形(ギア)達だ。


異変を察知して宇宙ステーションが赤い警戒色を放ちだす。


『サクヤ、宇宙ステーションから緊急警報です。

下からギア達が登ってきています』


ディディの報告を受けて咲耶はハッとした。


「第二宇宙ステーション・・・。第二ステーションのギア達を・・直接・・・。

挟み撃ちにするため・・・。」


ギリッと唇を噛んだ。

何から手をつければいい。

どこから始めればいい。

「拒絶」の二文字が頭の中をぐるぐる回りだす。

いかに天才といえ、咲耶はまだ若かった。

幼かったと言っても良い。


悔しさのあまり、堪えていた涙がぼろぼろと溢れ落ちていった。

泣いてる暇など、今はないのに。


『諦めんな咲耶!!お前は積み上げてきた筈だ!努力を続けてきた筈だ!なら最後までその力を信じろ!力は強いか弱いかじゃねぇんだ!どう使うかなんだ!!』


恒星の声が響いた。


その言葉が耳を貫いた時、一気に今までの記憶が溢れ出した。

刹那の時間にそれは思い出させた。


宇宙漂流物(スペースデブリ)を堕とす力を、「荒神(生命を守るもの)」に変えた時を。


タケミカヅチのドローンを、神速の発射台にした時を。


荒神のパワーを制御できなかった時も、見事な蓮撃に変えてみせたではないか。


「力は・・・使い方・・」


此花 咲耶の目に炎が灯った。

そして「怒り」に震えた声で、皆に伝える。


「皆様!しっかり体を固定してお待ちください!この天才 此花 咲耶が!必ず皆様を月に連れてって差し上げますわ!!」


そう言うや否や咲耶はサクナヒメを動かし、コンテナ室をのっしのっしと歩いて行った。


『嬢ちゃんのその台詞が聞けたってことぁ、おっさんもう安心していいな」


『田中っちサクヤっちの事分かってんじゃ〜ん。』


『僕も田中さんの言った通りだと思うよ。

ふふっ。

それにしても兄さん』


『なんだよヨイチ』


『『力は強いか弱いかじゃない。使い方だ。』・・父さん、きっと今の兄さんを誇らしく思ってるよ。父さんはきっと、今の兄さんみたいになって欲しくて、たくさんの道標を遺していったと思うから。』


『ああ・・・。オヤジの言葉はずっと俺たちを守ってきてくれた。だから・・・今度だって』








「私の完璧な計算に寄れば・・ギアが侵入してくるまで後5分。ディディ、メインデッキはどこ?」


サポートAIディディがすぐさま矢印と点滅で場所を示すと、


「5分もいりませんでしたわね。」


咲耶はニヤリと笑った。


「力は!強さより!使い方ですわーーー!!!」



挿絵(By みてみん)


限界まで力を込めたサクナヒメの右腕で、全体重を乗っける前のめりのストレートは宇宙ステーションの最重要機関であろう急所を全力でぶったたいたのだった。


「電脳がダメなら物理ですわ!!おーっほっほっ!」


とスッキリした顔で高笑いをあげた。


床にビリビリと紫電が走った。

火花が連鎖的に飛び散り、高電圧のショートが宇宙ステーションの主回路を焼き切っていく。


【CRITICAL ERROR】

【致命的なシステム破壊が発生しました】


マザーの統制下にあった宇宙ステーションのAIが、即座に優先タスクを書き換えた。

『対象の捕捉』から、『ステーションの緊急修復』へ。


外壁を遊泳していた何千は、隣りのステーションで修理をしていた筈なのだ。

ならばそのオーダーは有効である可能性が極めて高い。

そしてこのデッキには数千のギアを管理できるスペックはない。

今壊してしまったのだから。


「今ですわ!!」


砂糖に群がる蟻の様に銀のギア達はステーションにまとわりつく。

もう咲耶達の事など眼中にないようだった。


【緊急避難信号 受理】

【EMERGENCY EVACUATION SIGNAL ACCEPTED】


「所詮、機械ですわね!力の使い方が分かっておられませんわっ」


サクナヒメを華麗にコンテナに収め、すぐに緊急発射の信号を送る。


「これこそ!此花神楽・なしくずしですわー!!おーっほっほっほ!」


血走った目で指揮者の様に大きく指をつきだした瞬間、ドンッ、と荒神のシートに身体を押し付けられた。

強大なGが5人の身体を襲ったのだ。


しかし、ステーションの気密隔壁を突き破り、一歩、完全な宇宙空間へと飛び出した瞬間――。


音が、消えた。


火花も、警報も、ギアの蠢きも、すべてが遥か後方へと置き去りにされる。


コンテナは雷に乗った様な慣性だけで、漆黒と静寂の海を滑り出していた。






『・・・・やりましたわ・・』


どっ!!と咲耶のディスプレイが騒がしくなった。

拍手をするもの。讃えるもの。指笛を吹くもの。泣き言を言うものが混ざり合い、静寂の宇宙を騒がしくする。


ルナシティまで、あと13時間。


現実に蓋をして、ただ癒やされるための、最初の、そして最後の休息をとる事にした。


マダムに招待された「電脳世界アビス」へ。













明日は休息回なので、2話更新します。

朝10時と夜7時半になります。

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