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月のhalo(ヘイロー)〜兄ちゃんが闇堕ちしたので月の輪から勢いつけてブッとばす〜  作者: 諷吟


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此花神楽・狂い咲き

「つまりスキッピングブレーキに失敗したら、おっさんは死ぬ訳だ」


『そうですけど、先行した私が合図をくれますから大丈夫ですよ』


こちら側からは水飛沫で見えないが、先行隊のディディが正確なバースト合図を出すことで、大クラッシュを避ける算段だった。


此花咲耶。


これほどの作戦と計算を、半日どころか半刻足らずで組み上げるその頭のキレ。

マザー相手に引けを取らない最新鋭の荒神を創り上げたのも頷ける。


「んで、ブレーキしたら?」


『私のナビに従って、地下の試作型リニアチューブに行きます。チューブ内に入る前に減圧室で真空状態になります。生命維持システムは点検してください』


「動かなかったら?」


『死にます』


「生命維持システム異常なし! それで、その後は!」


『コクピットを対G特殊緩和ゲルで満たし――あ、イチロウ、一分経ちましたよ、行きましょう』


「なんか今、最高に不穏なこと言ってなかった!? えーい、散る時は華々しくッ!!」


半ば投げやりに、田中一郎のタケミカヅチがドローンリニアリングの光の輪へと飛び込んだ。


無駄のない真四角な排水路は思いのほか広く、薄暗い作業灯が等間隔に並んでいる。

そのライトも、コンクリートの壁も、グゥオンッと空間ごと引き寄せられるように一瞬で一本の線へと変わる。

光の線。

白い線。

そして荒れ狂う水飛沫。

青、水色、黄色。

すべての色彩が迫り、溶けて伸びていく。

線、線、線。


――――――――――っ!


絶句という他にない。

強烈なGが内臓を圧迫し、不快な痛みが走る。

体感に景色が追いつかない。

完全に現在地を見失った。

どれくらい進んだ?

何秒経った?

かすかに背後からドローンの自爆パージの振動を感じる。


97秒と言っていたな。これほどの地獄が、あと一分以上も――。

だが、恒星はやり遂げた。自壊寸前のスサノヲを抱えて。

だが、宵一はやり遂げた。咲耶のサクヤヒメを抱えて。

ならば、おっさんだって――。


『タケミカヅチ、スキッピングポイントに到達』


奥で待ち構えているサクヤヒメの中のディディが、現状をリンク網に伝える。

もうマザーのラインは使えない。

この狭く、熱い、ディディたちの同期システムだけが、今、五人を一つに繋いでいた。


水飛沫が爆散した。


一度目のスキッピング。

速度は大分殺される。

だが、まだまだ人を一瞬でミンチにする凶暴な速度だ。


二度目の爆散。

数度でも角度がズレれば大クラッシュ。弾かれて天井に叩きつけられるか、つんのめって木っ端微塵になるのは容易に想像できる。


三度目の爆散。


すでに四機は、着水点から目と鼻の先にある別の排水口から地上へ逃れ、静かに待機していた。

此花咲耶のサクヤヒメだけが、おっさんへ合図を送り続けるために水路に残っている。


四度目の爆散。


ひときわ大きな水飛沫が上がる。角度が狂ったか、機体が大きく天井へ向けて跳ね上がった。

あわや激突寸前タケミカヅチはワイヤーフックをコンクリートの壁へと打ち込み、力ずくで元の進路へ引き戻す。流石の早業だった。


五度目の爆散は、驚くほど小さかった。

凶暴だったスピードは完全に牙を抜かれ、人の手で制御できる速さまでゆるゆると落ちていく。

静寂を取り戻した排水路に、通信が入った。



『・・・さすがにおっさん、今回は本当に死ぬかと思ったわ』


『お見事な機体操作でしたわ、おじさま。ですが、もうリニアチューブは目と鼻の先ですのよ』


ここは突き当たりだ。人間用の通路ならすぐに地下へ移動できたが、荒神を乗り捨てなければ使えない。今、この貴重な戦力を手放すのはあまりに愚策だった。

安全圏に出るにはもう一踏ん張り必要なのだ。


『・・・そのリニアチューブって、今のより速い?』


『別次元ですわ!! それにコクピットが衝撃吸収耐Gゲルで完全に保護されますから、先程よりは安全ですわよ!』


『おっさん、今度は本当に死ぬかも・・・』




長い一日が終わり、これからさらに長い戦いが始まる。


例えマザーのギアが荒神を追ってきても、彼らがこの試験場に辿り着く頃には、五人はリニアで遥か彼方だ。


一人の犠牲も出さない、完璧な勝利だった。


五人がここにいないのであれば、ギアはそれ以上手を出してはこないだろう。

ギアは無駄なことはしないからだ。

マザーの手中に荒神を収めるまで、寝ることも休むこともなくどこまでも追ってくるのだろう。


唯一の懸念であった芳村兄弟の妹・華だけは、瀬馬が咲耶の側を離れ、じきじきに保護へ向かうこととなった。

瀬馬は有能で、何より信頼に厚い。

でなければ此花咲耶の執事は務まらない。

その事実に、芳村兄弟は安堵したようだった。


夜の闇に紛れ、五人は地下のリニアチューブを異次元の速さで移動する。


夢物語は現実になった。

だが、現実は常に非情なものだ。


5人の行く末に、そしてその長い旅の未来に、楽園は待っているのだろうか――。

第二部にあたる『日本脱出編』これにて完結。


こういうのが好きな皆様なら次の目的地の見当はついているのではないですか?

舞台はいよいよ折り返し地点!


このままノンストップでラストまで行かせてもらいやす!


応援、ブクマ、宜しくお願いします!


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