空間跳躍 後編
必殺技の様な目のカットインが入る!
ディディは皆の眼前で高らかに声を上げた!
『フェーズワン!
田中一郎から譲渡されたドローンを円形に整列!北西西に向けて固定!目的地ロック!此花重工試験場・排水路出口!!』
タケミカヅチの周りをトンボの様に飛んでいた十機が、手裏剣の様に空を裂き、指示通り円形の輪になるとバリバリと青白い雷電を纏う。
「ドローンリニアリング準備完了!
フェーズ2!
タケミカヅチから譲渡されたドローンも十機一組の輪になり北西西に向かって50m置きに一列に整列!」
四十機のドローンがコウモリのように夕闇を切り裂き指示通りの距離で同じように輪になった。
びよんと伸びたスプリングの様なトンネルは、奥に行くほどに高度が上がっているちょっとしたジャンプ台の様だった。
「これで250mの磁力の大砲を手に入れました!
まずはミコト、コウセイ!ミコトを支えてあげて!もの凄いGがかかるけど、気絶しちゃダメだよ!』
4体のディディがそれぞれのユーザーに(とくにミコトの所にいるディディは心底心配そうに)作戦の進行を伝える。
返答をする間も無くアマテラスはスサノヲを背中に抱きつかせたまま、一番手前の輪、ドローンリニアリングの中心に飛び込んだ。
グゥオンッ!
急加速。一つ目のリングから二つ目のリングを低空飛行になるようにで押し出されたのだ。
ほぼ停止状態からの170キロオーバーの急加速。かかるGは4.5Gにも及ぶ。
身体がシートに押し付けられ、落下した時のような胸すくみ・・・がもう一度。もう一度。もう一度、そしてもう一度。
だが恒星や尊は碌に視認できなかっただろう。
3秒にも及ぶ加速を追え恒星はやや上向きに設置された、ドローンによる磁力の大砲で空へと押し出された。
放り出された二機は放射線を描き、目的地へと文字通り飛んでいく。
狙い通りで排水口の溜池へ。
『まさか、あーしがこんなに早く恒星ちゃんに背負われるなんて、あの時は想像もしなかったなぁ・・。恒星ちゃん
、イケすぎだよ。』
『教官喋ってると舌噛みますよっ!後でゆっくり聞きますからっ!!」
世の中には吊り橋効果というものがある。
危険のドキドキを勘違いしてしまうアレだが、根性はいりまくった尊にはこれぐらいちょうどよく、それ以外には過ぎたるスリルという事なのだろう。
ずっぁばあああん、と大波を起こし着水。
世界が水面に弛んだ。
「完璧ですわ!何から何まで計算通りですわ!!」
先行隊として先回りしていた咲耶は満足げに頷く。
瀬馬がいたならここぞとばかりに褒め倒していただろう。
調子に乗るほど強くなる。
此花咲耶はそんな少女だった。
「他の方がいらっしゃる前に動いてくださいましー!あと50秒もすれば次の方がきますわー」
『次は宵一ちゃん。先に行って準備済ましておいてー』
田中一郎は一人で数体のギアを相手していた。
皆があのドローンリニアリングを通るまで、ギアを通してはならない。ギアにとって4.5Gなど、水に胸まで浸かってる程度の障害でしかない。
それで長距離移動できるのならただの「飛び込み移動」でしかない。
この命綱を田中一郎は守らなければならない。
まず45秒後に宵一が飛び、その後に自分が飛ぶまでの1分45秒を、だ。
三体のギアにボコボコにされているツクヨミの援護に入り、罠をはり、すかし、かわし、かと思えば急所を蜂の様に刺す。
「おっさんのマキビシはいてぇぞ?」
ばら撒いた罠は踏むと電子クラッシュする可愛くない痺れ罠。煙幕を張り、手裏剣型追尾爆弾を投げ、また敵に囲まれている宵一を助けに入る。
「宵一ちゃん接近戦苦手すぎるでしょ!?ちょっと早いけど、先に行ってなさいっ!」
ツクヨミの腕を掴み、第一ドローンリニアリングに投げ入れた。
宵一は何か言いたそうだったが、くしゃみをする時間もくれず空に磁力で押し出された。
「おっさん脱出まであと1分と15秒か〜。きついなぁ」
『大丈夫よイチロウ、貴方は一人じゃないわ』
「ディディちゃん、なんか可愛くなったね?」
「可愛い・・・?とはなんですか?」
「頑張ってるねって事!」
ディディは満面の笑みで頷いた。
胸の炎がバチバチッと火花を散らした。
結論から言えば田中一郎はあの後見事逃げ切って見せた。
キッチリ1分15秒、死に物狂いになって一つ目のドローンリニアリングを死守してから離脱に及んだ。
グォンッと磁力に押し出され、皆と同じように中空をぶっ飛んでいくタケミカヅチ機。
そこで異変に気付く。
花火・・・?こんな時に。
円状に広がるあの爆炎はまさか・・・!!
「うわああああああああ!?おっさんのドローンんがあああ!?」
ドローンはリニア加速の反動で活動限界を迎え、此花咲耶がプログラムした通り自らをリニアレールから切り離した(パージ)したのだ。
自爆機能を添えて。
「聞いてない聞いてない、壊れるなんて聞いてな」
ずぅあっぱーんっ
三度目の大波。
「あの超加速に三度も耐えれるなんて充分過ぎますわっ!
流石我が此花重工のドローン!私の才能の輝きが眩し過ぎてごめんあそばせぇ!オーッホッホッ!」
暫くのち。
ぷかぁと水面に浮かぶタケミカヅチ機。
ホバーを力無く噴射しノロノロと排水出口(入り口?)にて待ち構えているツクヨミとサクヤヒメと合流しようとする。
タケミカヅチ機のディディが心配そうに田中一郎の顔を覗きこんでいる。
「うぅーー。おっさんの愛しのドローンちゃん・・・沢山カスタムしたのに・・・。」
「落ち込むのは後にしてくださいまし田中おじさま。本番はこれからですわ!それにおじさまのドローンはあと70機も残っていますわよ?」
「その70機も今から壊れるんでしょ!?花火みたいに!」
「静粛にッ!」
二回りは離れてそうな娘に一喝されるうじうじする田中一郎
「散る時は華々しくッ。これが此花の美学ですわ!忍びなら忍びらしく見事に散ってみなさいッ」
月並みな言い方を敢えてさせてもらうなら。
実にきっぷの良い啖呵であった。
「それでは1分経ちますので、私達出発しますわおじさま。先ほどの倍。500mドローンリニアレールリングをこの直線水路の入り口に設置しております。」
『さっきの倍!?』
「長さは倍ですが中身は別物ですわ!最高時速500キロ!13.5キロを97秒で走破!・・・少しブレーキに不安が残りますが。詳しくは宵一お兄様のドールに伝えております。私たちが出てから1分後に出発ください。ブレーキは水切りの要領ですわよ!!それでは宵一お兄様!参りましょう!」
咲耶は興奮が冷めない様でいつもより熱の入った語り口だった。
今日だけで彼女が変えた常識の枠を考えれば当然とも言えるが。
田中一郎が、実はタケミカヅチより多くドローンを持っていた事など現状些事でしかない。
ツクヨミにお姫様だっこされるサクヤヒメ。
ブレーキは完全に宵一任せらしい。
正しい判断である。
「行きますわよ!!これぞ!!
此花神楽・狂い咲き!!おーほっほっおえぇぇ」
加速、加速、加速、加速。
水面が機体を中央に二つに裂けていく。
ガッチリと抱き合い、一つの塊として飛んでいく二機。
余りの早さに水面効果が発生し、古の預言者のように水を割っていく。
田中一郎はこの後起こる悲劇。残り70体のドローンを盛大に見送ると心に決め、薄暗く続く排水路へ飛んでいった咲耶に向けて呟いた。
「此花神楽・狂い咲き、かー。嬢ちゃんにはピッタリな名前だな」




