踊る弾丸
網膜ディスプレイが生体反応がある方向へ矢印を出す。が、矢印を追っても田中一郎の姿はない。
「田中さん!!大丈夫なんですか!?」
『作戦のこと?もうバッチリ。
今頃おっさんの囮に引っ張られて、明日に向かって走ってるんじゃないかな。』
何もなかった様に見えた夜の風景が微かな歪み、その裏からタケミカヅチ機が出現する。
光学迷彩を利用した「隠れみの術」である。
『前途ある若者におっさんからのプレゼント。』
姿を表すや否や、田中一郎は
一体のドローンをツクヨミ機の肩へ向けて飛ばした。
『あの辺の地形データ。これ使えば、君達ならなんとかできるんじゃない?』
『ヨイチ!タケミカヅチのドローンから地形データを受信!いけます!方位角124度!俯角-38度です!』
「俯角限界スレスレじゃないか!地面に当たってしまう!!』
『ヨイチ!私を信じて!田中を信じて!
皆んなが信じる、貴方を信じて!!』
宵一は雷に打たれた様な衝撃を受けた。
父さんは良く言ってた。
落ち着け宵一。冷静になったお前なら、なんだってできる。
どれほど信じたら、そう言い切れる?
兄さんもそう思うかな。
華ちゃんもそう思うかな。
きっとそう思ってる。思っててくれる。
だから。
その想いに報いたい。
呼吸が急速に落ち着いていくのが分かる。
頭にあがった血が下がり、身体が冷えていく。
震えは完全に止まり、頭は冴え、そして闘志が湧いてくる。
兄さんは僕が守る。
胸に炎が灯った。
鉄をも焼き切りそうな青く鋭い炎。
それを冷え切った頭で完全に制御した時。
宵一から迷いが消えた。
「ディディ、狙撃ポイントをターゲットマークで示して。優先度のパターンはもう覚えたから」
『任せてヨイチ!ミコトのとこに居る私も、コウセイのとこに居る私も、ヨイチを全力でサポートしてみせる!』
宵一の目にはもう風景など映っていない。
その目に映っているのは激しく点滅する3つの十字形照準だけ。
300m先の崖口が、手を伸ばせば届きそうな距離に感じる。
ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!!
ツクヨミのスナイパーライフルは余りの威力の為、踵のアンカーを持ってしても衝撃で硬直してしまう。
だが宵一はあろうことか、硬直状態の最中、奥歯が砕けそうなほどの気迫を込めて連射をした。
俯角-38度。方位角124.00度。123.97度。124.03度。
ハイウェイレースの様な、あわや弾丸同士がぶつかってしまいそうな程の鮮烈な連射。
一つ目の弾が、300m向こうの崖口スレスレを飛んでいき、微かに出張った岩壁にぶつかり火花を散らして角度を変える。
続く二発目はそのすぐ左に。三発目はその大分右に当たり、同じく火花を散らして崖下へ吸い込まれていく。
着弾点はなんと50cm四方内に収まっていた。
宵一の狙撃地点からは最早弾の行く末は分からなかった。
だが、恒星、石凝 尊に接続されていた二人のディディは、スサノヲを担ぎ這い上がるアマテラス達の中からその弾道を確認していた。
一発目は谷底へと流星の様に落ちていく。
その弾道を塞ぐ2体のギアの頭を貫き、更に谷底で反射、下から上への弾道に角度を変え、今正にアマテラスを捕まえようとしていた三体を貫く。
左に着弾した二発目は右下に。
右に着弾した三発目は左下に。
Xの軌跡を残して下降していく。
二発目の弾丸は完全にギアの不意を突いていた。
体内センサーで地形を把握するギアに本来死角はない。
当のギア達もそう思っていた筈。
頭頂部から顎に抜けた弾丸はやはり谷底で跳ね返り、アマテラスの左側の崖に張り付いていたギア4体を神の子を殺した槍の様に右脇腹から左肩口へと抜けた。
左下へと軌道を変えた三発目は下降時に三体のギアを貫く。
そして谷底で軌道を変え、右側から飛びつこうとしていたギア二体を破壊する。
一弾五殺という脅威の神業。
スサノヲを背中に捕まらせ上だけをみて登り続けるアマテラス機には辺りを視認する余裕はなかったが、ギア達が何かに貫かれ落ちていく音を感じる事はできていた。
「・・・頼もしくなりやがって。」
『ヨイチの弾丸が・・・谷間で踊ってます。』
「谷間で踊ってる?ハハッ!そりゃいいや!後でデータ見せてくれよ!」
『一弾五殺。サクセス。今の私には、ココが限界です。』
アマテラス、ツクヨミ、スサノヲに配置されていた三体のディディが、完全に同じタイミングでそれぞれのユーザーに告げた。




