狙撃手
『ヨイチ!方位角95度!俯角-18度!距離280m!一弾二殺!!』
ズドンッ
荒神ツクヨミのスナイパーライフルから未だ血溜まりが残る戦場に援護射撃が入る。
空気を切り裂く螺旋の弾丸は、恒星操るアマテラスの首筋を掠め、スサノヲ機によじ登ろうとしていたギア二体を貫いた。
宵一の腕、ツクヨミの武器性能、ディディのナビゲーションがあってはじめて可能となる神業だった。
だがその津波の様な情報量の中、次の展開を心配しながら絞る引き金は重く、脆い角砂糖の様に精神が削られていくのは明白だった。
『そのまま方位角112度!!スナイプ!!』
ズドンッ
眉間のど真ん中を貫き、ギアは糸が切れた様に倒れた。クリティカルヒットだ。
もうピクリとも動かない。
『対象の前方に奇襲隊!!方位角110度、俯角上方に2度修正!!一弾三殺!!』
宵一は今にもショートしそうな頭で必死にディディの指示にくらいつく。
2体の頭部を貫き、更に三体目の胸部を破壊。
ギアはピクリとも動かない。
これが五倍の力。
これがファイブリンクシステム。
宵一はその性能に圧倒されていた。
スナイプ。
スナイプ。
トライデント。
ダブルキル。
指示と実行にはほとんどタイムラグがなかった。
ディディは宵一を自分の体の様に操り、宵一はディディを自分の頭のように扱う。
体は一つ。頭は二つ。完璧な連携を見せるその姿はさながら老練した双頭の蛇だ。
一体破壊
一体破壊
三体破壊
二体破壊
音がすれば、誰かが動かなくなる。
そこで初めて、ギア達は「どこから攻めるべきか」選択を迫られた。
その一瞬の硬直を進化したディディは見逃さない。
『方位角109度!!1.18秒後に射撃!!』
網膜ディスプレイに浮かび上がる十字形標準には様々な色で表示されていた。
点滅具合や色で直感的に好機や危機を宵一に示唆するそれは光と数字の洪水だった。
宵一は一際激しく点滅するターゲットサークルの中央を歯を食いしばりながら正確無比に撃ち抜く。
ズドンッ
『一弾四殺。サクセス!』
横並びになった一瞬、こめかみを4体纏めて撃ち抜いた。
これで16体。
まだ一分と経っていない。
ズドンッ
「兄さんはまだこないのッ!?」
『一弾三殺サクセス!!あっちの私から受信!スサノヲを担いで崖を登る。援護は頼んだ!ですって!』
「やっぱりか!!中々来ないからそんな事だと思ったよ!!」
ズドンッ
『一弾四殺。サクセス!!アマテラス!自壊寸前のスサノヲを担ぎ登坂開始!!』
「クソッ!俯角限界じゃないかッ!!それじゃ射線が通らない!!」
尊の最大火力で一撃入れて離脱。
そこまでは作戦通りだった。
あとは力ずくで壁を登り、ツクヨミが殿となって全機を逃す予定だった。
だが、これでは。
重荷を背負ったアマテラスを、身軽なギアが捕まえられない道理がない。
プレッシャーに心が重くなる。
呼吸が早く、浅くなる。
唐突に、ツクヨミ機内部無線にメッセージが入る。
『ーーーおっさんの助けが必要かい?若者よ。』




