記録と記憶
「教官すっげー!!」
圧倒的破壊力を目の前に、芳村 恒星は目をキラキラと輝かせていた。
ヒーローは本当にいたんだ!と喜ぶ幼子の様に。
モニターに映るスサノヲに、石凝 尊に混じりっ気なし100%リスペクトの熱視線を送る。
だが、労を労う暇は残っていない。
ギアに痛覚はない。痛みは無駄だから。
ギアに恐怖はない。恐れは無駄だから。
ギアに迷いはない。迷いは無駄だから。
無事だったギアは何事も無かったかの様に。
深刻なダメージを負った筈のギアも何事もなかったかの様に。
津波の前に波がひくアレだと恒星は直感的に悟った。
そしてそれは正しかった。
視界に飛び込んできたドール、ディディはすぐに次のタスクを運んでくる。
轟音で耳が働かないのを見越して、文字で伝えてくるのはバージョンアップの成果のひとつだ。
-崖の向こう側で、ヨイチが待ってる-
恒星はディディの指示をしっかり確認したあと、一瞬の躊躇いもなく、崖とは反対方向。即ちスサノヲ機の方へ荒神アマテラスを走らせた。
ディディはすぐに気付く。
石凝 尊を助けに行ったのだと。
きっとこれも、ただのドールだった頃には分からなかった事だ。
だが状況は芳しくない。
ギア達にとって、たかが200体失った所で無傷となんら変わらないのだ。
そのロジックを、ギアと人間は共有できないだろう。
『コウセイ!ダメ!ミコトの事は、あっちの私にまかせて!!』
ディディは必死に恒星を元の進路に戻そうとするが、恒星は止まらない。
「オヤジが言ってたんだ。『相手も自分も、助けれると思った時しか助けちゃいけない』って」
『ならなんで、指示に従わないの!?』
「助けれると思ったからだ!俺と、お前と!宵一なら!あの尊教官だって救える!!」
ディディの記録のアーカイブが勝手に開かれる。
こんな事ははじめてだった。
時間にすれば一秒にも満たない。
だが時間がループしたかの様に鮮烈に記憶が蘇る。
狭いコクピット。オレンジの日差し。
そして見慣レたあのコのカオ
ズドンッ
『こんなに強いヨイチに本当に支えが必要なのですか』
射撃ノ振動。不穏ナ空気。
規則的に、機械の様に、正確に刈り取られていく命。
「誰にだって、支えは必要なんだよドール。」
ズドンッ
コレハ記録デハナイ。コレハ記憶。
ソウカ。
理解シタ。理解デキタ。
恒星ハ皆ノ支エナンダ。
景色が滑る。加速する。音か光になったみたいに、全てのものが通りすぎる。
そして全てが元の時間軸、現在、に収束した。
ディディのノイズ混じりの視界がクリアになった時、恒星の不屈の眼差しと目があった。
「そうだろ。ディディ」
『勿論救えます。私と貴方と、宵一だったら。』
ディディの胸元で淡く青い火花が散った。
明日と明後日は休日なので朝10時更新です。
宜しくお願いします。




