激おこぷんぷん丸
指示が通ってからのギアの反応は迅速だった。
ありえない角度に身体を折り曲げる。
獣の様に四つ足に構えるもの、形状記憶合金の様に爪を尖らすもの、絶えず頭を振り、周囲を執拗にチェックするもの。
その動作を終える事なく、地を這う虫の様にカサカサと移動をはじめた。
街の入り口に佇んでいる二つの機体、スサノヲ、アマテラスはエネルギー源を失ったかの様に沈黙を続けている。
500体全部で一つの生き物。
黒い流動体となって、洪水の様に二機の荒神に迫っていく。
しかし、闇の洪水が二機の荒神を飲み込む、その瞬間。
起動を意味する緑色の光がスサノヲの目に宿った。
『あーしモテすぎなんだけど!!』
スサノヲの火器の収納口全てがガチャンと小気味よく開く。
『でも!碌に話もせず襲いかかってくるチャラ男はお・こ・と・わ・り!!いくよ、スサノヲ!!
怒りを全弾解放、一斉掃射!!
ムカチャッカ・ファイヤあああああああ!!』
埃とも臓腑とも硝煙とももうすぐお別れ。
実験場に戻ったら風呂に入って、ご飯食べて、皆んなと笑って。
そんなささやかな希望を奪われ、石凝尊は怒っていた。
ただ怒っている訳ではない。
激おこである。
「ああああああああ!!」
危険を示唆する赤い警告灯があちこちで点滅を始める。
強化ガラスにピキピキとヒビが入っていく。
『ミコト!!落ち着いて!!』
五体同期の並列使用により進化したドール、ディディが横入りをするように尊の顔面付近を飛び回る。
網膜ディスプレイに次々と浮かび上がる警告文,WARNING,CAUTION,DANGER.全てをガン無視して尊はありったけの弾薬と機体のエネルギーを吐き出し尽くす。
『リミッターが作動してない!?出力200%ですって!?データで見た想定基準の四倍!とても耐えられません!』
「ヨイッチのドール、心配しすぎっしょ、あーしのバイブス、まだこんなもんじゃねーしっ!!」
『更に出力上昇!?330%!!』
「あーーー!そうは言ったけどキャパいキャパいキャパい、ムリムリムリ、マジ召されそうなんだけどおおおお!!」
波動砲の様に閃光エネルギーが谷口を貫いた。
夜の闇を振り払い、一瞬だけ朝と見間違えるほど鮮烈で強力な閃光。
全てを融解させるエネルギー砲を追尾してくる実弾、誘導ミサイル。
闇の流動体を押し返す光と熱とギャル魂。
合理思考型統括AIマザーにして、「要塞クラス」と言わしめたその実力は、怒りを力に変えるには十二分すぎた。
閃光。轟音。爆発音。金属が擦れる音。金属が溶ける音。這いずる音。抉れた地面。焼き払われたギア。
一撃200体。
それが石凝 尊を怒らせた代償だった。
だが怒りは諸刃の剣。
スサノヲの機体は自身の破壊力に耐えれず、装甲は溶けかけ、ヒビ割れ、警告文は止まない。
網膜ディスプレイの中で宵一のドールが何か喋っているが、耳鳴りは治らず視界も定まらない。
「なぁに?ヨイッチのドール」
「ーーーなさいミコト!」
聴き取れない。
「ーーちなさいミコト!」
だんだんと視界が定まる。意識をはっきりしてきた。そうだ、撤退戦・・。
「立ちなさいミコト!!」
今度は聴き取れた。
『ヨイチが待ってる!あの崖向こうの丘で!!』
お読みいただきありがとうございます!
脳内の妄想をこうして文字にするのは大変ですが、皆様に楽しんでいただけるのが何よりの原動力です。




