本領発揮
長い夜は沈黙と硬直から始まった。
スラスターの火柱は完全に姿を消し、空気はオレンジから薄い紫、そして濃い紫へと変わっていく。
1000体ものアンドロイド達が身じろぎ一つせず佇んでいる。
物音一つせず、風が森を撫でる音だけが谷間を抜けていった。
ギア達は人間を模して作られた割に、その見た目は人間らしくなかった。
シルバーで作ったマネキン・・・というのが1番しっくりくる。
肌という肌がつるりとした光沢を帯びていて、目や華や耳と言った飾りは一切ない。
端的にいうならば、マザーが無駄と断じたものは一切削ぎ落とされている。
鈍い銀の光沢は夜の闇に同化し、大人の型をした黒い液体金属と化していく。
動きはまだない。
マザーの指示なのだろう、夜が訪れるのを待っている様だった。
沈黙を破ったのは、戦場に舞い降りた雷神、
闇夜を暴く稲光、
田中一郎操る荒神タケミカヅチ。
指向性スピーカーを前面に向け、街の入り口からホバーエンジンで地を滑りながら、ギア1000体が整列する荒地へと踊る様に滑る。
接種まで残り300m・・200m・・。
キィンと高い音が擦れる音が響いた。
指向性のスピーカーがギア達に向けられた。
情報を抜かれためないにオフラインの徹底をしている。
このギリギリの状況でアテに出来るのは、荒神と、電子の妖精へとバージョンアップしたディディ・D・ディディ。そして自分の機転だけだ。
『ギア達に告ぐ!!サクヤヒメ、及びツクヨミが森の北東へと逃走した!!俺はマザー直属シークレットエージェント、田中一郎!!ギアの半分は俺と共に追跡に入れ!!』
薄い氷をバリバリ割る様に硬直した空気が引き裂かれている。
もしギア達が自由意志を育み、考える力を持ち合わせていたら。
生まれたばかりのギア達が、「悪意」というものを学習していたら。
ディディ・D・ディディの様に、感じる事が出来ていたら。
こんな単純な手は効かなかった筈。
だが受肉したばかりの機械生命体達は素直すぎた。
嘘をつく必要もなく、悪意を気にすることもなく、マザーの指示は絶対。
指令系統の末端兵士である以上、上司に逆らう事などあり得ない。
出口を閉鎖していたギア達は500体が西側に少しズレ、500体が東側に少しズレた。
黒いぬらぬらと光る闇人形が割れる様は、夜の海が真っ二つに割れるようにも見えた。
田中一郎はほくそ笑む。
ーーそれでいい。機械人形共。マザーに疑念を持つのも、嘘をつくのも、お前達にとっては無駄な事なのだから。
戦場に更に混乱の種をばら撒く。
『残りはアマテラス、スサノヲを捕獲せよ!両機に戦闘力は残っちゃいねぇ!任せたぞ』
なんの躊躇いもなくギアの集団に突っ込んだタケミカヅチはそのまま先陣となり500体ものギアを前線から引き剥がした。
田中一郎。中年の忍び。
隠遁、撹乱、騙し合い。
情報戦ならお手の者である。
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。
お陰様で日間ランキングSF-空想科学部門4位になりました。
日間なので今日だけですね多分笑
物語はまだまだ「承」。
作者がこの話を「結」まで導くには、貴方からの応援が必要なのです。
その応援に報いる為に。
まだまだ頑張りますよ。
今後とも応援よろしくお願いします。




