宣戦布告
宵一の狙撃ポイントだった街と森の両方を見下ろせる小高い丘。
そこの頂に立ち、荒神アマテラスを操る芳村恒星は遥か上を仰ぎ見る。
『コウセイ。アレがギアです。』
『あの無数の真っ赤な流れ星か。地上からでも全然見えるもんだな」
長い一日だった。
害獣の死体すらまだ碌に片付けれていないのに。
昼が終わり、夜が来ようとしている。
終焉を思わせる真っ赤の空の中に、禍々しく光る赤い箒星の様なギア達。
『あと10分もかからなそうです』
距離を示している数字がもの凄い勢いで0.00に向かって減っていっている。
情報量が多く、脳が追いつかない。
5つのドールを並列使用するFIVE LINK SYSTEMにより、宵一のドールは飛躍的に進歩していた。解像度は映像ではなく、現実に存在すると錯覚するほどのレベルに達した。
妖精が飛び回り、妖精と語る。
ヨイチはずっとこんな感じだったのか、と恒星は宵一の世界を覗いた気分になる。
「しかしな。『ヨイチのドール』って呼び方はいただけねぇな。兄として」
ディスプレイにはさらに細かく分析されたデータが纏められていく。意識した視線は意識した通りにズームインをしズームアウトをし、文字や数字が忙しなく変動している。
『残り時間あと少しなのにする話はそれでいいのですか?』
「こういうのは、後で〜とかするとフラグっていう死の運命に引き込まれるってオヤジが言ってた。」
『死亡フラグですね。確率論でしょう。』
「確率論だがパリスヒルトンだかしらねぇけどフラグを折っときたいんだよ!」
『パリス・ヒルトンは、19世紀から20世紀に台頭した世界的なホテルチェーン「ヒルトン・ホテル」の創業者一族の令嬢・・・。』
恐ろしく偏った知識ドールが呆れを見せる。
『D-5(ディーファイブ)。DOLLが5体分なのでディーファイブと名乗ろうと思います。』
「却下。可愛くない」
『可愛さなど求めてません。コウセイはヨイチにそっくりなのに全然似てません。』
「ヨイチは怒ったり戦ったりはあんま好きじゃないからな。自分の意見もすぐ引っ込めちまう。ディーファイブって意見も即採用するに決まってる」
『ではどうすれば』
「D-5だろ?んじゃ名前はディディ・D・ディディにしよう。愛称はディディだ。」
『ディディ・D・ディディですか・・。中味は一緒のはずなのに。何か、あったかいような気がします。』
『それが名前の力、ひいては言葉の力さ。妹分として覚えておくように。』
雷の様な爆音。
ギアは音より早く飛んできたのだろう、ようやくギア達の飛行音が地上に届いた。
やや遅れて爆風。
ギア達が逆噴射スラスターを使って減速、着陸の準備をはじめたのだ。
夕暮れに染まっていた筈の野生地域と街との境目は、昼と間違うほどの火柱と光、砂埃、風と音。
まるで嵐だ。
人の型をした嵐が、一体、また一体と街の出入り口を塞ぐ様に囲んでいく。
荒神に飛行データがないからであろう。
白兵戦を選ぶという事は、マザーとしても破壊せずに捕獲したいのかも知れない。
「ディディ、神と天使の話を知ってるか?」
『神も天使も今は有用な情報とは思えませんが。』
「天使如きに神の意思等測れる筈もないって昔話なんだがな。
最近思うんだ。
神の方こそ天使の事、ちゃんと理解してんのかなって。
異端児は異端児らしく、神気取りのAIに中指突き立てて、ノーって突きつけてやる!ちゃんとやり方、見て覚えとけよ!」
そして。
全てのギアが空気を震わせながら着地をした。
その数一千体。
長い夜が始まる。




