不退転
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がんばるぞい。
『は?』
『え?』
『なんて?』
『ジョーク?』
『いや、ジョークじゃなくて、ホントに忍者でスパイなんだ・・・もう、やめるんだけどね。
こんな訳わかんない事言うおっさんの言うこと、怖いかもしんないけど、あと一回だけ、信じてくれんかなぁ?』
『ーー忍者やスパイが身分を明かす事は自殺にあたる行為ですわ、おじさま。代償を払う覚悟はありまして?』
此花咲耶がピシャリと口を挟んだ。
狙われたのは此花重工の最新型パワードアーマー。
火中の人にして最大の被害者なのだ。
咲耶には田中一郎を糾弾する権利がある。
『・・・どっちみち死ぬんなら、カッコつけて腹切りがいい。おっさんにだって意地があるんだってとこ、見せたくなったんだ。このカッコいい若者達に。
世界は全然腐ってなんかいないって。』
『田中っちガチイケじゃん。オスみあるわ』
『田中のおっさんは最後まで全力だせる今時珍しい大人だと思う!』
『兄さんそれ褒めてる・・のかなぁ?』
「静粛に!!」
咲耶の一喝。
『・・・信じますわ。だっておじさま、とても楽しそうでしたもの。あんな想定外の熊、エキスパートとはいえ普通逃げますわ』
隠そうともしない呆れた声だった。
『私、嬉しかったのです。
荒神の性能を信じ切らなければ、あれ程のことは成しえませんもの。
人間の、限界を越える力があれば、マザーをも乗り越える事ができるかも知れませんわよ?』
『それじゃあ、その限界を越える人間の力、おっさんにちょっと貸してくんない?』
『田中っち返してくれなさそうなのウケる』
『ダメな大人がいいそうな言葉です。』
『ヨイチ。お前の観察眼は最高』
『ちゃんと話をきくっ!』
今度は田中一郎が一喝した。
『おっさんの作戦はこうだ。
A.捕まったフリ作戦
B.奇襲攻撃で突破
C.オトリ作戦
だが相手が1000体ものギアとなればどれも単品では時間稼ぎにもならない。そこでー』
『全部やるってわけだな!おっさんが囮になって、俺と教官が捕まったふりをする!ヨイチは狙撃で敵のアキレス腱を狙うって訳だ!』
『でも田中さん、たった5機で1000体ものアンドロイドを突破できるんですか?熊500体でも満身創痍だったのに』
『ヨイチは目の付け所が最高だ。』
『ドールはちょっと黙ろうか。』
宵一の心配は最もである。
敵の数は倍に対しこちらは満身創痍。
撤退戦を余儀なくされている。
『突破する必要はない。おっさんは知ってるのさ。
此花重工試験場の地下に、リニアチューブのラインが通ってる事を。』
『ーー忍者でスパイは肩書きだけではないようですわね。』
『リニアチューブ通って南下、目指すはパプワニューギニア第三軌道エレベーターだ。』
田中一郎と此花咲耶の会話聞きながら、宵一は脳記憶から最近聞いたハズの情報を掘り当てていた。
『何日か前に聞いたな・・・。軌道エレベーターが不調だって・・。それの修理にギアを派遣してるって。』
『そうだヨイチ。だが第三軌道エレベーターだけは休止状態が何年も続いている。世界に五つしかない軌道エレベーターの中でも優先度は最も低い。』
すかさずドールが宵一の情報を補足した。
互いを労る老夫婦のように。
『あのさー。今更かも知んないんだけど、ヨイチの使ってるドールって大丈夫なの?ほら、ドールって末端AIっしょ?マザーに逆らえなくね?』
石凝 尊の発言はズバリ的を得ていた。
偏見がない分、尊は核心をつく事に長けていた。
皆んな分かっていた事だ。
だが答えを先延ばしにしてしまっていた。
ドールを敵だと思いたくなかったから。
『手袋型デバイスとレンズ型ディスプレイを破棄するべきですわ。』
『おっさんもそう思うかな。綺麗に別れるならいましかない。』
『好きぴと別れんのつらいくて泣けるんだけど。あーしが言い出したのになんかゴメーン』
『ヨイチはどうしたいんだよ!!』
ドールと別れる、そんな空気の流れを一気に押し戻したのは恒星だ。
『どんな理由があっても俺はお前につく!そもそも、お前の判断が間違ったことはねぇからな!』
皆が口を閉じた。
時間が足りない。
決めなければいけない事が多すぎる。
遥かなる天空、宇宙ステーションからギア達がここを目指して文字通り飛んでくるだろう。
あと、数十分以内に。
『ヨイチ・・・』
沈黙を破ったのは仕草がどんどん人間臭くなっていくヨイチのドールだ。
『私は・・・AIだけど、ヨイチと一緒にいたい。私が必要不可欠になれば、ヨイチと一緒にいてもだれも困らないと思う。私一人の力ではきっとマザーのいい様にされる。だから、皆んなの使ってるドールも私にしたい。』
ドールの意図をいち早く理解したのは此花咲耶だった。
IQ160はこの危機に一段と活性化しているようだ。
『リンクシステムを使ってお互いをリペアし続ければ、理論上マザーからの干渉を跳ね除けれますわ』
『私達のドールが、全部ヨイチのドールになるってことっしょ?ありよりのありじゃね?』
前向きな皆の反応に対してヨイチは及び腰を見せる。
いつかの会話を気にしているんだとドールにはすぐ分かった。
そして多分、前は分からなかった。
『ドールはリンクを禁止されてる。その事を気にしてるのでしょう?ヨイチ。
私だけの演算能力なら不可能。でも私が5人なら、できる事はぐんと増える。だから、マザーはリンクを禁止したんだと思う。
100人の私は今の私より強い。1000人の私は100人の私より強い。今は5人分だけど。必ずヨイチの助けになる。だから』
全員のディスプレイに同じ少女が映った。
白い長髪にショートジャンプスーツ。
ピンクのメッシュが入った妖精のようなバーチャルの存在、ドール。
『破棄するなんて言わないで私も連れてってほしい。』
ずっと身体に纏わりついていた青い火花は、帰る場所を見つけたかの様にゆっくりと、満足したようにドールの胸部・・心臓部に収まっていった。
『当たり前じゃないか!!ドールは大事な仲間なんだからな!!』
『なんで・・・兄さんが答えるのさ・・。そこは僕の見せ場じゃないか・・。』
ヨイチはため息をついた。
兄の様に即応できない自分を惨めに思う事もある。
でも兄はいつも自分の選択を肯定してくれる。
『条件がありますわ』
決まりかけた意見に此花咲耶が異論を唱える。
IQ160の麒麟児は一筋縄ではいかない。
時間も危険も未来も、此花咲耶が1番多く賭けているのだから当然の反応だ。
『万が一に備え、ドールのプログラムをデリートするコードを宵一お兄様に預ける事ですわ。
今までの話は全て希望的観測にすぎませんわ。一手間違えば私達は全てを失いますのよ。
舞台にあがりたいのであれば、存在のひとつやふたつ、賭けれてもらわなければ。』
咲耶の言葉が終わるや否や、全員のレンズ型ディスプレイにポンッとハートのアイコンが出現する。
『存在の一つや二つがなんですか。私の本気をお見せするには足りません。
私の存在の全てを、貴方方の勝利に。芳村 宵一に。
全額ベットです。』




