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月のhalo(ヘイロー)〜兄ちゃんが闇堕ちしたので月の輪から勢いつけてブッとばす〜  作者: 諷吟


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不退転

今日から毎日更新です。

休日は午前中、平日は夜更新。

がんばるぞい。

『は?』

『え?』

『なんて?』

『ジョーク?』


『いや、ジョークじゃなくて、ホントに忍者でスパイなんだ・・・もう、やめるんだけどね。

こんな訳わかんない事言うおっさんの言うこと、怖いかもしんないけど、あと一回だけ、信じてくれんかなぁ?』


『ーー忍者やスパイが身分を明かす事は自殺にあたる行為ですわ、おじさま。代償を払う覚悟はありまして?』


此花咲耶がピシャリと口を挟んだ。

狙われたのは此花重工の最新型パワードアーマー。

火中の人にして最大の被害者なのだ。

咲耶には田中一郎を糾弾する権利がある。


『・・・どっちみち死ぬんなら、カッコつけて腹切りがいい。おっさんにだって意地があるんだってとこ、見せたくなったんだ。このカッコいい若者達に。

世界は全然腐ってなんかいないって。』


『田中っちガチイケじゃん。オスみあるわ』


『田中のおっさんは最後まで全力だせる今時珍しい大人だと思う!』


『兄さんそれ褒めてる・・のかなぁ?』


「静粛に!!」


咲耶の一喝。


『・・・信じますわ。だっておじさま、とても楽しそうでしたもの。あんな想定外の熊、エキスパートとはいえ普通逃げますわ』


隠そうともしない呆れた声だった。


『私、嬉しかったのです。

荒神の性能を信じ切らなければ、あれ程のことは成しえませんもの。

人間の、限界を越える力があれば、マザーをも乗り越える事ができるかも知れませんわよ?』


『それじゃあ、その限界を越える人間の力、おっさんにちょっと貸してくんない?』


『田中っち返してくれなさそうなのウケる』


『ダメな大人がいいそうな言葉です。』

『ヨイチ。お前の観察眼は最高』


『ちゃんと話をきくっ!』


今度は田中一郎が一喝した。


『おっさんの作戦はこうだ。

A.捕まったフリ作戦

B.奇襲攻撃で突破

C.オトリ作戦

だが相手が1000体ものギアとなればどれも単品では時間稼ぎにもならない。そこでー』


『全部やるってわけだな!おっさんが囮になって、俺と教官が捕まったふりをする!ヨイチは狙撃で敵のアキレス腱を狙うって訳だ!』


『でも田中さん、たった5機で1000体ものアンドロイドを突破できるんですか?熊500体でも満身創痍だったのに』

『ヨイチは目の付け所が最高だ。』

『ドールはちょっと黙ろうか。』


宵一の心配は最もである。

敵の数は倍に対しこちらは満身創痍。

撤退戦を余儀なくされている。


『突破する必要はない。おっさんは知ってるのさ。

此花重工試験場の地下に、リニアチューブのラインが通ってる事を。』


『ーー忍者でスパイは肩書きだけではないようですわね。』


『リニアチューブ通って南下、目指すはパプワニューギニア第三軌道エレベーターだ。』


田中一郎と此花咲耶の会話聞きながら、宵一は脳記憶から最近聞いたハズの情報を掘り当てていた。


『何日か前に聞いたな・・・。軌道エレベーターが不調だって・・。それの修理にギアを派遣してるって。』

『そうだヨイチ。だが第三軌道エレベーターだけは休止状態が何年も続いている。世界に五つしかない軌道エレベーターの中でも優先度は最も低い。』


すかさずドールが宵一の情報を補足した。

互いを労る老夫婦のように。


『あのさー。今更かも知んないんだけど、ヨイチの使ってるドールって大丈夫なの?ほら、ドールって末端AIっしょ?マザーに逆らえなくね?』


石凝 尊の発言はズバリ的を得ていた。

偏見がない分、尊は核心をつく事に長けていた。

皆んな分かっていた事だ。

だが答えを先延ばしにしてしまっていた。

ドールを敵だと思いたくなかったから。


『手袋型デバイスとレンズ型ディスプレイを破棄するべきですわ。』


『おっさんもそう思うかな。綺麗に別れるならいましかない。』


『好きぴと別れんのつらいくて泣けるんだけど。あーしが言い出したのになんかゴメーン』


『ヨイチはどうしたいんだよ!!』


ドールと別れる、そんな空気の流れを一気に押し戻したのは恒星だ。


『どんな理由があっても俺はお前につく!そもそも、お前の判断が間違ったことはねぇからな!』


皆が口を閉じた。

時間が足りない。

決めなければいけない事が多すぎる。


遥かなる天空、宇宙ステーションからギア達がここを目指して文字通り飛んでくるだろう。

あと、数十分以内に。


『ヨイチ・・・』


沈黙を破ったのは仕草がどんどん人間臭くなっていくヨイチのドールだ。


『私は・・・AIだけど、ヨイチと一緒にいたい。私が必要不可欠になれば、ヨイチと一緒にいてもだれも困らないと思う。私一人の力ではきっとマザーのいい様にされる。だから、皆んなの使ってるドールも私にしたい。』


ドールの意図をいち早く理解したのは此花咲耶だった。

IQ160はこの危機に一段と活性化しているようだ。


『リンクシステムを使ってお互いをリペアし続ければ、理論上マザーからの干渉を跳ね除けれますわ』


『私達のドールが、全部ヨイチのドールになるってことっしょ?ありよりのありじゃね?』


前向きな皆の反応に対してヨイチは及び腰を見せる。

いつかの会話を気にしているんだとドールにはすぐ分かった。

そして多分、前は分からなかった。


『ドールはリンクを禁止されてる。その事を気にしてるのでしょう?ヨイチ。

私だけの演算能力なら不可能。でも私が5人なら、できる事はぐんと増える。だから、マザーはリンクを禁止したんだと思う。

100人の私は今の私より強い。1000人の私は100人の私より強い。今は5人分だけど。必ずヨイチの助けになる。だから』


全員のディスプレイに同じ少女が映った。

白い長髪にショートジャンプスーツ。

ピンクのメッシュが入った妖精のようなバーチャルの存在、ドール。


『破棄するなんて言わないで私も連れてってほしい。』


ずっと身体に纏わりついていた青い火花は、帰る場所を見つけたかの様にゆっくりと、満足したようにドールの胸部・・心臓部に収まっていった。


『当たり前じゃないか!!ドールは大事な仲間なんだからな!!』


『なんで・・・兄さんが答えるのさ・・。そこは僕の見せ場じゃないか・・。』


ヨイチはため息をついた。

兄の様に即応できない自分を惨めに思う事もある。

でも兄はいつも自分の選択を肯定してくれる。


『条件がありますわ』


決まりかけた意見に此花咲耶が異論を唱える。

IQ160の麒麟児は一筋縄ではいかない。

時間も危険も未来も、此花咲耶が1番多く賭けているのだから当然の反応だ。


『万が一に備え、ドールのプログラムをデリートするコードを宵一お兄様に預ける事ですわ。

今までの話は全て希望的観測にすぎませんわ。一手間違えば私達は全てを失いますのよ。

舞台にあがりたいのであれば、存在のひとつやふたつ、賭けれてもらわなければ。』


咲耶の言葉が終わるや否や、全員のレンズ型ディスプレイにポンッとハートのアイコンが出現する。


『存在の一つや二つがなんですか。私の本気をお見せするには足りません。

私の存在の全てを、貴方方の勝利に。芳村 宵一に。

全額ベットです。』





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