熊ちゃん密です大炎上(仮)
『うっし、バイブスあげっぞ!!熊ちゃん密です大炎上(仮)作戦開始!!』
『いーきまーすわーよー!!』
森の西側から鳥が飛び立っていく。
空気が変わったその刹那。
ズドンッ
大砲の様な重い破裂音が丘の頂上から森の方角へと吸い込まれて行った。
ツクヨミの狙撃圏内は1km。
タケミカヅチから転送された空間データを活用すれば、遮蔽物を貫通し、茂みに潜む熊を射抜くなど造作も無かった。
森がざわりと蠢いた。
異変を察知した野生動物の様に。
森の奥の方から手前に向かって、毛を逆立てる獣のように波打っているのだ。
『ヨイチ、北西から二体きます。時速40kmで接近中』
ズドンッ
宵一は狙撃を続ける。
アンカーを地中に突き刺し、固定砲台と化すスナイプモードは強烈だが、その代償に必ず硬直時間が発生する。
ズドンッ
『南西から三体、斜線が重なります。一弾二殺が狙えます』
反動で脚部フレームがミシリと歪んだのを感じる。宵一は体勢を整え射角をすぐに調整しなければならなかった。
網膜に映る視界は1km先の光景。
高度を修正。
ズドンッ
『アシストします。
データを同期。ターゲットを補足
ーーシュート。』
ズドンッ
『こんなに強いヨイチに本当に支えが必要なのですか』
規則的に、機械の様に、正確に刈り取られていく命。
「誰にだって、支えは必要なんだよドール。」
ズドンッ
そしてついに。
森そのものが怒り狂ったかの様に鳴動をあげた。
ドドドドという大型の獣が固まって暴走する地響き。
雨音に似た不穏な轟音が森全体を包んでいる。
そして森のうねりは嵐の波の様に大きくなっていく!
田中一郎からの無線が耳に入った。
『こちらタケミカヅチ。東側には獣が嫌う超音波包囲網を張った。異常個体を監視しつつ予定の位置に移動する!ーーーいや、まて。異常なシグナルを感知。なんだ、これ、どのパターンにも該当しないぞ』
ズドンッ
宵一は狙撃の轟音で後半部分を聞き逃した。
森の北側からも、東側からも、鳥達が一斉に飛び立っていく。
ズドンッ
いよいよだぞ、と宵一は気を引き締めた。
一発も撃ち漏らすものか、と。
一方森の北部
街側から見れば深部に当たる位置に荒神アマテラスは陣取っていた。
決して深い森ではないのだが、木に衝突をして致命的な隙を見せる方が恐ろしい。
荒神は最新の素材で作られているというが、それは飢えた熊の殺傷能力をどれほど軽減してくれるというのか。
森の西側から鳥が一斉に飛び立っていく。
木を巻き込んで巨大な何かがギャリギャリと進む音が微かに聴こえる。
そして重い大砲の様な破裂音。
少し遅めのメトロノームの様に。
完璧に一定のリズムで。
さぁこちらからも追い立てるぞ。
恒星は森の木の間をスルスルと走り抜ける。
速度こそないものの充分滑らかな動きである、と、タケミカヅチから送信されたデータマップの赤いドットを補足した。
体長1.5m。小物だ。致命傷を食らわすより思い切り驚かせてやろうと、恒星はワザと近くの木の幹を前脚の鉤爪で切り裂いた。
一瞬、チェンソーが鳴ったような音がしたかと思うと、木は綺麗に切断され、斜めにずり落ちる。
折れる枝の音、激しく飛び立つ鳥の喧騒。
効果は敵面、熊は一心不乱に南に向かって走り出した。
森のざわめきが歓声の様に広がり、森の至る所で負の共鳴が連鎖しだしたようだった。
この調子だ。
『こちらタケミカヅチ。東側には獣が嫌う超音波包囲網を張った。異常個体を監視しつつ予定の位置に移動する!ーーーいや、まて!異常なシグナルを感知!』
「向こうが動き出す前に暴走に巻き込んでやる!!」
恒星は一段と速度をあげた。景色が滑る様に流れていく。稲妻の様に木々をジグザグと走り抜ける。
また二体の生態反応を検知。
シンボルのやや後方の木を切り倒し、まるで大きな何かが迫っているかの様に熊達を追い立てる。
「はっはっはー!走れ走れー!」
更にスピードアップ。
着地をする事なく木の幹を蹴り飛ばしながらピンボールの様に森の中を跳ねていく。
その度に木は揺れ、根はメリメリと悲鳴をあげ、鳥達は逃げていく。
熊が一匹だけなら、或いは戦いを挑んできたかも知れない。
だが負の共鳴は既に連鎖を始めていた。
南に駆け出した熊に追随する形で、一匹が五匹に。五匹が十匹に、十匹が二十匹にーー
「どんだけいんだよっ!」
肩に装備されている機関砲で退路を断つ様に威嚇射撃を続ける。
ズドンッ!
ツクヨミの狙撃音が随分近くなっている。
大地は地鳴りどころか地震の様だ。
辺り一面少なくとも数十頭の熊が一斉に南下を続ける。
この流れはもう止まらない。
正体不明のシグナルも、この熊の津波からは逃げられまい。
間も無く森を抜ける。
ここからが「熊ちゃん密です大炎上(仮)」の山場だ。




