第三話 騒動の始まり
翌日、Kは街を歩いていた。フードを被り、一般人にバレない程度の擬態魔法も使っていた。その足取りには迷いはない。
その頃、ヨウは両手に買い物袋を下げて街を歩いていた。じゃんけんに負けて買い出しに行かされたのだ。
その時、少し前に見覚えのある姿を見つけた
黒髪、左目に眼帯。20代にしか見えない姿。
フードを被っていたが、その姿は限りなくKだった。
Kの姿は陽炎のように少し揺らいでいた。おそらく魔法に慣れていない一般人なら、相手から干渉されない限り気づくことはできないだろう。
ヨウは少し隠れながらKを観察する。
Kは呑気にも露天で串焼きを2本買って、一本を齧りながら歩いていた。その歩幅は妙に一定で、まるで後ろから誰かにつけられている事を気づいているようだった。
Kは街をふらふら歩き、古本屋に入ったり、ぶつかってしまった子供をあやしたりしていた。
「ヨウくん…だったかな?お酒は飲めるかい?」
振り返らずに話しかける。
ヨウは驚いた表情をした後、諦めたように前に出てきた
「食べる?」
もう一本の串焼きを差し出した。
ヨウは一瞬迷った後、パッと受け取った
「良いの?ありがと!」
串焼きを頬張りながら
「あれ?なんで私普通に串焼き貰ってるんだろ。まぁいいや」
Kはニコニコとその様子を見ながら聞く
「で、なんで俺のこと尾けてたの?」
驚いてゲホゲホとむせながらヨウは言った。
「…やっぱ気づいてた?いや…その…たまたま方向が同じだったの!」
とんでもなく苦しい言い訳だった。
Kは街を歩き出した。ヨウは慌てて着いていく。
「ねぇ、なんで街にいるの?」
当然のように着いてきていた。
「少し街に用があってね、ついでにお酒でも飲みに行こうかなと思って。」
そと発言を聞いた途端、ヨウの目が輝いた
「お酒!私も飲みたい!昼から空いてるの?」
しかし、ヨウの足が止まった。
「あ…でも私買い出し中だ。」
ヨウは顎に手を当てて考える
「よし!荷物置いてくる!10分待ってて!」
言い終わる前にヨウは走り出していた。さすが冒険者というほどの身体能力で、あっというまに見えなくなった
残されたKは1人で串焼きを食べながら呟いた。
「…これ俺待つ必要ないよね。」
Kは1人で路地へと歩き出す。
しばらく薄暗い路地を歩いていくと、薄く灯りのついたアンティーク調の扉があった。
「月灯り」という看板が掛けられているバーだった。
Kは串焼きを棒ごと食べ切ってから扉をゆっくり開けた
扉を開けると、ジャズの流れている店内で、マスターがグラスを拭いていた。客は奥にフードを深く被っている男が1人いた。
「や、マスター。また来たよ」
マスターがこちらを向いて
「今日はお一人ですか?」と聞いた
「ああ、1人…」
Kがバーに入り、カウンターに座る。扉が閉まろうとした瞬間。扉の隙間に手が入った。
「いたー!ちょっとKさん!なんで置いていくの!」
扉が勢いよく開いた。ヨウだった。
ヨウはズカズカとKに近づき、Kの隣に座った。
「ひどくない?!待っててって言ったのに!」
マスターがヨウを見て
「いらっしゃい、2人とも何にする?」
Kが口を挟む
「カクテル、アクダクトを。この子にも」
マスターは返事をせずにカクテルを作り出す
Kはその様子を見てからヨウに聞いた
「で、冒険者様がなんで依頼対象でもない化け物追いかけてるの?」
マスターがカクテルグラスを2人の前に置く。
「アクダクトです」
ヨウは運ばれてきたお酒を一口飲んでから
「自分が化け物って自覚あるんだ?」
ヨウはククッと笑ってからグラスを見つめた
「なんか不思議な味」
ヨウはもう一口飲んだから
「なんとなく気になるから追いかけてるの。だめ…?」
ヨウはそのまま続ける
「それにさ、千年も生きてたら友達とかいないでしょ?私がなってあげよっか」
Kもグラスに口をつけてから言う
「少なくとも君はちょっと良いかな〜」
ヨウは驚いたように
「えぇ〜!なんで〜?!良いじゃんなろうよ友達〜!」
Kをゆさゆさと揺らしてから、机に突っ伏す
「でも「良いよ」って言ったよね?」
ガバッと顔をあげてからそう言った。
言った。たしかにKは「良いよ」と言ったが、それは明らかに否定の意だった。
「文章とか読むの苦手?今のは否定の意味だよ。」
Kがそう伝えると、ヨウは再び落ち込み始めた。
かと思ったが、カクテルを煽って
「え…まぁいいや!友達じゃなくても一緒にお酒飲んでるし!」
Kはその姿に苦笑しながらカクテルを飲む
「アクダクトのカクテル言葉を知っているかい?」
ヨウはグラスを置いて首を傾げる。
「カクテル言葉?そんなのあるのも知らなかった。で
アクダクトのカクテル言葉ってなんなの?気になる」
Kはカクテルを飲み干してから
「「時の流れに身を任せて」本来は身を任せてって意味だけど悠久の時を生きる化け物にはぴったりでしょ?」
ヨウはしばらくKの顔を見つめてから
「…なんか切ないね、それ」
普段の明るい声とは違う、静かな声だった。
「じゃあさ、友達作りたくないんじゃなくて作っても意味ないって思ってるでしょ?」
少し酔いが回って赤い顔でそう言った。核心をつかれた
ヨウはフニャっと笑い
「私は死ぬよ。100年もしたら骨になる。でもさ、それまでの間くらい、隣にいても良いでしょ?」
Kはすぐさま口を開く
「え、無理」
ヨウが笑顔のままぴしっと固まった
数秒の沈黙の後
「なんで?!私何かした?!」
マスターに向かって手を挙げる
「マスター!お酒おかわり!強いやつ!」
マスターが苦笑しながら新しいグラスを用意する
ヨウが新しいお酒を半分飲み干してから言った
「千年も生きててそんなに人間嫌いなの?」
「いや?好きだよ人類」
「好きなのに無理って何?!意味わかんない!」
Kは笑いながら言った
「だって〜、君ら一回お金のために俺のこと誘拐しようとしたでしょ?」
ヨウは口を開けたまま止まった
「だって…あれは依頼だったから」
「知ってる、しょうがないことだったよ。ふぅ面白い」
Kは立て続けに話した
「じゃあさ、お酒で勝負しようよ。先に潰れた方が負けね。」
ヨウの表情がぱっと明るくなった。
「お酒対決?やるやる!マスター!度数強いやつ片っ端から持ってきて!」
マスターはやれやれという表情でお酒をカウンターに並べ始めた。
その光景を見ながらヨウが言う
「言っとくけど、私加護の影響でお酒めっちゃ強いし、
二日酔いとかにならないよ?」
女神が泣くような加護の使い方だった。
こうして、千年生きた怪異と聖剣使いによるお酒の勝負が幕を開けた。お互いに次々とグラスをあけて、マスターが黙々と酒を注いでいた
7杯目の火酒を空けてから、ヨウが
「ぷはっ!これ全然効かない!」
加護が仕事をしている。顔色ひとつ変わっていない。
「ねぇ、もちろん勝負に勝ったら友達になってくれるんだよね?」
ちゃっかり要求してきた。抜け目のない女である
「良いよ?どうせ勝つから」
Kはグラスを開けながら答えた。
「言ったね?絶対だよ!」
グラスが次々と空いていく。20杯目が空いた頃、ヨウの顔が赤くなってきた。
「ん〜、ちょっと効いてきたかも…」
ほぼ閉じかけの目がKを見つめる
「なんで…そんなに平気なの…ずるい。」
ヨウがこちらに倒れてくる。Kは「おっと」と言いながらそれをキャッチして、マスターに聞いた。
「ねぇマスター、これ俺の勝ち?」
「まぁ、お嬢ちゃんはもう飲めないでしょうな」
ヨウは体を完全に脱力していて、Kの手の中で眠っていた。
「マスター、お勘定。この子のも払うよ」
マスターは苦笑いしながらお金を受け取って会釈した。
「毎度、また来てくださいね」
Kはヨウがを抱えてバーを出る。
魔力探知で3人が泊まっている宿を特定してそこに向かう。
宿に着いて、部屋をノックする。
ツキが出てきた。
「…何の用」
部屋の窓から月光が入り込み、ツキの長い白髪をキラキラと照らす。冷たい金色の瞳が、Kと抱かれているヨウを見て、眉間に深い皺を刻む。
カイがツキの後ろからひょいと顔を出した。銀髪のボブも月光を反射して光っている
「あれ?Kじゃん。こんなところで何やってるの?」
ツキがカイを手で制する。
「カイ、下がって」
ツキの右手には淡い魔力の光が宿っていた。いつでも撃てる状態、緊張した雰囲気が走る。
「こいつがどうなってもいいのか!なんてね」
そのセリフに光が一層強まった。が、ゆっくり丁寧に肩からヨウを降ろすKの姿を見て、光を消した。
「どうなってもって言う割には、丁寧に降ろすよね。」
カイが後ろから笑いながらヤジを飛ばした
Kがヨウをツキにを引き渡す。
ツキはヨウから香るお酒の匂いに顔をしかめていた。
カイはKを見つめながら言う
「で?本当に届けにきただけ?というかなんで届けにきたのさ」
Kはその言葉を受けて、少しキョトンとした後に
「なんでって…危ないでしょ。潰れた少女そこら辺に置いておいたら。ま、俺は本当に届けにきただけだから
じゃあね人間、精々長生きしなよ。」
Kの声が遠ざかっていく
部屋に居た2人は顔を見合わせ、ヨウをベットに寝かせてから話し始めた。
「不思議な人だったね〜!」
「…"人"ね」
ツキの声には含みがあった。
夜は更けていく。Kはほぼ誰も居なくなった街で、路地裏に入り、完全に誰からも見えなくなった後に転移魔法を起動した。
次に目を開けた時、Kの目の前には扉があった。高級そうな扉を、躊躇なく開ける。
扉を開けて最初に飛び込んできたのは、机に手を組んでこちらを見ている。竜人だった。
「来たか…」
Kは一切動揺せずにその竜人に近づくと、手を伸ばして撫で回した。
グルグルと、竜人が喉を鳴らす。気持ちいいと喉が鳴るのはどの獣人も一緒のようだった。
「会いたかったよヴォルフく〜ん!」
Kの撫でる手は止まらない。千年間で鍛えられた撫でテクニックにヴォルフは溶けていた。
しばらく後、ヴォルフがようやく目を開けて、Kの手を止める。
「会ってそうそう撫で回すとは何事だ…仮にも俺はギルドマスターだぞ。」
形だけの拒絶だった。ヴォルフは話を続ける
「で、わざわざ今朝に俺にアポを取って会いに来た理由はなんだ。まぁ大体見当はついているが…」
Kは少し離れてから話し出す。
「うん、ご想像の通り、俺の確保依頼を取り下げてもらいに来たんだよ。」
ヴォルフはやっぱりか、という顔でKを見つめる。
「撤回はしてやる。でも条件がある。」
平穏の崩れる音だった。
筆が乗ってしまい、つい遅くなってしまいました!
読んでいただきありがとうございます!




