第二話 平穏と1回目の別れ
「ねぇ、そこのお嬢さん方?」
Kは慎重に、刺激をしないように声をかけた。
3人が即座にこちらを向く
「いつの間に?!」
「これが捕獲対象…」
「一気にいくよ!」
それぞれが聖剣や杖やダガーを構えた。
「待って待って!俺は戦う気はないんだ。」
Kのその一言に、3人は目を丸くした。が、警戒は解いていない
「戦わない…って選択肢があるの?」
剣を持つ彼女が聞いた。
「うん、まずはお互いに自己紹介でもしない?知ってると思うけど、俺はK。千年生きてる怪異だ。」
「どうする?相手はフレンドリーだけど…」
盗賊らしき女子が他のメンバーに問いかける
「…私はヨウ。女神の加護と聖剣で冒険者をしてる」
「ちょっとヨウ!はぁ…私はツキ。大魔法使い」
「私はカイ!盗賊やってる!よろしくね!」
「よろしくね、はおかしいでしょ。カイ」
ツキと名乗った少女が静かに注意した。
再びヨウが口を開く
「で、Kさん…?でいいよね。戦う気が無いってことは、おとなしく私たちに捕獲されてくれるって事?」
Kは少し困ったように答える
「捕まる気はないかな〜。でも、交渉くらいさせてくれないかな。なんで君たちは俺を捕まえに来てるの?」
「なんでって…依頼が出てたんだよ。貴方を捕まえろって」
ツキやカイが付け加える
「なんでこんな依頼が出てるか私たちも知らない。生死は問わない確保依頼。」
「確保依頼にしては報酬は破格の金貨300枚!」
Kは顎に手を当てて考える。
「君らはお金のために依頼を受けてるんだよね?なら
お金あげたら帰ってくれる?」
一瞬、広間の空気が止まった。三人が三人とも、予想外の提案に固まっている
「え…お金?」ヨウの口がパクパクと開閉する。
「良いね、いくらくれる?」
「カイ…乗る気?」
ツキがカイを怪訝そうな顔で見つめる。
「交渉のテーブルくらいには座ってあげるよ。怪異さん?」
Kは再び考える様子を見せた。そしてゆっくり目を開き
「金貨400枚でどう?」
「…400?」
カイの動きが止まる
「100枚上乗せって気前良すぎない?!」
ヨウが目を見開いた
カイが腰に手を当てて、わざとらしく悩むポーズをする
「う〜ん、でもこっちにも立場っていう物がね〜。依頼失敗って記録に残るんだよ。信用問題が…」
カイはかなり悩んでいた。盗賊とだけあって、お金関連の話にはかなり慎重になっていた。その時、ツキが口を開く
「他に何か隠してることは?お金だけ渡して「はい終わり」なら受けても良い」
「ツキさん…?」
ヨウが信じられないものを見るような目でツキを見た
「合理的な判断。向こうは大人しく捕まってくれなさそう、戦うなら3対1でも厳しいと思う。だからお金だけで解決できるなら私たちにとってデメリットは無いでしょ?」
この大魔法使いはどこまでも冷静だった。そしてその一言でカイにも踏ん切りがついたらしい
「…そうだね、その交渉受けるよ。Kさん」
ヨウだけが聖剣を抱えて、どこか釈然としない顔をしていた。
Kが微笑んで答える
「ありがとう、お互いに有益な交渉にしたいから、信頼問題の方もなんとかしてみるよ。」
Kの耳元に魔法陣が浮かぶ。通信魔法だった
「あ、もしもしヴォルフくん?今俺の捕獲依頼を受注してる女の子3人の冒険者のことなんだけどね?」
3人の顔が青ざめる。
ヨウ「ねぇ…ヴォルフって…」
ツキ「うん…ギルドマスターの事だと思う」
カイ「あの人本当に何者なの…」
Kは1分ほど話してから、通信魔法を閉じた。
「ごめんごめん、お待たせ。話は通しておいたからさ
ほらこれ」
Kは小袋を3人の方に投げた。
ヨウがかろうじてキャッチする
「っ!とと。これなに?」
Kがきょとんとした顔で答える
「何って…お金さ、迷惑料も含めて450枚の金貨。
…冷静に考えたらなんで俺が迷惑料払ってるんだろ。」
カイは冷静にヨウから袋を受け取り、中身を確認した
「…うん!450枚ある!」
しかしツキの表情は緩まない
「うん…確かに受け取った。あともうひとつ、依頼の件も確認するね。」
ツキが通信魔法を起動した
「すいません。K捕獲の依頼を受けているパーティーですけど…はい、はい。わかりました」
ツキが通信魔法を切って向き直る
「ギルドマスターから直々の帰還命令だって」
再びヨウの顔が青ざめる
「じゃあ…やっぱりさっき連絡してた相手って…」
ヨウは時計を見た。出会ってから5分も経っていなかった。5分の内に交渉から後始末の根回しまで終わらしたのだ。しかもギルドの上層部への。目の前に座る人間としか思えない男の、底知れなさを感じた
ヨウが複雑な顔で頭を掻く
「なんかこう…戦って負けるよりダメージが大きい気がする…」
カイがヨウの背中をバシバシと叩く
「まぁまぁ!戦わず、経歴に傷もつかずにお金だけ手に入ったんだから!ね?」
3人がダンジョンの入り口へと歩き出す。しかし、ツキの足が止まった。
「最後に質問だ。なぜ私たちを殺さなかった」
振り返らないツキの背中にKは当然のように言った。
「俺人間が好きだからさ〜!なんなら元人間だし?」
さらりと言われたその発言に、「元人間」という言葉の重さに3人の雰囲気が変わる
ヨウの足が止まり、振り返った
「元…人間?」
カイは真面目な目でKを見つめる
「へぇ…?」
ツキは振り返らなかった。数秒間沈黙が続いて
「…そう。」
再び歩き出すツキに2人は慌ててついていく。
三つの足音が遠ざかっていく。やがて石の広間には静寂だけが残った。床のガラス化した焦げ跡と、金貨四百五十枚の代わりに得た平穏。奇妙な邂逅は、剣も魔法も使わないまま幕を閉じた
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