第83話 【Day 5】小休止中の配信者ですが、病室のWi-Fiが爆速になり、世界最強のCEOが「バグ修正」にやってきた
入院5日目。 小暮 譲は、ベッドの上で首を傾げていた。
「……あれ? おかしいな」
暇つぶしにスマホで動画を見ようとしたのだが、読み込みが一瞬で終わった。 試しに重いアプリをダウンロードしてみる。 『完了しました』 0.1秒。 まるで有線LANのサーバー直結のような爆速ぶりだ。
「この病院のWi-Fi、こんなに早かったっけ?」
それだけではない。 昨日まで少し肌寒かった空調が、今はまるで森林浴をしているかのような、完璧で心地よい温度と湿度に保たれている。 さらに。
「失礼します。昼食をお持ちしました」
看護師さんが運んできたのは、いつもの質素な病院食……ではなく、特上の和牛ステーキと、デザートの最高級マスクメロンだった。
「えっ!? ちょ、ちょっと! 僕、こんなの頼んでませんよ!?」
「あ、いえ。病院長からの『特別栄養指導食』だそうで……」
看護師さんも困惑している。 何かがおかしい。この病室だけ、物理法則か経済法則がバグっている気がする。
コンコン。 「入るぞ」
返事も待たずにドアが開いた。 そこに立っていた人物を見て、小暮はメロンを落としそうになった。
「あ、アレン・スミスCEO!? な、なぜここに!?」
ラフなパーカー姿だが、その男は紛れもなく、世界最強のIT企業『Nebula Corp』のトップ、アレンだった。
◇
「近くまで来たついでだ。 この病院のシステムに脆弱性が見つかってな。気になったので寄った」
アレンは、まるで近所のコンビニに来たかのような気軽さで入ってくると、勝手に椅子に座り、リンゴを齧った。
「ぜ、脆弱性ですか……?」
「ああ。ネットワーク遅延、空調制御のアルゴリズム不全、栄養摂取プロセスの非効率化……。 あまりにバグだらけで不愉快だったから、すべて修正しておいた」
「し、修正って……」
「ついでに、病院のセキュリティシステムも更新し、最新の医療機器を数台寄付しておいた。 これで、この空間の『快適性』は最適化されたはずだ」
小暮は開いた口が塞がらなかった。 この人は、僕を見舞うついでに、病院のインフラを丸ごとアップグレードしてしまったのか。
「……それで? お前の体調はどうだ」
アレンが、サングラス越しにじっと小暮を見た。
「あ、はい。おかげさまで、だいぶ楽になりました。 ご飯も美味しいですし、よく眠れてます」
「……そうか」
アレンは小暮の顔色をスキャンするように見つめた後、満足げに口角を上げた。
「顔色が戻ったな。 システムダウン寸前だったようだが……再起動は成功したようだ」
「は、はあ……。ご心配をおかけしました」
「フン。優秀なエンジニアがダウンしては、世界の損失だからな」
アレンは立ち上がった。 「用は済んだ」と言わんばかりの早さだ。
「あ、あの! 色々とありがとうございました! ステーキも、Wi-Fiも!」
「礼には及ばん。 私が『快適な環境』が好きだというだけの話だ」
アレンは背中を向け、ひらひらと手を振った。
「……早く戻れよ。 お前がいないと、サーバーのログが静かすぎて退屈だ」
意味深な言葉を残し、世界最強のCEOは嵐のように去っていった。
◇
「……なんだったんだ……」
小暮は呆然としながら、目の前の最高級メロンを見つめた。 でも、あの不器用な優しさが、胸にじんわりと染みた。
彼はスマホを取り出し、SNSを開いた。
『今日、すごい人がお見舞いに来てくれました! なんだか病院がホテルみたいに快適になっちゃって……。 こんなに良くしてもらって、バチが当たらないかな? 早く元気になって、恩返ししなきゃ!』
その投稿を見たアレンは、帰りのプライベートジェットの中で、「恩返しなら配信でしろ」と呟き、満足げにシャンパンを開けるのだった。
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