第79話 【Day 3】小休止中の配信者ですが、旧友に「最高の彼女」と茶化された後、テレビの中の大臣から熱いエールを受け取った
入院3日目。 「退屈だ……」
絶対安静を言い渡された 小暮 譲は、ベッドの上で天井のしみを数えていた。 スマホは禁止されていないが、仕事の連絡はカゲ(栞)によって厳重にブロックされている。 やることがない。
コンコン。 「おーい、小暮。生きてるかー?」
ドアが開き、学生時代からの悪友・ユウジが顔を出した。 両親から入院を聞きつけて来てくれたらしい。
「ユウジ! 悪いな、わざわざ」
「おう。過労で倒れたって聞いた時はビビったけど……なんだよお前」
ユウジは、部屋の隅でリンゴを剥いている影山栞を見て、目を丸くした。
「めちゃくちゃ『勝ち組』じゃねーか!!」
「ぶっ!!」 小暮はむせ返った。
「お前、こんな美人の彼女がいたなら言えよ! しかも甲斐甲斐しく看病まで……! 俺への当てつけか!?」
「ち、違う! 彼女は会社の同僚で……!」
「嘘つけ! 同僚がリンゴ剥くかよ! しかもあんな慈愛に満ちた目で!」
ユウジが小声でギャーギャー騒ぐ。 栞はクスリと笑い、綺麗に剥かれたウサギ型リンゴを差し出した。
「ふふ。どうぞ、ご友人様も。 譲さんとは、その……公私ともに仲良くさせていただいております」
「『譲さん』!!なるほど!!…… 小暮ぇ! お前、結婚式には絶対呼べよな! スピーチで『学生時代は地味だった』って暴露してやるからな!」
「ちょ、ユウジ! 声がでかい!」
小暮が顔を真っ赤にして弁解しようとした時、栞がスッと立ち上がった。
「……あ、小暮さん。そろそろ採血のお時間ですよ?」
ナースコールも鳴っていないのに、絶妙なタイミングでの助け舟(強制終了)。 ユウジは「おっと、お邪魔虫は退散するか」とニヤニヤしながら立ち上がった。
「じゃあな小暮。大事にしろよ、体も、彼女さんも」
「……ああ。ありがとう」
嵐のような友人が去り、病室に静寂が戻った。
◇
「……すみません、影山さん。あいつ、調子に乗っちゃって」
「いいえ。賑やかで素敵なご友人ですね」
少し気まずい沈黙。 それを紛らわすように、小暮は備え付けのテレビのリモコンを手に取った。 電源を入れると、ニュース速報が流れていた。
『――たった今、当選確実が出ました! 剣崎 塔子大臣、圧勝です!』
画面には、選挙事務所で万歳三唱をする支持者たちと、その中心で凛と立つ剣崎塔子の姿があった。 フラッシュの嵐の中、彼女はマイクを握り、勝利演説を始めた。
『ご支援、ありがとうございます。 しかし、これはゴールではありません。ここからが始まりです』
彼女の声は、テレビ越しでもビリビリと伝わるほどの力強さを持っていた。 そして、演説の中盤。 彼女はふと、手元の原稿から目を離し、カメラを――その向こうにいる「誰か」を見据えるように語りかけた。
『……今回の選挙戦の最中、私はある友人が過労で倒れたと聞きました』
小暮の心臓がトクンと跳ねた。
『彼は、誰よりも真面目で、誠実で、そして自分のことよりも周りを優先してしまう……不器用なほど優しい人です。 今の日本を支えているのは、そういう名もなき人々の、献身的な労働です』
塔子の声が、僅かに潤んだように聞こえた。
『私は誓います。 そんな彼らのような、正直で誠実な人々が、報われない世の中であってはならない。 彼らが安心して働き、そして安心して休める社会を作るために……私は、この命を燃やし尽くします』
沸き起こる大歓声。 「剣崎コール」が響き渡る中、小暮は呆然と画面を見つめていた。
(……届いてる。僕みたいなやつのことが、国の中枢に)
それは勘違いかもしれない。でも、今の小暮には、それが自分に向けられた、最大級のエールだと確信できた。 胸の奥が熱くなり、少しだけ涙が滲んだ。
◇
「……ふふ。すごい演説でしたね」
栞がテレビを消し、悪戯っぽい笑みを浮かべて覗き込んできた。
「はい。……なんだか、元気をもらえました」
「それは良かったです」
栞は新しいお茶を注ぎながら、何気ない口調で言った。
「そういえば小暮さん。 先ほどご友人がおっしゃっていた、『結婚式』のお話ですが」
「えっ!?」 小暮がギクリとする。
「もし、小暮さんが式を挙げることになったら……。 私は、どの席に座らせていただけるんでしょうね?」
それは「同僚」席なのか、「友人」席なのか。 それとも――。 栞は答えを求めず、小首を傾げて微笑むだけだ。
「え、あ、その……!」
小暮は再び顔を沸騰させ、言葉に詰まった。 そんな彼を見て、栞は楽しそうに笑った。
◇
その日の夕方。 小暮はスマホを手に取り、SNSを開いた。 友人、カゲさん、そしてフクロウさん。 たくさんの温かい気持ちに包まれて、彼は短く投稿した。
『友達や、いろんな方から温かい言葉をもらえて……。 僕は、本当に幸せ者ですね』
その投稿に、即座に3件の「いいね」がついたことは、言うまでもない。
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