第73話 親子喧嘩
困惑するアマンの様子に構わず、ハルファスは自らの魔力を高めていく。
「みんな、周りから魔物に横槍を入れられないように頼むのだよ」
そう告げると、呪文の詠唱に入る。
ハルファスは、本気だ。
そう全員が悟った。
慌ててアマンが、魔力盾を展開する。
アマンに向けて、高速の土の槍が無数に飛んでいく。
土の槍は、アマンの展開した魔力盾に弾かれ、全て砕ける。
「父上、おやめください」
アマンの叫びに、ニヤリと笑ったハルファスが答える。
「ならば、素直に帰るというのであるか?」
返答に困っているアマンに、今度は無数の氷の槍が襲い掛かる。
慌ててアマンが、再度、魔力盾を展開する。
同じように、氷の槍は魔力盾に弾かれ、全て砕ける。
それを気にすることなく、ハルファスは詠唱を続ける。
ムラマサとシトリーは、驚きながらも言われた通り、周りの警戒に当たる。
サロスだけが呆然と、親子のやりとりを眺めていた。
そんなサロスに、ハルファスが声をかける。
「サロス、手が空いているなら、手伝ってくれたまえ」
冗談だと思いたいサロスだったが、ハルファスの目は真剣だ。
サロスは、しばらく逡巡した。
しかし、ハルファスの目を信じようと決めた。
サロスは、ハルファスも父親のように思っている。
不肖の息子を葬りにきた…ハルファスは決してそんな人間ではない。
そう自然に信じられた。
大陸一の賢者。
そのハルファスが、何か考えを持っての行動を起こしているのだ。
決意した後のサロスの動きは速かった。
魔剣を抜き、アマンへと駆け出す。
そんなサロスの前に、エイミーが立ちはだかる。
2人の振るう剣の刃が火花を散らす。
力任せにエイミーを吹き飛ばすと、横薙ぎに剣を振るサロス。
魔剣同士が散らす火花は、その激しさを増やしていく。
エイミーの不利を見て取ったアマンが、とうとう攻撃に転じる。
ハルファスに向けて、黒炎を放つ。
地獄の業火そのものである黒炎が、禍々しくハルファスに迫る。
寸前のところで、ハルファスが魔力盾で防ぐ。
しかし、魔力盾にまとわり付いたまま燃え続ける黒炎。
その黒炎に、巨大な氷の壁が立ちはだかる。
「同時詠唱!?」
アマンから驚きの声が上がる。
更に、アマンへ向けて氷の槍が降り注ぐ。
「3種類も!クッ!」
魔力盾の展開が間に合わず、背中にある黒翼で空に逃れるアマン。
その動きに合わせて、黒炎が消えうせる。
アマンの顔に、更に驚愕の表情が浮かぶ。
アマンの身体の下から巨大な火柱が立ち上がった。
火柱の直撃を受けたアマン。
それでも空中に留まる。
身体からは、焼け焦げた際の煙が上がっている。
「サロス!遠慮するな!斬るのだ!」
ハルファスが叫ぶ。
その声に、サロスの迷いは吹っ切れた。
鋭いエイミーの突きを受け流すと、そのまま身体を近づけ胴を横薙ぎに払う。
身体を上下に切断されたエイミーが地面に転がる。
「サロスぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
アマンの怒りの咆哮が森に響き渡る。
そして、その腕をサロスに向けて黒炎を放とうとする。
しかし、ハルファスはその隙を見逃さない。
空中にいるアマンをその周りの空間ごと凍りつかせる。
巨大な氷塊と化したアマンが地面へと落下する。
「サロス!!」
ハルファスが再び叫ぶ。
瞳にとまどいを宿しながらも、サロスは魔剣でアマンを閉じ込めた氷塊を粉々に砕いた。
氷塊とともに、アマンの身体もバラバラに砕かれ、地面に散らばる。
呆然とその光景を眺めるサロス。
ふと、ハルファスの方を見ると、再度、魔力を高めている最中であった。
「おじさん…?」
サロスの顔にとまどいが浮かぶ。
その時、瞑目していた目を見開いたハルファスが、両手を天にかざす。




