第72話 死の島
出航から2日半。
当初とは違う場所へと進路を変えた軍船であったが、無事目的地の沖合いに到着した。
軍船はここで碇を下ろし、1週間ほど待機する予定である。
海も穏やかなこともあり、軍船から小型船を降ろし、それを使って死の島へと渡る。
死の島は、沖合いから見ても、真っ黒な森に覆われていた。
小型船で近づくと、その陰鬱な森の深さをより実感してきた。
「迷宮の深層に近い感覚がするのう」
それを感じたムラマサがポツリとこぼす。
それを耳にしたハルファスが返す。
「実際に、それに近いであろうな。
魔物の数も迷宮とどちらが多いか分からないくらいいるであろうしな」
「どんな魔物がいるか分からないから、こっちの方がタチが悪いわね」
そう苦々しげにシトリーが言う。
シトリーの言葉にサロスも同意する。
「古文書の記録にも、そこまでは書いてないらしいからな」
4人は、そんな話をしながら船を進めていくと、どんどんと島が大きく見えてくる。
「あの辺りなら接岸できそうじゃな」
無言で同意した3人は、ムラマサが指差した場所に向けて船を進める。
周囲を十分に注意しながら上陸する4人。
「魔物の気配はするんじゃがなあ」
ムラマサの疑問にシトリーが答える。
「迷宮と違って、変に手出ししなければ、格上相手に無謀に襲ってこないだけじゃない?」
「シトリーの言う通りであろう。だが、決して油断はできないということなのだ」
ハルファスの言葉に、サロスも続ける。
「野営の際には、特に気をつけるようにしよう」
「常に魔物の気配を感じながら過ごすというのはしんどいのお」
そんな3人の言葉に、ムラマサが愚痴る。
「だから、こんなところにアマンたちを置いてはおけない」
ムラマサの言葉に、サロスが力強く言う。
そんな2人を眺めながら、シトリーがハルファスに問う。
「まずは、この周辺から探してみる?」
「うむ。それしかあるまい。森に入るから、十分気をつけてくれたまえ」
ハルファスの言葉に3人が大きく頷き、森へと向かう。
森に入ってからも、4人の周りは魔物の気配で溢れていた。
「これだけの魔物がいて、一切襲ってこないというのは逆に気を遣うのお」
ムラマサが、またごちる。
「確かに、ぞっとしないわね」
今度は、ムラマサの言葉に賛同するシトリー。
周りを警戒しながら、ゆっくりと森を進んでいく4人。
すると、ふと魔物の気配が途絶える。
「ん?なんじゃ?急に魔物がいなくなったの」
ムラマサが、そうつぶやく。
「外縁部にそぐわない強大な存在がいるのであろう」
笑みを浮かべ、ハルファスがそう言う。
「当たりってことだよな、おじさん?」
サロスの言葉に、頷くハルファス。
「見逃したり、また逃げられないように気をつけてくれよ」
サロスがムラマサとシトリーに声をかける。
2人は、表情を引き締めながら頷く。
しばらく、そのまま森を進むと急に開けた場所に出た。
天然に開けたわけではないようで、木々が所々倒れている。
人工的に作られたと思われるその空間には、この島に似合わない建物があった。
「ここが、アマンの新居か」
サロスが、あえて軽口をたたく。
あっさり見つけたとはいえ、4人とも緊張で顔がこわばっている。
探すことに関して迷いはなかったが、出会って何を言えばいいか分からなかった。
4人がそんな逡巡をしていると、目の前の建物の扉が開く。
「父上…みんな…」
建物から出てきたアマンが、そうつぶやく。
後ろには、エイミーがそっと寄り添っている。
「…アマン、迎えに来たぞ」
サロスが、はっきりとした声でそう言い放つ。
そんなサロスの様子に、微笑むアマン。
「ありがとう、サロス。それに皆さん。
でも、私はご覧の通りの有様です。人の世界で暮らすわけにはいきません」
「それは分かっているのだよ。だが、力ずくでも連れて帰りに来たのだ」
それまで黙っていたハルファスが、アマンに告げる。
そんな珍しい父親の態度に、アマンの目が驚きに開かれる。
しかし、すぐに寂しそうな笑顔となり、アマンが首を横に振る。
「父上。そんな苦しい道を選ばせないでください。
私だって、何も考えずにここへ来たわけではありません。
力ずくと言うなら、私も抵抗しないわけにはいきません。
皆さんの気持ちは本当に嬉しいです。
ですが、ここはそっとしておいてもらえませんか?」
ムラマサとシトリーは、アマンの気持ちも理解してしまう。
その悲しき決断を聞いて、黙ってしまう2人。
サロスだけは、納得できずに言葉を続ける。
「なんでお前だけが、こんな目にあわなきゃいけないんだ?
別に悪いことをしたわけじゃない。むしろ大陸の恩人だ」
「サロス…君は、いつも真っ直ぐですね。
だが人間の心は、そんな単純でないことは君もわかっているでしょう」
そういって、再び悲しそうに微笑む。
3人の中で諦めの気持ちが浮かび始めた。
だが、意外な人物が言葉を続ける。
「アマン。私は、力ずくでもと言ったのだよ?」
ハルファスは、真剣な表情でそう告げる。
「父上…」
アマンは、父の真意がわからず困惑の表情となる。
そんなアマンの様子に構わず、ハルファスは自らの魔力を高めていく。
「みんな、周りから魔物に横槍を入れられないように頼むのだよ」




