第71話 船旅
コンコード王国の国王直轄地にある王都コンミラノ。
かつての大戦でも戦火にさらされなかった都。
そのため、古くから残る石造りの建物が多く存在する。
白を基調とした古い石造りの町並みは、情緒に溢れている。
そして、その中心部に威風堂々とした容姿を現す王城が、街のどこからでも見える。
ハルファスたちは、まずこの王都でアマンたちの目撃情報を探した。
案の定、それらしき情報を得ることに成功する。
フードを目深に被った男性らしき人物と美貌の女剣士が宿を使用していたというのだ。
アマンたちが死の島へ向かったとの確信を深めたハルファス。
そこで、ハルファスたちが次に向かったのは、王都の南方である。
王都から半日ほど馬車で移動すると港町シーデルがある。
再び、この街でアマンたちの目撃情報を探す。
予想通り、王都と同じ情報を得ることができる。
ハルファスの読み通り、アマンたちの行き先は死の島で間違いなさそうであった。
死の島は、アースガルド大陸の南方にある海に浮かぶ孤島である。
そこへ向かう最短ルートを考えると、シーデルが出発地となる。
一旦王都に寄り、必要な物品を整え、シーデルから死の島へ向かったのであろう。
ハルファスたちは、シーデルの領主の下を尋ねる。
あらかじめ手配しておいた軍船を借り受けるためである。
国王直々の命令書が既に届いていたこともあり、すんなりと手続きは済んだ。
港へ向かうと、すでに出航の準備が整った軍船が1隻、港に接岸されていた。
ハルファスたちは、領主の許可証を見せて、この軍船に乗船する。
長命である妖精族のシトリーとムラマサであるが、船旅は初めてらしい。
船のあらゆるところをキョロキョロと見回していた。
ハルファスたちが乗船すると、間もなく出航の汽笛が鳴った。
そのまま軍船は、一路南方へ向けて出発した。
初めは、船内を興味深げに見て回っていた妖精族の2人。
しかし、しばらくすると船酔いに襲われ、自室で寝込んでしまった。
死の島までは、海が荒れていなければ、シーデルから2日ほどの距離である。
今回の航海は天候にも恵まれ、順調に船は南へと進んでいた。
ハルファスとサロスは、船内にある応接間を借りていた。
王族が利用することもあって、美しい装飾を施されている。
この部屋で、2人は今後の捜索について相談していた。
死の島のおおまかな地図を広げ、ハルファスはサロスの意見を求めていた。
熟考の末、サロスは2つの回答をハルファスへ伝える。
「そうだなぁ…長期的に滞在するつもりだろうから…
住みやすい条件の場所にいるとは思うんだが…
そうすると、島の真ん中にある泉の付近…
もしくは、逆に島の外縁部に拠点を作るんじゃないかな?」
サロスの声に、ハルファスが声を漏らす。
「ほぉ、私も全く同意見なのである。君は、どうしてそう考えたのかね?」
「お!おじさんと答えが一緒とは、なんだか嬉しいな。もう正解した気分だぜ!」
サロスは、そう言って笑いながらも、真剣に言葉を続ける。
「まずは、アマンが悪魔王の身体になっていることを考えた。
話に聞くところによると、悪魔族は物ではなく魔力を喰らうという。
となると、島の中心にある魔力が湧き出ているという泉の付近が一番怪しい。
だが、そこは強力な魔物の住処でもあるはずだ。
きっと、アマンはエイミーの安全を一番に考える。
得られる魔力が少なくても、島で一番安全な外縁部にいてもおかしくない」
真面目に語るサロスの顔を嬉しそうに見やるハルファス。
「うむ。その通りだ、サロス。おそらくそのどちらかだろう。
アマンが目的を明確にせず、中途半端に場所を決めるとは思えないのだ」
ハルファスの言葉に、サロスが大きく頷く。
「問題は、そのどちらにいるか…
外縁部にいた場合は、島のどの辺りにいるかであるな」
続けたハルファスの言葉に、サロスが厳しい顔をする。
「俺は、アマンがエイミーより自分を優先させるとは考えられない。
だから、外縁部の方が怪しいとは思う。だが、そのどこにいるかは…」
アマンの人格を理解してくれているサロスを温かい眼差しでハルファスが見つめる。
「ずっと傍にいてくれた君がそう言うなら、外縁部で間違いないであろう。
となれば、あとは2箇所に絞れるとは思うのだ」
ハルファスの言葉に驚くサロス。
「おじさん、ここからどうやって絞るっていうんだ?」
「なに、簡単なことなのだよ。
アマンが外縁部を選んだとしたら、それ以外に考慮することはあるのか?
アマンは悪魔王の力を得ているし、エイミーも強い。
外縁部であれば、どこでも生活を続けることも可能であると思うのだ。
とすれば、残りは我々の追跡を考慮するかしないかの問題しかないのだ」
ハルファスの言葉に納得するサロス。
「俺たちが追ってくると考えれば、見つかりづらいところへ。
追ってまでは来ないと考えれば、最初に到着したところといった感じかな?」
サロスの言葉に頷くハルファス。
「その2択で間違いないであろう。そして、きっとアマンは万が一までを考慮する。
つまり、我々の追跡も踏まえて、外縁部の中で追跡が一番面倒なところを選択する」
ハルファスの言葉に、サロスが問い返す。
「でも、追跡しづらいところなんて、アマンだってわからないんじゃないか?」
微笑みながら、ハルファスが答える。
「サロス。君は思考を重ねるということについて、随分成長したのだな。
頼もしい限りで、私も嬉しいのである。
そう、アマンも詳しい土地勘はない。
となれば、一番真南。アースガルド大陸から一番遠いところを選択するであろうな」
ハルファスの言葉を聞いたサロスが立ち上がる。
「おじさん、さっそく船長に島の真南に回りこむように進路を変えてもらってくる」
「ああ、お願いするのだ」




