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第70話 新たなパーティー

火竜の神殿を飛び去ったアマンを呆然と見送る一同。


神殿に残されたものは、一様に黙り、今起きていることを理解しようとしていた。


そんな中、口を最初に開いたのはサロスだった。



「一体、何が起きたんだ?」


サロスの簡潔な問いは、皆がそれぞれ胸の中で問いかけていたものだ。


この問いに、ハルファスが答える。


「水晶球の発動には、思ったよりも莫大な魔力が必要だったようである。


アマンは、自身の魔力で発動できると考えていたと思う。


一旦、発動した水晶球が求める魔力を首飾りのアーティファクトで補う。


それがアマンの最初の計画だったはずである」


「でも、おじさん!それは聞いていた通りの計画じゃないか。


なんでアマンは、あんな姿に…あれじゃ、まるで…


それに何で俺たちの前から逃げ出すんだ?」


サロスは怒ったような口調で、問う。



自分のかわいい息子のことである。


ハルファスは、サロス以上に動揺しているであろう。


だが、それでもサロスは我慢できずに食って掛かってしまう。



一方、動揺はしながらもハルファスの脳内は冷静に働いていた。


「アマンに起こった現象は、首飾りのアーティファクトの副作用だと考えられるのだ。


あのアーティファクトは、魔界の魔力を召喚していたのであろう。


それを過度に使用したため、アマンの体内には魔界の魔力が蓄積されていた。


そして、先ほどの使用で完全に体内の魔力が全て魔界の魔力になってしまった。


そのため、アマンの身体も悪魔王エビルロードに変わってしまったのではないだろうか」


「そんな…」


シトリーが悲鳴にも似た声をあげる。



誰もが気づいていたが、信じたくはなかった事実。


アマンが悪魔王エビルロードとなってしまったということ。


それを一番辛いはずの父親が口に出した。


そのため、他の面々はハルファスを慮って、それ以上の言葉を出せなかった。



だが、サロスは止まらない。


「そんな冷静に…おじさん!アマンのことなんだぞ!」


「黙れ!サロス!」


たまらずサブノックがサロスを叱責する。


「でも…親父!」


「子どものことを心配しない親がいるわけないだろう!


オレだったら、絶望して何も出来ない。


それでもハルファスは、頭を振り絞ってアマンを救う方法を考えているんだ」


サブノックに諭されたサロスは、ガックリと肩を落とす。


そして、神妙な面持ちでハルファスへ謝罪する。


「おじさん、すまない…自分の気持ちだけ勝手に口走ってた。申し訳ない…」



ハルファスは、そんな口論も耳に入らない様子で瞑目していた。


だが、サロスの謝罪に対しては目を開き、瞳をまっすぐにみつめて頷いた。


そんなハルファスの様子に、サロスは再び問う。


「アマンは、どこに行ってしまったのだろう?」



「ふむ。どうやら、アマンはこの事態を想定していた節があるのだよ。


変身してしまった動揺よりも、先に行動を起こした。


これは、彼の中で最悪のケースではあるが想定内なのかもしれない」



「そんな覚悟をしてまで、わしらの火を取り戻してくれたのか…」


呆然とした顔をしたムラマサが、そうつぶやく。


そんなムラマサに、ハルファスが言葉を続ける。


「もちろん、アイロニア領のためということもあるのだろう。


しかし、彼はこの火力によってもたらされる経済効果。


そして、その先にある王国全体の安定を望んでいた。


その気持ちは、親としてとても誇らしく感じるのだ」



「しかし、ハルファス。それはなんでも薄情に過ぎないか?」


現状を受け入れているようなハルファスに、サブノックが問う。


「薄情?私は、一言も諦めたなどと言ってないのだよ。


アマンのことを諦めてなるものか!」


「そうだな、俺たちの子どもを簡単に諦められるわけない。


ハルファス。俺は、アマンのためにどんなことでもするぞ」


サブノックが、そう声をかける。


ハルファスは、少し微笑む。


「ありがとう、サブノック」



ハルファスは、1つ深呼吸する。


しばし瞑目したのち、再び口を開く。


「先ほども述べたが、アマンはこの事態を想定していたのだろう。


となれば、そうなった場合に向かう先も決めていたはずなのだよ」


「それは一体…」


サロスが途方にくれたような顔で聞く。



「ふむ。一番可能性が高いのは、『死の島』であろうな」


ハルファスの言葉に、一同が息を飲む。



『死の島』


伝承でしか伝えられていない島。


この大陸の南方に浮かぶ島だとされている。


だが、その存在は古文書の中にしか現れていない。


古文書によれば、かの古代魔法王国の魔道師たちでさえ、開拓を諦めた地である。


曰く、島の真ん中に泉のようなものがある。


それは巨大な魔力溜まりとも、魔界に通じている穴とも言われている。


その巨大な魔力が、魔物を次々と生み出す。


そして、魔物による弱肉強食の場と化し、島中に生き残った強大な魔物が跋扈している。


魔物でさえも、強さがなければ生きていけない。


およそ人が住める環境ではないと。



悪魔王エビルロードになるという具体的な不安がアマンにはあったようだ。


でなければ、まず自分の身に起こったことを確認していたはずだ。


悪魔王エビルロードになった以上、人間の住まう場所では目立ってしまう。


だから悪魔王エビルロードとして生きていく場所を最初から決めていたのであろう。


それは、残念ながら『死の島』でしかありえない」


ハルファスの淡々とした声が、神殿に響いていく。



「それでだ、サブノック。しばらく私は暇をいただきたいのだよ」


ハルファスの言葉に、サブノックが返す。


「なら、もちろん俺も行く!」


そんなサブノックの言葉に微笑みながら、首を横に振るハルファス。


「ありがとう。君はいつまでも変わらないでいてくれる。


だが、今の君は国王だ。


これからアイロニア領の立て直しと全土の経済政策を推し進める必要がある。


そして、それは君にしかできないことだ」


「ハルファス…」


サブノックが悔しそうな表情を滲ませる。



「なら、俺が行く!」


サロスが叫ぶ。


「ありがとう、サロス。申し訳ないが、君の好意に甘えさせてもらおう。


よろしく頼むのだよ」


ハルファスは、サロスの顔を嬉しそうに見つめる。



「わしも付き合うとするかの」


ムラマサも声をあげる。


すると、シトリーも同様に続く。


「仕方ないわね。私も一緒に行ってあげるわ」



少し意外そうな顔をしたハルファス。


だが、そこにいるのが息子の得がたい友人だと思い知る。


「2人とも、感謝する!」



「おじさん、行くなら早く向かおう。


万が一、アマンが他の魔物にやられたらマズイ」


サロスの言葉に、ハルファスが頷く。


「その通りであるな。王城の南方にある軍港から軍船を出させてもらおう」


そう言って、サブノックを見やる。


当然、サブノックは大きく頷いた。


「じゃあ、まずは軍港を目指して出発だ!」


サロスの掛け声が神殿に響いていった。

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