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第69話 起動

夕暮れの中、ラプラスの街に貴族用の馬車が到着した。


中から変わった組み合わせの5人が出てきて、一様に伸びをしている。



「何もせずに馬車に乗ってるだけっていうのは、戦闘よりも苦しいな」


燦燦と輝く金髪に、黒く日焼けした筋肉が隆々としている獣人族の少年が言う。


「サロスにとっては、そうかもしれませんね。


私は、読書の時間がたっぷりとれて良かったですよ」


黒髪に少し尖った耳をした細身の少年が答える。


そんな会話を人形のように可憐で華奢な少女が笑顔で見つめている。


ドワーフとエルフの男女は、黙って荷物を降ろし始めていた。



しばらくすると、荷物を抱えて国王がいる領主の館に入っていく。


復興作業に当たっている人々が、奇異な5人組を訝しげに見つめていた。



領主の館では、国王の側近が忙しそうに動き回っていた。


その中の1人が5人組に目を留め、慌てて駆け寄ってくる。


「殿下!お戻りあそばせたのですね。ただ今、陛下にご報告して参ります。


申し訳ありませんが、あちらで少々お待ちいただけますか」



「すまんな。よろしく頼む」


獣人族の少年はそう告げると、指し示されたロビーに置かれたソファーセットに向かう。


他の4人もそれに続く。



ほどなくして、先ほどの官僚が戻ってくる。


「お待たせしました。陛下がお会いになられるそうです。早速、執務室までご案内致します」


そう言って、先頭に立って歩き始める。


5人はそれに続き、国王のいる執務室の扉の前まで案内される。



中から入室の許可を知らせる声が聞こえると、5人組は気負った様子もなく執務室へ入っていく。


「どうだった?ちゃんと左側の魔石の部屋から入ったか?」


いたずらっ子のような笑顔を浮かべ、国王サブノックが5人に声をかける。


それを受けて5人は皆、苦笑いをする。


「ええ。陛下のご教授の通り、左側の部屋から入りました。


まさか賢者ベルルにお会いできるとは思いませんでしたよ」


黒髪の少年…アマンがそう答える。


アマンの答えを聞くと、サブノックは更に嬉しそうな顔をする。


「そうか、そうか。驚いただろ?」


さながら、いたずらが成功した子どものようである。



「それで、君たちの目的は達成できたのかね?」


サブノックの横に立っていた現在の宮廷魔術団長ハルファスが尋ねる。


「ええ。万事達成というわけにはいきませんでしたが、知りたいことは知れました」


「そうか、それは何よりであったな」


そう言いながらハルファスが優しい眼差しで、息子アマンを見つめる。



「陛下。私たちの用事を先に済ますことをお許しいただき、ありがとうございました。


父上。神殿の点検の方は、いかがでしたでしょうか?」


アマンの問いに、ハルファスが答える。


「うむ。特に故障や破損したところは見つからなかったのだ。


問題なく使用できる状態にあるだろう」


「そうですか。それでは、あとは動力源の確保だけですね」


「うむ。そちらの方は、どうなのだ?」


「はい。簡易的な魔道具を使用した実験には成功しております」


アマンとハルファスの会話にサブノックが口を挟む。


「おお!それはでかした!では早速、明日にでもとりかかりたいのだが大丈夫か?」


「ええ、問題ありません」


「そうか、それは助かる。国民を代表して、国王として礼を言う」


「陛下、それは成功してからということで…」


「はっはっはっ!それもそうか!まあ、お前たち親子が失敗するところが想像できんがな」


そう言って、サブノックが大笑いする。



一頻り笑ったところで、サブノックが再び問う。


「それで、お前さんたちはこれからどうするんだ?


もし宮使いに興味があるなら、それなりの場所を用意するぞ?」


「わたしは、アマン様のご意向のままに」


珍しくエイミーが最初に答える。


その言葉に、サブノックもハルファスも微笑む。


「他の2人は、どうする?」


サブノックに見つめられたムラマサが答える。


「わしは、アマンの作業を見届けたらアイロニア領に留まり、新しい鍛冶技術を磨きますぞ」


続いて、シトリーも答える。


「私もアマンの作業を見届けたら、風の森に帰って自分にできることを探すわ」


2人の答えに、サブノックは寂しそうな顔をする。


「そうか。それは残念だな…」


息子たちのパーティーメンバーということもあり、愛着が湧いているようだ。



少ししんみりした空気の中、ハルファスが口を開く。


「皆、馬車旅で疲れているだろう。この屋敷の中に部屋を用意してあるのだ。


今日はしっかり休んでくれたまえ。アマン、明日はよろしく頼むぞ」


「ありがとうございます、父上」


こうして、5人は久しぶりの柔らかな布団を満喫したのであった。



翌朝、いつも通りの装備を身に付け、館の玄関前へと現れたアマンたち。


しばらくすると、サブノックとハルファスも戦闘用の服装をして現れる。


「皆、揃ったな?では、出発しよう!」


サブノックの声に皆が頷き、用意してあった馬車に乗り込む。



朝靄の中を馬車は軽快に走り、昼前には火竜の神殿へと到着した。


さすがに少し緊張の色を隠せないアマンたち。


比べて、サブノックとハルファスは内心は計り知れぬが、堂々とした振る舞いである。


構内で作業している者たちに労いの言葉をかけながら、中へと進んでいく。


その風格を目の当たりにして、アマンとサロスは誇らしい気持ちを抱きながら、父の姿を眺めていた。



神殿の奥に入っていくと、様々な器具に取り囲まれた台座が見えてきた。


最深部まで辿り着くと、その台座の上にサリードの作成した水晶球が置かれていた。


「発動させた後は、この部屋ごと強力な結界で封鎖するのだ。


盗難などは万が一にも起こさせはしないつもりなのだよ」


アマンの心配に先んじて、ハルファスが説明する。



ハルファスの言葉に頷くと、アマンは台座へと近づく。


おもむろに身に着けていた首飾りを外すアマン。


その首飾りを水晶球の横へと置く。


息を整えながら、瞑目するアマン。



やがて、目を開くと後ろを振り返り皆に告げる。


「では、水晶球の起動にとりかかります。


これが成功すれば、魔界の黒き炎が新たな熱源として作動するでしょう」


再び水晶球に目を戻し、睨みつけるように見つめるアマン。


何気ない動作で、水晶球にそっと手を伸ばす。


ふっと息をついたかと思った瞬間、アマンはありったけの魔力を水晶球に注いだ。


アマンの魔力は、どんどんと水晶球へと吸い込まれていく。


しかし、アマンが脂汗を流し、どれほど魔力を注いでも水晶球に変化が見られない。


魔力が枯渇し始め、青い顔をしたアマンに焦りの表情が見える。


そして、アマンが水晶球に伸ばしていた手を下ろす。



「失敗か?それよりもアマン、顔色が酷いぞ。大丈夫か?」


サロスの言葉をぼんやり聞きながら、何が足りないか思考しているアマン。


ふと、隣の首飾りに目がいく。


今度は、右手を水晶球に、左手を首飾りに伸ばすアマン。


まずは左手で首飾りを起動し、魔力を補充する。


黒き魔力がアマンの体中を満たす。


それを感じたアマンが、今度はその魔力をそのまま右手から水晶球へ放出する。



首飾りから立ち上る黒き魔力がアマンを通して、どんどん水晶球へ流れていく。


少し離れていた他の面々の目からも、はっきりと黒き流れが分かるほど立ち上る魔力が大きい。


加速度的に魔力の流れが大きくなっていく。


黒い霞に包まれたように、アマンの姿が隠れてしまう。



刹那、右手側…水晶球のあった辺りから黒き炎が立ち上る。


「おお!」


一同から歓声が上がる。


黒い靄からアマンが出てくる。


それでも魔力の流れは止まらない。


「成功です…」


アマンが、微かに微笑みながら皆に告げる。


しかし、凍りついたように皆からの反応はなかった。



全員の視線が、アマンの背に…いや、背から生えた一対の黒き翼に釘付けとなる。


悪魔王エビルロード…?」


誰かが、そう呟いた瞬間、突然アマンが出口に向かって走り出す。


アマンの行動に誰もが反応できずにいた。


否、エイミーだけはアマンと一緒に走り出していた。


そんなエイミーを見つめ、その強い意志を感じるとアマンはエイミーを抱きしめ…


その漆黒の翼をはためかせ、どこともなく飛び立っていった。

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