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第68話 曳尾塗中

夜の帳が下りたイボスの街。


いつものように『夕暮れの子山羊亭』の食堂にアマンたちの姿があった。



「とりあえず魔石の部屋を攻略したってことで、まずは乾杯!!」


サロスの音頭で、皆が杯をぶつけあう。


エール酒が少々こぼれるのにも構わず、各々で乾杯を交わす。



皆が最初の一口を豪快に胃へ運んだところで、サロスが口を開く。


「まあ、攻略っていっても、なんだかおかしなことになったがな」


そう言って笑うサロス。


「でも、当初の目的は果たせたから私は満足よ」


「わしもじゃ」


サロスの言葉にシトリーとムラマサが応える。



そんな2人にサロスが尋ねる。


「で、成果はどうだったんだ?」


「私の方は、予想通りさっぱりダメだったわ。


魔石に炎の精霊王の痕跡なんて、これっぽっちもなかったわ」


「わしもダメじゃったわい。


多少は魔力を帯びているが、ただの鉱石とさほど変わらんかった」


しかし、2人は言葉とは裏腹に晴れ晴れとした顔をしている。



サロスもそう感じたのか、疑問を口にする。


「そう言う割には、2人ともスッキリした顔をしてるな?」


珍しくシトリーとムラマサが顔を見合わせる。


そして、互いに苦笑いを浮かべる。


「まあ、私は…喪失感を何かを追うことで埋めたかったのかもね…


本当は魔石の部屋なんかに行けるとは思ってなかったし…


でも、おかげさまで次に進める気がするわ」



シトリーの言葉を受けて、ムラマサも口を開く。


「わしは、結構期待しておったのじゃがな。


まあ、当ては外れたが他に興味の湧くことができたでの」



ムラマサの言葉に興味を覚えたアマンが尋ねる。


「新しい鉱石の当てでもあるんですか?」


「いや、ない。だがの、アマンが試そうという仕組みには興味がある。


もしかしたら、今まで精錬できなかった鉱石をいじれるようになるじゃろう。


これまで貴重とはされていたが、宝の持ち腐れだった鉱石をいじる。


これは、鍛冶師冥利に尽きる仕事になるじゃろうな」


そう言って、ニヤリとムラマサが笑う。



「そうか。まあ、2人が満足しているなら、それでいいか!


で、2人はイボスに来た目的を達成したわけだろ?これからどうするんだ?」


サロスの問いに、2人が気まずそうな顔で答える。


「いずれ言おうと思っていたんだけど…


気持ちの整理もついたし、一旦、シルフ領の森に帰ろうと思うの。


もちろん、アマンの実験には付き合うわよ。私も興味があるし。


火竜の神殿で実験が成功したら、そのままシルフ領に戻るわ」


「わしも勿論、アマンの実験は見ておきたいわい。


ただ、わしも成功を見届けたら、そのままアイロニア領に留まるつもりじゃ」



アマンたちは、そこまで長い期間を共にしたパーティーではない。


しかし、2人も同時にいなくなるというのは、皆の胸に寂寥の思いを募らせた。



少ししんみりとしてしまった空気を紛らわすように、サロスが口を開く。


「何、辛気臭いこと言ってんだよ。目的は達成した!


次の目標も決まった!とんでもなくめでたいことじゃないか!」


アマンも、サロスの言葉に賛同する。


「そうですね!とても素敵なことだと思いますよ」


エイミーも笑顔で大きく頷く。



3人よりも遥かに長い時を生きてきたシトリーとムラマサの方が照れている。


そんな照れを隠すかのように、シトリーが叫ぶ。


「ほら、みんな!もう1度、乾杯するわよ!」


「ほう、たまにはお主も良いことを言うのお。さあ、乾杯じゃ!」



再び、皆で杯をぶつけ合う。


5人の顔には、満面の笑みが浮かんでいた。



「アマンよ。そういえば、お主の試みというのは、どうなんじゃ?


何か手伝えることがあるなら、遠慮なく言うんじゃぞ」


ムラマサの言葉に、アマンが笑顔で答える。


「ありがとうございます。先ほど、街で簡単な魔道具を買って来ました。


これで明日、簡易的な実験をしてみるつもりです」


「1人で大丈夫なの?」


シトリーの問いにアマンは頷く。


「ええ。お手を煩わせるようなことはありません。


私が手に入れた首飾りのアーティファクトを使う実験ですので。


この首飾りは一度発動したら、意図的に魔力を切らないと永続的に働き続けます。


その特性を活かして、傍に首飾りを置き魔道具を発動させるつもりです。


そうすることで、魔道具は傍にある首飾りから永続的に魔力の供給を受ける。


そういう計画です。ですので、実験自体は簡単なものです」


「なるほどのう。そういう仕組みを考えておったのか」


ムラマサが感心したように唸る。


そんなムラマサの様子に、今度はアマンが照れてしまっている。



それに気づいたムラマサが笑いながら叫ぶ。


「では、アマンの実験の成功を祈って、もう一度乾杯じゃ!」


再び、笑顔の溢れる乾杯が繰り返される。


こうして、アマンたちは朝日が昇るまで楽しい時間を皆で過ごしたのであった。



翌日、アマンとサロスは二日酔いで夜になるまで起きてこなかった。


さすが妖精族ともいうべきか。


ムラマサとシトリーは、酒の影響を全く感じさせず各々イボスの街を回っていた。


イボスを離れるに当たって、知り合いに別れを告げに行ったのだ。


この日は、珍しく何もせぬままベッドで一日過ごしたアマン。


夜中になって、ようやく簡単な実験を1人で行っただけである。



更に日が変わり、アマンたちは予定通りイボスを出発することにした。


ムラマサとシトリーは全ての挨拶を済ませ、身の回りの物も持ってきている。


それを確認すると、再び王国が用意した馬車に乗り込む一同。


ラプラスを目指し、ゆっくりとした馬車旅が始まった。

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