第67話 魔石の守護者
「…ベルル・アルバス!?…白髭の賢者!?」
アマンのうわごとのような声にベルルが応える。
「白髭の賢者か…懐かしい呼び名よのぉ」
そう言いながら、遠くを見つめるようにして髭をしごくベルル。
「…は?白髭の賢者って…あの大陸の三賢者の1人のか?」
サロスが驚いた声で、アマンに尋ねる。
「ええ。大陸の三賢者の1人にして、我が王国で宮廷魔術団長を勤めていた方です」
アマンの答えに、サロスが気づく。
「くっそ!親父め!だからこの部屋から攻略しろと言ったのか!」
サロスは、その時の父のニヤリと笑った顔を思い出していた。
サロスの叫びに、アマンも応える。
「ええ。たちの悪い冗談です。もし本当に戦闘になっていたら、どうするつもりだったのか…
確かに白髭の賢者は温厚な人柄で知られてはいますが…」
「ふむふむ。どうやらお前らは父親たちに化かされたようじゃのぉ」
そう言って、ベルルはまた朗らかに笑う。
アマンがこれに答える。
「ええ、そのようです。しかし、ベルル閣下。1つよろしいでしょうか?」
「閣下などとかしこまらんでもよい。今はただの不死じゃからな」
ベルルの答えに、アマンが言葉を続ける。
「閣下ほどの方が、なぜ不死の王になってまでこちらに?」
アマンの素朴な疑問にベルルが髭をしごきながら答える。
「この迷宮の建設にわしも携わっているのは知っているかの?
迷宮に魔物を放つことで魔石の力を暴走させないようにするつもりじゃった。
しかし、最初は迷宮内に秩序がなく混沌としていたのじゃ。
魔石の部屋の主も入れ替わり立ち代りでなぁ」
そう言って、苦々しい表情を浮かべるベルル。
「そこで、わしがこの部屋の主になることで、迷宮を調整することにしたんじゃ。
もう2つの部屋の主が、知性が高くて話がわかる魔物になったときに取引をしたんじゃよ。
迷宮で死んだ魔物の魂…まあ、魔力の塊のようなものじゃな。これをすべて主に還元すると。
また、主と同等の強い魔物が出現した際には、3つ部屋の主が協力して倒すという約束じゃ。
その代わりその時以外は、主は魔石の部屋から出ないという取引なのじゃよ」
いきなりの話についていけずに、ムラマサとシトリーが呆けた顔をしている。
そんな2人を放って、ベルルは言葉を続ける。
「もともと魔物にとって魔石に近いほど魔力を感じられて心地よいのじゃ。
だから部屋の主さえしっかりしていれば、自然と弱い魔物は遠くへ追いやられる。
そうして強さにしたがって魔物が迷宮に分布する仕組みを作ったんじゃ。
そのために、わしは不死の王になることにしたんじゃ。
普通の人間のままでは、魔力の還元もできんし、迷宮を調整できる時間も僅かじゃからのう」
飄々と語るベルルの話に驚愕するアマン。
「そのような覚悟をされてまで…悠久の時をここで過ごすことにされたんですね…」
「わしは、この大陸が好きじゃからな」
そう言って、朗らかに笑うベルル。
自分が魔物となってまで、大陸のために尽くす。
しかもそれを誰にも知られることなく…
アマンは、だんだんと目の前の賢者に尊敬の念を抱いていた。
「じゃから、わしの討伐は見逃してくれんかの?
あと、隣人の魔人王とマンティコアも見逃して欲しい。
意思の疎通がうまくいっているのもあるんじゃが、長い間付き合ってきて愛着も湧いてての」
微笑みながら、願い出るベルルにアマンは即答する。
「もちろんです。閣下が、そのような思いをしてまで保ってくださっている秩序を…
我々の冒険心だけで壊すなんてできません!」
アマンの言葉を嬉しそうに聞きながら、ベルルは他の4人の顔も見渡す。
皆、目が合うと同様に頷いた。
「すまんのう。せっかく苦労してここまで来たのに」
ベルルの言葉に、アマンがお願いを返す。
「討伐に関しては了承致しました。代わりといってはなんですが、お願いがあります」
「ふむ。なんじゃろうか?」
髭をしごきながら答えるベルル。
「この場で、魔石とその付近の鉱石の調査をさせてください」
「なんじゃ、それくらいのことなら好きにしてくれて構わんよ」
アマンの言葉を肯定するベルル。
「では閣下、さっそく取り掛からせていただきます。
ムラマサ!シトリー!」
ようやく話の流れが分かった2人が、慌ててうなづく。
そして、駆け出すようにして魔石の近くへと向かう。
そんな2人を見つめながら、アマンが問う。
「閣下。いくら大陸のためとはいえ、過酷に過ぎませんか?」
「なに、どうということもない…
というのは、強がりじゃな…
2体の主とも仲良くはやっておるが…
時折、お前たちの父親が会いに来てくれるのが酷く嬉しいのぉ」
ここで、初めてベルルが寂しそうな表情を見せた。
「だったら、今度は俺たちも会いに来るようにする!」
突然、サロスが叫ぶ。
冒険者となった今でも、王族の一員としての責任を罪悪感をもって抱いているサロス。
そんなサロスにとって、目の前の人物は自分が果たしていない責任を苛烈に担っているのだ。
サロスは、ベルルに対して尊敬よりも罪悪感を感じていた。
「そうですね。父たちがいなくなっても、私たちが会いに来ます。
私たちがいなくなっても、私たちの子孫を鍛えて、お伺いさせるようにします」
サロスの言葉にアマンも言葉をかける。
「そうだな!そうしよう!」
アマンの提案にサロスも同意する。
「そうかそうか。それは嬉しいのう。ありがとう」
孫に喜ばされる好々爺のような姿が、そこにはあった。
しばらくして、ムラマサとシトリーが皆の下へ戻ってきた。
「用は済んだのかの?」
ベルルの問いにシトリーが答える。
「ええ。機会を与えてくれて感謝するわ」
「どうってことはないわい。また、いつでも来るといい」
優しく微笑むベルルに、ムラマサもシトリーも頭を下げた。
「では、閣下。メンバーの都合もありますので、今日のところはこれで引き上げます。
また次にお会いできる日を楽しみにしております」
アマンの言葉に優しくベルルは頷くのであった。




