第66話 魔石の部屋
翌朝、避難部屋を出たアマンたち一行。
隊列は、昨夜話し合ったとおり、前列にサロス、ムラマサ、エイミー、後列にアマン、シトリーである。
魔石の部屋から追い出される魔物はいても、中に入ってくる魔物はいない。
その前提を元に、後ろからの襲撃は考えずに部屋の主に集中するための布陣である。
迷宮の硬い地面を緊張した足運びで進む一行。
目指すは、一番左側に位置する魔石の部屋である。
父親たちからのアドバイス通り、まずはその部屋を目指す。
避難部屋からさほど離れていないにも関わらず、魔石の部屋への距離を感じる。
緊張感が距離感を狂わせているのだ。
しかし、実際の距離はほとんどないので、魔物にも遭遇することなく魔石の部屋の前に立つ。
避難部屋で、しっかり一泊したため気力は十分。
装備も確認済みである。
誰の合図があったわけでもなく、全員で目配せをする。
そして、皆が大きく頷くと魔石の部屋へと駆け込む。
部屋に入ると、前衛の3人が奇襲に備えながらも素早く中を見渡す。
少し遅れて入った後衛の2人も部屋の中をしっかりと観察する。
薄暗い部屋の中、封じられた魔石だけが煌々と輝いている。
しかし、皆の視線はその光ではなく、部屋の隅にいる禍々しい魔力を放つ存在に自然と向けられる。
危険を知らせる本能が、目をそらすことを許さないのだ。
部屋の隅には、なぜか安楽椅子が設置されており、魔物はそこに静かに座っていた。
アマンたちが駆け込んできた様子をのんびりと眺めていたが、やがて傍らの杖を取り、立ち上がる。
「ふむふむ…ずいぶんと元気な若者たちが来たものじゃのう」
好々爺を思わせる口ぶりで1人つぶやくと、長く伸びた白髭をしごきながら5人を観察する。
一方、その姿を確認したアマンから警告の声が上がる。
「不死の王!!」
アマンの声に反応し、不死の魔物に有効なスキルを持つサロスが前に出る。
緊迫したアマンたちの様子にはお構いなしに、魔物がのんびりと言葉を続ける。
「ふむ。随分、変わった組み合わせじゃのう。
これだから冒険者は面白い。ふぉっふぉっふぉっ」
そして、禍々しい魔力にはとても似つかない柔和な笑顔を見せる。
「不死の王は、智謀にも優れた魔物です。
その外見や仕草に騙されないようにしてください」
再度、アマンが警戒の言葉を発する。
「寂しいことを言うでない。久方ぶりの来客じゃ。少しぐらい話くらいさせんか」
不死の王は好々爺然とした態度を崩さない。
それでもアマンたちの警戒は解かれることはなかった。
「そうじゃの。友好的な態度をとられても油断しない。
冒険者として正しいあり方じゃ。若いのにしっかりしとるのう」
どこか優しげな眼差しで、アマンたちを見つめる不死の王。
1人1人の顔を不死族の王としてはありえない優しい眼差しで見つめる。
「ふむふむ。ドワーフとエルフが同じパーティーを組んでいるとは珍しい。
どういった経緯があれば、水と油の両者が手を組むことができたのじゃろうのぉ。
それに、そこのお嬢さんはどこか人間とは違うようじゃの」
そう話しながら、サロスとアマンの顔を見つめ始める。
すると、不死の王が少し驚いた顔をする。
目線がサロスとアマンの顔を行ったり来たりとしながらマジマジと見つめ始める。
「ふむ?なにやら知った顔に良く似ておるのぉ…
あやつらの子が、こんなに大きくなるほど時間が経ったのかのぉ?」
警戒しながらも、アマンとサロスが目線を交わす。
そして、初めてアマンが魔物に問いかける。
「私たちの顔に見覚えがあるというのは…
初めてこの部屋を訪れた人間と似ているということでしょうか?」
「そうじゃのう。確かにあの2人に似とるのぉ。特にお前はサブノックにソックリじゃ」
サロスを見ながら、不死の王は笑う。
禍々しい姿にも関わらず、愉快そうな明るい笑いである。
「お前は、どことなくハルファスに似とるが、シャックスの面影もあるのう」
不死の王の言葉に衝撃を受けるアマンとサロス。
特にアマンの驚きは、サロスの比ではない。
「父の名は出会ったときに聞いたのかも…でも、なぜ母の名まで…」
アマンが混乱している様を笑顔で見つめる不死の王。
「ふむふむ。やはりそうか。そうかそうか、あの2人が結ばれたか」
嬉しそうに相好を崩す不死の王。
さすがにパーティーメンバーの心の中にも、目の前の魔物に対する疑問が沸いてくる。
掠れる声でアマンが問う。
「あなたは…一体何者なのですか?!」
柔和な表情を崩さぬまま、不死の王が応える。
「わしか?わしの名は、ベルル・アルバス。今は、この部屋の守護者をしとる」




