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第64話 避難部屋

翌朝、女将に弁当を差し入れてもらった一行は、まず道具屋に向かった。


流石は冒険者の町である。


朝早くから迷宮へ挑む者たちのために、早朝にもかかわらず開店していた。



「ねえ、ちょっといいかしら?」


シトリーが道具屋の主人に声をかける。


「おや、シトリーさんじゃないですか。随分、ご無沙汰ですね」


「まあ、いろいろあってね」


エルフの外見を活かした魅惑的な笑みを浮かべる。


「外面は最高に良いのう」


ムラマサが小声でつぶやく。


「うるさいっ!」


聞こえてしまったらしく、シトリーも小声で怒る。



「で、今日はどのような品をお求めでしょうか?」


主人が商人らしい笑顔を浮かべながら問う。


「今回は、避難部屋セーフティーゾーンで一泊する予定なの。


それに必要な道具を一式用立てて欲しいの」


「5人様分ですね。かしこまりました。少々おまちください」


目ざとくパーティメンバーの数を確認していた主人がそう言って奥へひっこんだ。



しばらくすると、肩からかけられる大き目のかばんを5つ持って出てくる主人。


「だいたいの物は、こちらのかばんに入れてあります。


他に特別なご入用のものはありますか?」


「いえ、特にないわ」


「おい、中身を確認しなくてもいいのか?」


主人とシトリーのやり取りを聞いていたサロスが尋ねる。


「馬鹿ね。下手な冒険者よりもこの人のほうが必要な物はわかってるのよ」


「伊達に長年イボスで道具屋を商っているわけではないですから」


そう言って、主人が笑う。



「そいつは野暮なことを聞いてすまなかった」


サロスが素直に謝罪する。


「しかし、今度はまた変わったお仲間と潜られるんですね?」


商人の目は、油断なくメンバーの観察を怠っていない。


「ええ。でも、これまで以上に頼りになるメンバーよ」


「そうですか。シトリーさんがそのようにおっしゃるなら相当なものですな。


皆様も今後とも、ご贔屓にお願い致します」


そういって、皆に頭を下げる主人。


「御代は、どのくらいかしら?」


「銀貨10枚で、どうでしょうか?」


主人の言葉に、シトリーがシナを作って答える。


「銀貨8枚でお願い」


美貌のエルフが放つ最高に艶やかな笑顔に主人が負けた。


「わかりました…銀貨8枚で承ります。


そのかわり、またのご来店をお願いいたしますよ」


「ええ、もちろんよ」


最高の笑顔で代金を渡すシトリー。



アマンとサロスは、このやりとりに呆気にとられていた。


彼らは元々貴族の子弟であり、現在も金に困っていない。


値引き交渉など見たことがないのだ。


「シトリーさん。今の交渉術はどのようにして学ばれたのでしょうか?」


生真面目に質問するアマンに、ムラマサが茶々を入れる。


「こやつは、いつもセコイだけじゃわい」


「黙れ、髭だるま!こういった細かい財布の管理も冒険者の技術の1つよ!


あなたたちはお金に困ってないかもしれないけど…


それでも、ボーっとしてると大切な時にとんでもないボッタクリに合うから気をつけなさい」


黙ってコクコクと頷くアマンとサロスであった。




皆で今買ったばかりのかばんを背負い、迷宮へと向かう。


冒険者の必需品だけあって、かばんを背負っていても動きが阻害されない。


そのことに一頻り感心し通しのアマンとサロス。


それを子どもを見るかのように、シトリーが微笑ましく眺めていた。



そんな緊張感に欠ける状態ではあったが、予定通り昼には第5階層に到達した。


火竜との戦を経て、さらに力が上がっていることが自分たちでも実感できた。


魔人たちを事もなく撃破しながら、第5階層にある避難部屋セーフティーゾーンを探す。


とはいっても、人側が作った迷宮である。


どの階層でも同じ法則性のもと設置されており、すぐに逃げ込めるように設計されている。


ほどなくして、第5階層にある避難部屋セーフティーゾーンを発見した。



シトリーとムラマサが慣れた様子で中へ入っていく。


続いて恐る恐る他の3人が続いて中へと入っていった。



中に入り、扉を閉め閂をかける。


避難部屋セーフティーゾーンの広さは、かなり大きくとられていた。


複数のパーティーが利用することを想定しているのであろう。


当然、最深部の避難部屋セーフティーゾーンに先客などいない。


広々とした空間をアマンたちが貸切にすることとなった。



シトリーとムラマサは、さっさとかばんの中から寝袋などを出し休む準備に入っている。


他の3人も慌てて、それに見習う。


アマンは、そんなシトリーとムラマサの冒険者としての貫禄に安心感を覚えていた。


女将の手作り弁当を皆で平らげると、早々に寝袋へと入ることとなった。


5人がそれぞれ横になったところで、アマンが声をかける。


「シトリーさん、ムラマサさん。私たちのパーティーに入っていただき、本当に感謝してます」


「な、なんじゃ?突然!?」


「そうよ!気味の悪いことを急に言わないでよ」


長命の妖精族2人が照れている姿は滅多に見れないと思いつつ、アマンは言葉を続けた。


「こうした何気ないことですが、私たちだけでは身に着けるのに時間がかかったと思います。


お2人にとっては冒険者の常識かもしれませんが、私たちには本当に勉強になります」


「まあ、あなたたちは規格外だからねえ」


「そうじゃのう。こんなことは、第2階層辺りの探索で身に着けることじゃからなあ」


2人は苦笑いしながら答えた。


「なあ、まだ寝るには早いだろ?


せっかくだから2人が魔石の部屋を目指す理由をそろそろ教えてくれよ」


そんな2人にサロスが問いかけた。

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