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第63話 初志貫徹

温かな日差しの中、アマンたちはイボスに向かう馬車に揺られていた。


ポカポカとした陽気と響き渡る蹄の音に眠気を誘われる一行。



そんな中でサロスが声を上げる。


「火竜も住処としては、あそこを気に入っていたんだろうな」


そんなサロスの声にアマンが答える。


「そうですね。暴れた形跡もありませんでしたからね。


一応、アイロニア領のドワーフたちが設備を点検するようですが」


そういって、アマンは傍らにいるムラマサに目をやる。



「まあ、問題ないじゃろうな。


呼ばれていたのは、鉄の国でも選りすぐりの鍛冶師たちじゃ」


そういうムラマサの言葉に、アマンが問いを投げかける。


「点検と言っても古代魔法王国の遺跡です。


いくらドワーフといっても、初見では手に余る技術でしょう。


もしかして、専門の職人が昔からいたのではないですか?」



アマンの問いに、眉根を寄せたムラマサが再び口を開く。


「お前さんの思っている通りだろうよ。


昔から特殊な設備を受け持つ一族がいたのは事実じゃ。


それこそ古代魔法王国の時代からいたのかもしれん」


「であれば万が一の場合、修復もできるのでしょうね。


とりあえず遺跡の設備は万全の状態に仕上げてくれることでしょう」


アマンがそう言って、にっこりと笑う。



現在、アマンたちがイボスに向かっている理由は会話の中にある。


サリードの魔道具を新たな熱源として利用する。


これをアイロニア領主ドエルに伝えたところ、設備の点検を申し出られたのだ。


鉄の王と呼ばれたドエルは、火竜の遺跡についても既に知っていたのだ。



国王サブノックから新たな方針を伝えられたドエルの顔は一見の価値があった。


いつもは難しい顔をしている鉄の王が、いたずらが見つかった子どものようであった。


ドエルは殊勝な顔で、火竜の遺跡を秘密にしていたことを素直に詫びた。


その上で、新たな熱源への挑戦に感謝し、遺跡の点検を申し出たのだ。



そんなドエルの姿に、サブノックは笑いながら了承の意を伝えた。


こうして火竜の遺跡の復旧は、点検の後に行うことが決定した。


点検には時間がかかるということで、アマンたちは一旦イボスに戻ることにしたのであった。


その目的は、課題としていた第5階層の完全攻略である。



久しぶりに緩やかな時間の流れに身をまかせ、そんな会話をしていたアマンたち。


そうこうしていると次第に見慣れた光景が目の前を流れていく。



しばらくすると、アマンたちの馬車がイボスの外壁へと辿り着く。


「なんだか懐かしく感じるな」


サロスの言葉にアマンも同意する。


「そうですね。そんなに離れていたわけではないのですが」



王室が用意した馬車を降りたアマンたちは、御者に礼を言って街へ入る。


言葉を発しはしないが、シトリーやムラマサも感慨深そうに街を見回している。


一行は最初の目的地に、迷わず『夕暮れの子山羊亭』を選んだ。


まずは旅の疲れをとるためである。



再会を喜んでくれた女将に、またしばらく逗留する旨を伝え、前金を渡す。


それぞれの部屋に荷物を置くと、ちょうど夕餉の時間である。


そのまま食堂に集合した一行は、夕食の注文をする。



用意が既にできていたのか、すぐに湯気をたてた食事が出てくる。


久しぶりの女将の料理に舌鼓を打ちつつ、皆で明日の予定を確認する。



いよいよ魔石の部屋への挑戦とあって、皆一様に神妙な顔をしている。


「これまでは日帰りで迷宮探索を行ってきました。


しかし、魔石の部屋に挑むに当たっては、迷宮内で一泊する必要があるでしょう」


アマンの提案にベテランの2人も答える。


「そうじゃの。誰もが未知の領域じゃから、慎重になって損はあるまい」


「魔石の部屋の手前にも避難部屋セーフティーゾーンがあると聞いたことがあるわ。


第5階層の避難部屋セーフティーゾーンを探す時間もとる必要があるわね」



避難部屋セーフティーゾーンとは、その名の通り魔物に襲われない部屋である。


各階層をつなぐ階段から少し離れた位置に設置してある。


魔物は魔石の部屋で生まれ、より強い魔物に追いやられて上層へと移ってくる。


そのため、階段近辺は魔物との遭遇率が高い。


上層では追われた魔物が現れ、下層では追ってきた魔物がいるからである。



上層に追われた魔物は、階段から真っ直ぐに逃げていく傾向にある。


そのため、避難部屋セーフティーゾーンは少し逸れた位置に設置されている。


その場所は、行き止まりで魔力の流れも悪いため、魔物が訪れる危険が低い。


また、偽装された扉も設置されており、見た目には部屋の存在がわかりにくい。


仮に気づいたとしても、わざわざかんぬきを破壊してまで中に魔物が進入することはない。



アマンたちの探索速度は異常に速いため、これまで第5階層であっても日帰りが可能であった。


しかし、一般の冒険者たちでは、それは不可能である。


そこで、挑戦するひとつ上の階層の避難部屋セーフティーゾーンで休み事が鉄則とされている。



魔石の部屋の攻略を目指すパーティは、現在皆無である。


そのため、あまり知られていないが魔石の部屋の手前にも避難部屋セーフティーゾーンはある。


設計者が魔石の部屋を次の階層と同様に考えて設計したためである。


その稀少な情報を知っている辺りが、シトリーの経験値を物語っている。


シトリーの言葉の反応を見る限り、どうやらムラマサもその存在を知っているようだ。



「では、朝方に宿を出発し、昼頃までに第5階層へ到着。


そのまま、避難部屋セーフティーゾーンを探すという方向でいきましょう」


アマンの言葉に、サロスが付け加える。


「っていうことは、今回はお泊りセットも持参しないとな」


「そうですね。迷宮に行く前に道具屋で一通り揃えましょう」


アマンの言葉に皆が頷き、この日の打ち合わせは終了した。


そして、明日に備えて早々に自分のベッドに向かうのであった。

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