第62話 新たな課題
復興事業の拠点となっているラプラスの街。
そこに設置された国王の仮の執務室に、アマンたちは謁見を申し出ていた。
「殿下の初陣、見事に勝利で飾れたことにお祝いを申し上げよう」
ハルファスの言葉に、サロスが苦々しい顔をする。
「今回の戦での俺の采配は間違っていた。
上手く勝てたのは王都守備隊に所属する将兵たちのの錬度の高さと左翼を担った指揮官のおかげだ」
「ほお」
サロスの言葉に、サブノックがニヤリと笑う。
「親父たちもわかっているだろう。
今回、俺が陣の配置をミスしたせいで、右翼を突破され後方を見事につかれた。
普通であれば、負け戦だ。それを左翼の部隊が見事に対応してくれただけだ。
左翼を指揮していた者には、褒美を是非与えてやってほしい」
サロスが苦しげに吐いた言葉に、サブノックは頷く。
「そこまで自分で理解しているならば、俺たちからは何も言うまい。
左翼の指揮官には、お前からということで褒美を与えることとしよう」
サブノックの言葉に、ハルファスが続ける。
「なんにせよ、主犯2人を含めて反乱軍を殲滅できたのは大きいのである」
そのハルファスの言葉に、アマンが応える。
「しかし、結果としてはサリードの思惑通りになってしまった面がありますね」
「どういうことだ?」
アマンの言葉にサブノックが問う。
「彼らの拠点は焼け落ちましたが、その後の捜索で地下室を発見しました。
そこで、サリードの研究ノートのようなものを見つけました。
目を通してみましたが、そこには今回の一連の動きに関する目的と研究成果が記されています」
「それは興味深いものを見つけたな。どのような内容か説明してくれたまえ」
ハルファスの言葉に、アマンが応える。
「まず、一連の行動に関する目的ですが、ノートの最初に記されていました。
発端は帝国滅亡とその後の自身の不遇からの恨みで、大陸全てへ復讐を果たすつもりだったようです。
そのために、彼はある魔道具を製作していたようです。
すでに、その魔道具は完成されており、彼が優秀な錬金術師だったことが良く分かりました」
「どのような魔道具だったのだ?」
ハルファスが先を促す。
「はい。それは、魔界と彼が呼ぶ異世界の炎を召喚するための道具です。
起動に莫大な魔力を必要とすることから、大陸中で殺戮を行い、それを生贄にしようとしていたようです」
「なるほど。異世界の炎か。確かに魔人が扱う黒い炎は異質であったな」
「ええ。どれだけ優秀な魔道師が生み出した高温の炎よりも熱く、燃え尽きることはありません。
術者の意思で消すことはできるようですが、魔道具はそれを暴走させる意図で設計されています」
「それは危険な代物だな…さっそく封印の手続きをとろう」
サブノックの言葉に、アマンが待ったをかける。
「陛下。それは少しお待ちください。
先ほども申し上げましたが、現在、結果としてサリードの思惑通りになってしまった面があります。
それは、大陸における経済活動の破壊です。
アイロニア領における特殊鉱石の精錬が、今回の火竜解放で行えなくなりました。
これはアイロニア領の輸出による収入を大きく損ないます。
同時に、アイロニア領へ輸出していたエンパイア領の鉱石の輸出による収入もなくなります。
この経済的損失は、食糧の輸出入を介して大陸全土に渡り、現在の経済活動が麻痺すると考えます」
アマンの言葉にハルファスが応える。
「そこまで気づいていたのであるな。成長したお前の分析に関して、親としては嬉しい。
が、お前の言う通り、王国としては確かに大きな痛手である」
「そこで、これまで火竜が担っていた溶鉱炉の原動力としての働き。
これをサリードが開発した魔道具で代替できないかと考えております。
これが成功すればミスリルどころか、今まで扱えなかった特殊な鉱石の精錬も可能になります。
それが可能になれば、アイロニア領の収入の拡大とエンパイア領の収入の拡大が見込めます。
そして、その経済効果は食糧の輸出入を介して大陸全土に渡り、王国全体の経済力の向上に資するでしょう」
「アマン、お前の話は良く分かった。それにお前の献策による利益も計り知れないだろう。
しかし、そもそもサリードの魔道具を起動することができるのか?
王国全体の経済力の向上を天秤にかけても、俺は国民の命をそのようなものの対価にすることはできん」
サブノックが厳しい声で断言する。
「陛下の仰るとおりです。
無辜の国民の命と引き換えにするくらいであれば、違う方策を探るべきだと私も思います。
しかし、違う方法があるとしたら、それは挑戦すべきことだと考えています」
「何か当てがあるのかね?」
アマンの言葉に、ハルファスが疑問を投げかける。
「あります。しかし、ここで具体的なことは申し上げることはできません。
ただ、国民に害をなすようなことではないとはっきり申し上げておきます」
ハルファスとサブノックが、困惑の顔で目線を交わす。
「危険はないのだな?」
サブノックの確認に、アマンが答える。
「私自身の身の上には多少危険があるかもしれません。
火竜の力を利用していた施設を再利用するつもりなので、発動の場所も人里離れております。
最悪、私1人が命を落とす程度の危険です」
「勝算はあるのか?」
サブノックの問いに、笑顔でアマンが答える。
「十分に!」
再度、ハルファスとサブノックが目線を交わす。
サブノックは大きく頷くと、アマンに言う。
「分かった!お前に任せる!
ただ、くれぐれも死ぬような真似はするなよ!」
「かしこまりました!お任せください」
アマンは、力強く宣言するのであった。




