第59話 対陣
サイラスの街から半日ほど東進すると、開けた草原が見えてきた。
草原の中央を横断する形で川が流れており、何もなければ長閑な風景であったであろう。
討伐軍が川を視界に収めた頃、サイラスでの軍議が無駄となったことを知る。
全てが無駄というわけではないが、サイラスで頭を悩ませる必要はなかった。
サイラスの街に討伐軍が逗留している情報を得たからであろう。
川向こうには、サリード軍と思わしき軍勢が陣を構えていた。
その数、およそ300。
予想通り、いや予想以上の動きである。
彼らは守る気など一切なく、全軍で打って出ているのである。
「サディアスの言葉ではないが、死に場所を探しているようだな」
サロスが1人つぶやく。
その言葉を聞いたサディアスが答える。
「しかし、ただ殺されにきたわけではないようですぞ」
「確かに、川を挟んでの対陣ですからね。
最初から負けるつもりのわけではなさそうですね」
サディアスの言葉をアマンが引き継いだ。
川が遠くに見える小高い丘の中腹で小休止をとる討伐軍。
さっそくサロスたちは、軍議に入る。
「あれだけの川幅があれば、無理に渡河している最中に魔法や弓矢で大きな被害を出すな」
サロスが第一声を発する。
「加えて、地の利は向こうにあります。
おそらく無理なく渡河できる浅瀬の場所を知っているのでしょう」
サロスの言葉にアマンが応えた。
「正面から真正直にぶつかるのは愚作ですな」
サディアスも同意を示す。
「更に言えば、サロスの言っていた言葉は合っていたかもしれませんね。
本拠地から離れた場所での合戦。
撃退できれば、それで良し。敗戦濃厚ならばサリードは自身のみ逃げるつもりでしょう」
アマンの言葉に、皆が頷く。
「やはり当初の予定通り、ここから先はアマンたちと別行動としよう」
「それが一番良さそうですね」
サロスの言葉にアマンが同意する。
「さて、大将首はアマンに任せるとして、この戦場をどう攻略するかだな」
そう言って、サロスが彼方に見える川を眺める。
「2つに部隊を分けられてはいかがか?」
サディアスから献策がなされる。
「というと?」
「本体500兵は、このまま川を挟んで対陣致します。
別働隊500兵が、ここから気づかれぬよう上流へ向かい、密かに渡河します」
「なるほど。戦が始まるまでは上流で待機し、開始とともに敵陣を横から突くのですね?」
サディアスの献策にアマンが納得の声を上げる。
「となると、開戦からいち早く駆けつけてもらわねばならんな。
では、別働隊は騎馬隊を中心に組むようにしよう。
本体は歩兵を中心に、序盤は敵勢の渡河を最優先に阻む」
サロスの言葉に、アマンが付け加える。
「万が一、別働隊が渡河しても敵陣に動きがない場合に備え、突撃の合図を決めておきましょう」
「よし!これで、今回の作戦は決定だ!皆の武運を祈る!」
サロスの言葉で、軍議は終了した。
軍議の決定に従い、速やかに部隊編成を行う討伐軍。
編成が整ったところで、先行して別働隊が北方にある上流へと向かった。
本体は、しばし小休止を続け、兵たちに食事を取らせる。
その様子を確認したところで、アマンたち一行が南方の下流から渡河を試みるべく出発する。
「大将首は任せたぞ」
見送るサロスが厳かに告げる。
「承知致しました、殿下」
アマンもこれを受け、厳粛に答える。
別働隊とアマンたちが出発してから半日が経ってから、討伐軍本体も移動を開始した。
川岸に到着すると、敵方の布陣は鏃のような形をした鋒矢の陣である。
予想通り、渡河可能な場所から駆動性を維持したまま一気に攻めるつもりなのであろう。
一方、討伐軍は渡河可能な場所がわからないため、鶴翼の陣をひく。
敵方が渡河して場所を両翼の間に迎え入れ、同時にそれを閉じることで包囲・殲滅する構えである。
両陣とも布陣を終えたところで、帳が下りた。
川を挟んで、かがり火が焚かれる中、翌日の決戦を控えた異様な静寂が辺りを包むのであった。
結局、互いに夜襲をかけることなく、戦場に静寂が保たれたまま日が昇る。
明るくなると同時に、両陣とも動きが活発となる。
討伐軍はどうしても受身の態勢となっており、相手の出方を伺っていた。
そこへそれまでの静寂を突き破るかのように、雄叫びを上げながらサリード軍が浅瀬を渡河し始めた。
討伐軍の布いた布陣のやや右翼の辺りから渡河が始まる。
これを見て、討伐軍から矢と魔法が放たれる。
中には攻撃をまともに受けて、川へと倒れる者もいるが、それにも構わず突進してくる。
敵軍の形作る鏃の先頭が届く前に、サロスは布陣を右翼側へと動かす。
しかし討伐軍の布陣が整う前に、敵兵の先頭集団が右翼の部隊に突っ込む。
サリード軍は、そのまま討伐軍の右翼を一点突破する。
討伐軍の布陣の後ろへ抜けたサリード軍は、その鏃の先端を鶴翼の底である本陣へと向けるのであった。




