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第58話 王子出陣

サロス率いる討伐軍1000兵は、サイラスの街にて兵站を整えていた。


その時間を使って、領主の執務室において此度の討伐に対する軍議が開かれていた。



「これ以上、いろいろと騒ぎを起こさせるわけにはいかないからな。


逃がすわけにはいかないから、ここは包囲殲滅に徹するほうが良いと思うがどうだろうか?」


サロスの提案に対して、アマンが答える。


「確かに逃がすわけにはいかないのですが、相手の砦を包囲するのはマズイと思います。


四方を均等に取り囲むと、各位隊は250兵となります。


相手の手勢が300兵であることを考えると、一点突破される可能性があります。


最悪、各個撃破されて自軍の損害が大きくなるかと」


「うぅん…。確かに、その考えも最もだな。


親父ももう少し多く兵を出してくれれば良かったのにな」


サロスのぼやきに、再びアマンが答える。


「その必要がなかったのではないでしょうか?


これまでの流れを考えると、相手はこの武力蜂起が最後の大戦になります。


砦に篭城するということはないのではないでしょうか?」


「3倍以上の軍勢に討って出てくるというのか?!」


「その可能性が高いでしょう。


真正面からぶつかる可能性を考えて、父上たちは我々に1000兵を預けたのかと」



2人の会話を満足そうに聞いていたサディアスが、ここで意見を挟む。


「僭越ながら殿下。私もアマンの言葉に賛成です。


伝え聞いたところ、相手方の軍勢は旧帝国貴族の集まりの模様。


私には武力蜂起というよりも、戦いでの死に場所を求めているように思えます」



「サリード・ドライ・エンパイアか」


サロスが、敵方の大将の名をつぶやく。


ジェイドが集めてきた情報は、敵兵の動きや位置だけではなかった。


今回、騒動を起こしている集団の素性や主犯格の特定等もなされていた。



その主犯格とされているのが、サリード・ドライ・エンパイアである。


サリードと言う名は、エイミーからも聞かされていたが素性まではわからないでいた。


ジェイドにより伝えられた情報には、サリードの詳細な素性も含まれていた。



サリード・ドライ・エンパイア。



流浪の賢者の異名をとった魔道師アルケニーの唯一の弟子である。


それまで一切弟子をとってこなかったアルケニー。


だが『錬金術師』という稀少な属性とその才能を買って、晩年になって弟子にしたとされている。



非常に寡黙な男で、アルケニー亡き後は冒険者として活動をしていたようである。


アルケニーの「民衆のために魔道具を開発する」という思想を受け継ぐことがなかったためである。



彼は単純に力を欲っしていたとされている。


それは、なぜか。


彼が帝国貴族の生き残りであり、帝国復興を果たすという野望をいただいていたから…


そう目されていた。


しかし、彼は普通の帝国貴族の生き残りではなかった。



ドライ・エンパイアの名が示すとおり、彼は帝国最後の皇帝の孫である。


5公家の取り決めにより、世襲ではなく各公家の持ち回りで皇帝は即位する。


そのため、皇帝の嫡男である第3公家当主スリードが皇帝になる可能性はなかった。


しかし第3公家の力は、帝国内では大きかった。


スリードの嫡男であるサリードが皇帝になることは規定路線となっていたのだ。



サリードは、生まれながらにして皇帝となる存在だった。


帝国の全ては、時間が経てば彼の物であり、そのように教え育てられてきた。


しかし、かの大戦により帝国は消滅する。



命からがら近衛の老兵とともに生き残ったものの、サリードの人生は茨の道と化した。


逃亡に次ぐ逃亡に明け暮れるうちに、サリードの心は荒んでいった。



学もあり頭脳も明晰であったサリード。


大陸が無事平定された今、帝国の復興など、もはや夢のまた夢であることを理解していた。



全てを奪い、自らの人生を狂わせた王国。


その憎き王国へ彼の怒りの炎をぶつけることでしか理性を保つことはできなかった。


否、理性は吹き飛んでいたのかもしれない。


彼の目的は、大陸そのものの破壊となっていたからである。


もちろん、そこには彼自身も含まれていた。



しばしの沈黙の後、サロスが発言する。


「しかし、サリードは優秀な魔道師だと聞く。


あのディアナとかいう魔道師もいるだろう?


ここを死に場所にしなくても、まだ暴れられるんじゃないのか?」


サロスの疑問に、アマンが少し考えてから答える。


「確かにサロスのいう可能性もありますね。


兵士たちは、ここを死に場所としているかもしれません。


しかし、彼らは逃げるかもしれない…」



アマンの言葉にサロスが返す。


「どうにも、俺はそんな気がしてならない。


自軍の配置としては、包囲ではなく対陣する形をとる。


一方で、サリードたちを逃がさないように少数精鋭の部隊を送る」


サロスの言葉にアマンも同意する。


「その作戦に私も賛成です。


少数精鋭ということであれば、私たちパーティが適任でしょう。


でも今回、この軍の総大将はサロスです。


陣から離すわけにはいきません。なので、私たちだけで向かいましょう」



自分も付いていく気であったサロスは、アマンの言葉に苦い顔をする。


しばし瞑目し、自身の立場を踏まえ考えをまとめる。


「悪いが、頼めるか?」


サロスは、目を開くと自分の仲間たちを一人一人見つめた。


全員が頷く姿に、申し訳なさそうにするサロス。


そこへサディアスが声を上げる。


「であれば、私が殿下の代わりに参りましょう」



少し不安な顔を覗かせて、アマンを見るサロス。


「そうさせてもらいましょう」


アマンの言葉を聞き、大きく頷くサロス。


「よし!討伐軍の方は俺に任せろ!


一番おいしいところは、お前たちに任せた!」


サロスの掛け声に、皆がそれぞれ了承のサインを出す。



こうして、軍議は幕を閉じた。


サロス王子が指揮をとる初陣へ向け、討伐軍がサイラスの街を出立する。

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