第54話 ジルコニア草原
ジルコニア草原は、アイロニア領の西方に広がっている。
草原の北側にはジルコニア山脈が連なり、この山々から鉱物が採れるため、近くに街や村ができていた。
山脈の西端には火口があり、時折噴煙が上がるものの、ここ数百年は噴火はしていない。
草原の豊かな緑のおかげで狩りに適した獣も多く生息しており、近隣の食糧源ともなっている。
しかし、この平穏なジルコニア地方には鉄の国の元王族しかしらない秘密があった。
それが、ジルコニア山脈の火口付近にある神殿である。
古代魔法王国の遺跡である神殿は、住民にもその存在を知られることなく管理されていた。
火口付近が危険という名目で、地元民も近寄らない神殿付近。
そこへ何人かの冒険者風の者たちが訪れたのは、最近のことである。
そんな場所へ人が踏み入ったこと自体、住民たちは知らないでいた。
その冒険者風の者たちが山脈を去ったあと、ジルコニア草原から一切の獣が姿を消していた。
近隣の住民は、獣が姿を消したことを不審に思ったものの、原因についてはわからないでいた。
しかし、その人々は数日後にその原因がなんだったのか、身をもって知ることとなった。
それは何の前触れもなく起こった。
突然、飛来した絶望の塊から炎が噴出され、街も人も全て焼き尽くされた。
火の手から難を逃れた人々は、その顎門によって喰らい尽くされたのだ。
人々は成すすべもなく、次々と街を蹂躙された。
現在火竜は、ある程度満足したのか住処へと一旦戻っている。
突然、絶望に満ちたジルコニア地方。
その広大な草原を見渡す小高い丘に、5つの天幕が張られていた。
草原からみて南方にある丘は、山脈から吹き降ろす風によって風下となっている。
風下にいる20名ほどの人間の匂いには、さすがの火竜も気づくはずもなかった。
5つの天幕には、討伐第2部隊が待機している。
国王サブノックと大陸の賢者ハルファスの天幕。
王国騎士団の天幕が2つ。
サイラスの冒険者とトロイが待機する天幕。
『魔弾』一行が待機する天幕だ。
第2部隊が先行して陣を張ったのは訳がある。
戦場となる地形の確認である。
今回の作戦の要は、火竜を地上戦に引きずり落とすことである。
そのため、ハルファスの放つ魔法を外すわけにはいかないのである。
夜半過ぎ、国王の天幕にアマンとサロスが呼び出されていた。
地形の確認も済み、問題もないことから、明日の朝には第1部隊も陣を敷く。
そんな大事な時に呼び出され、2人は緊張の面持ちで天幕の入り口をくぐった。
「良く来たな!サロス、ハルファス」
サブノックが優しい笑顔で声をかける。
「ご無沙汰をしております、陛下」
サロスが丁重に返答する。
「やめろ、やめろ。ここには家族同然の親子同士しかいねえんだから、堅苦しいのは無し!」
サブノックが、そう言って笑う。
ハルファスも一緒になって笑っている。
家出同然のサロスとハルファスは、苦笑いをする。
「父上、このようなタイミングでのお呼び出し。いかがなされましたか?」
気を取り直して、アマンが父ハルファスに問う。
「うむ、明日の作戦について伝えておきたいことがあったのだ」
「と言いますと?」
「明日の作戦の要は、私のアーティファクト『流星の杖』を使用した《隕石召喚》にある。
それは、わかるな?この初撃が成功するかどうかが戦局を大きく左右する」
「心得ております」
「私も大陸の賢者などと呼ばれてはいるが、《隕石召喚》は1発しか放てんのだ。
そこで、お前にも術式を教えておき、万が一の場合はアマン、お前もこれを使って《隕石召喚》を打って欲しい」
「なるほど、予備弾を作っておくということですね」
「その通りである」
「かしこまりました」
サブノックがここで口を挟む。
「後な、先輩冒険者としてイボス迷宮の第5階層の話をちょっとだけしようと思ってな」
いたずらっ子のような顔で、サブノックが笑う。
「それは助かります」
サロスが身を乗り出して答える。
「とはいっても、やはり自分の目で確かめるのも冒険者の醍醐味だ!
魔石の部屋については、1つだけヒントをやろう。
まず攻略するのは、1番左の部屋からにしろ。後はお楽しみだ」
そういって、ニヤリと笑うサブノック。
「はぁ、それだけですか?」
「それだけで十分なんだよ」
そう言って、サロスの肩をバンバン叩くサブノック。
「なんだか、見ない間に随分逞しくなったな」
そういって、またサロスの肩をバンバン叩くサブノック。
サロスが親子の会話をしている間、アマンたち親子は《隕石召喚》の術式を教授していた。
「あとは、お前の魔力次第であるな」
「それには多少自身がございますので、お任せください父上」
「お前も少し見ない間に逞しくなったものだ」
こちらも感慨深い目で息子を見やる。
サロスもアマンも、久しぶりの父との邂逅に気恥ずかしさを感じながらも懐かしい温かみを感じていた。
「用件は以上だ。お前らもしっかり休んで明日に備えろよ」
サブノックの言葉に頭を下げ、天幕を後にする2人。
外の少し冷たい風に、明日の激戦を思い、身を引き締める2人であった。




