第48話 遺跡の住人
強烈な白光が収まると、アマンたちの前に瀟洒な屋敷が1軒、草原の中に建っていた。
「あれが遺跡?なんかイメージと違うな」
サロスが、そう呟く。
「遺跡と呼ぶのは、古代魔法王国が残したものの総称だからのう。
中には、こんな屋敷や城もあるんじゃよ」
ムラマサが答える。
アマンの消耗を回復するため、その場で休憩していた一行。
しかし、その弛緩した空気を一変させる気配を全員が感じる。
あまりに強大な魔力…そして禍々しい気配…
それを相手は隠そうともしていない。
やがて、ソレは屋敷の扉を開けて出てきた。
ローブ姿のソレは、遠目には人に見えなくもない…
しかし、人とは絶対に相容れない禍々しさを全身から放っている。
「不死の王か!?」
サロスの声にシトリーが答える。
「違う!あれは…」
そんな会話の間に、ゆっくりとソレは近づいて来る。
アマンたちは、その迫力に動けずにいた。
その間にも段々と姿がはっきりと見えてくる。
しかし、ソレは決して人の姿ではなかった。
…スラっとした肢体と美しい容姿にも関わらず禍々しさが溢れる青い肌…
…金色の瞳の中にある縦長の瞳孔…
…そして…耳の少し上から生えている黒い角…
「…あれは悪魔王じゃ!」
ムラマサが絶望に似た声を上げる。
「どうした、客人よ?
我が結界を破った者がいるならと、わざわざ出迎えにきたが…
手土産も無しでやってくるとは、不調法な奴らよ。
まあ、良いわ。
代わりに我へ、その絶望と苦痛にまみれた魂を捧げよ」
ニヤリと笑った悪魔王が、アマンたちへ手をかざす。
背筋に冷や汗をかきながら、全員がようやく我に返る。
急いで回避行動をとるアマンたち。
それまでアマンたちがいたところに、巨大な爆炎がたち上がる。
アマンたちを追い立てるように次々に巨大な爆炎が襲う。
直撃をさせる気がないように思えるが、致死的な高位魔法を連発していく。
…そう、アマンたちをまず恐怖させることを目的としているのである。
「久しいな、この美味なる感情…もっとだ、もっと捧げろ!」
地形が変わるほどの爆発が相次ぐ。
「だめっ!魔力が強すぎて風精霊たちじゃ、抑えられない」
そう叫んだシトリーを爆炎が襲う。
直撃を避けたものの、爆風でシトリーが吹っ飛ぶ。
その間に、アマンはなんとかムラマサとエイミーの武器に魔力を付与する。
それに気づいたムラマサとエイミーが、悪魔王へと突っ込む。
「ほお、臆しながらも向かってくるか」
悪魔王が笑いながら、魔力盾を展開する。
攻撃できたものの薄紫色の淡い光が出ただけで、ムラマサの戦斧とエイミーの双剣が弾かれる。
風系の魔法であろう…衝撃波が放たれ、2人とも吹き飛ばされる。
その一瞬の隙をついて後ろに回ったサロスが、聖光をまとった剣を薙ぐ。
悪魔王が初めて回避行動をとる。
サロスの剣は、悪魔王のわき腹をかすめただけで致命傷には至らない。
しかし、その傷からは白煙が上がっていた。
忌々しげにサロスを睨むと、悪魔王が再び衝撃波を放つ。
先ほどよりも強い衝撃波に、サロスが鎧をへこませながら吹っ飛んでいく。
そこへアマンが全力で放った炎柱が悪魔王を襲う。
しかし、悪魔王の衣服を焦がすこともなく抵抗されてしまう。
「さて、もう少し濃い絶望と苦痛を堪能させてもらうとするか」
悪魔王がそう呟くと、体制を立て直そうとしていたムラマサに爆炎が直撃する。
苦痛の絶叫を上げるムラマサ。
「よいぞ、よいぞ!久しぶりの美味じゃ!」
悪魔王が満足そうに笑う。
続けざまにエイミーに雷撃が襲う。
紫電の直撃を受けたエイミーが、その場に倒れこむ。
エイミーの姿を見たアマンが怒りの咆哮を上げながら、土の槍を乱射する。
アマンの放った土の槍を魔力盾で防ぎながら、嘲笑う悪魔王。
土の槍の弾幕が次々と着弾するが、魔力盾に淡い光をたくさん発生させるだけで砕けていく。
その時、嘲笑っていた悪魔王の顔が不機嫌そうに変化した。
シトリーが土の精霊を全力で使役して、悪魔王の膝から下を岩で固めたのだ。
その隙を逃さずサロスが肉薄する。
悪魔王は土の精霊をすぐに振り払うが、土の槍の弾幕でサロスの接近に気づけなかった。
一閃 ―――
聖光を纏ったサロスの剣は、悪魔王の胴体を真っ二つにする。
白煙を上げながら、地面に倒れ落ちる悪魔王の上半身。
サロスは、そのまま剣を悪魔王の顔面に突き立てる。
地面にまで突き抜けた剣の周りから白煙が上がる。
それでも、まだ何かしようとする仕草を見て、サロスは剣を力任せに振りぬく。
頭蓋骨を真っ二つにされた悪魔王は、そこでようやく動きを止めた。
さきほどの衝撃波のダメージで膝が笑っているサロス。
すぐに座り込みたい気持ちをこらえ、剣を油断なく構えなおす。
しばらくして、悪魔王の全身が解けるように消え去るとようやく剣を下ろした。
サロスはそれでも座り込まず、足をひきずりながらムラマサの下へ向かう。
身体を酷く焼かれているが、まだ息があった。
急いで回復魔法をかけるサロス。
ムラマサの呼吸も、荒いものからゆっくりとしたものに変わった。
続いて向かったのは、エイミーの下である。
アマンに抱きしめられているエイミーにも回復魔法をかけると、静かに目を開けた。
シトリーを見やると精神力を使い果たして倒れているが、重傷ではないと判断する。
ようやくサロスも地面に座り込み、自身にも回復魔法をかけ、仰向けに寝転がる。
しばらくは、誰も動けなかった。
あまりにもダメージと疲労が大きかった。
日が落ちたので、比較的余裕があったアマンとサロスが簡単な野営の準備をする。
焚き火の近くに全員を寝かせ、自分たちも傍に座る。
「とんでもない化け物だったな…」
「恐ろしいほどの魔力量でしたね…
あんな大魔法を途切れなく放ち続けるなんて…」
サロスと話しながら、ふとアマンは悪魔王が消えたあたりに目をやる。
すると、首飾りが1つ落ちていた。
おそらくアーティファクトであろう魔力を感じ、首飾りを拾ってくるアマン。
「このアーティファクトが関係しているのでしょうか?」
「さぁ…まあ、明日あの屋敷を探してみれば正解が見つかるかもな」
朝方までアマンとサロスで寝ずの番をしていた。
暁を迎える頃になり、シトリーとエイミーが起きてきた。
見張りを交代してもらい2人も仮眠をとった。
昼頃になって、ようやく全員が起きた。
みな一様に、安堵の表情を浮かべている。
「せっかくあんな化け物まで倒したんだ。屋敷の探索をしておこうぜ」
サロスの言葉に、緊張と集中した顔に変わる一同。
焚き火を消し、古代魔法王国の遺跡である屋敷へと向かった。




